飽きた
昔を思い出す。酷く世界を恨んでいた。
今になって下らないことを考えたと思う。
こうなることは知っていた。だからあの頃の
自分は今日の日の僕を嫌っていた。
世界に滅べと願っていた
退屈だった。何もかもが思い通りになると言ったら大袈裟だけど、少なくとも予想を大きく越えることはなかった。
僕は記憶の為にある。だから脳に上限はなかった。学習を重ねれば大抵のことは理解出来るようになる。そのせいで、僕の命は刺激を感じなくなっている。
善いこと悪いこと世界の救済じみたことや身の毛もよだつ残虐にも手を染めた。今やどんな事を前にしても時計の秒針を永遠と眺めているような感覚だ。
身を引き裂くような衝動が体内で蠢く。何かを求めている。それが何かは分からないが、それが無いだけで心がどうにかなりそうだ。
どうやったって見つからないそれというのは、実際は存在しないのかもしれない。だからいい加減焦れた僕は賭けに出た。
普段は実存しない不死の権利を取り出し、破壊した奴に全財産を渡すと世界に言い放った。自分でも趣味が悪いと思うが、これが蟻の行列を眺める程度には面白い。
僕の求めるそれが見つかったのなら取り止めるつもりだが、見つからなければそれでも構わなかった。百か零か。
数週間、僕は何時もより若干楽しい日々を送った。まぁ、それまでの話だったけど。
深紅のクリスタルは僕の手の中で笑うみたいに転がる。それを眺めていたら余計につまらない気分になってきた。
僕はクリスタルを道へと放り投げた。壊そうと思わなければ壊れるものじゃない。自動車に踏まれたってどうってことはない。
クリスタルを拾った人で遊ぼうと暫く道に転がるクリスタルを眺めると、スーツ姿の目が虚ろな男がそれを拾った。
「ねぇ、社畜っぽいそこの君」
「…ぽいじゃないさ。」
声を掛けた草臥れたスーツが雰囲気に良く似合う男は自嘲気味に答えた。何処にでもいる退屈そうな人間だった。
まぁいい、こいつで遊ぼう。
「君に三つの逃げ道をあげるよ。一つは痛みなく殺してあげる。この注射器でプスリとされれば楽になれるよ。もう1つは僕の全財産を受け取って仕事から解放される道、今働いてる会社の上司全員に餓死するまで公道で裸踊りさせられるくらいの権力は手に入れられる」
「はぁ…あ…おたくアレか。世界の天辺とかいう」
「そうそう。それで最後ね。その深紅のクリスタル。それ割ると世界が滅ぶ。」
僕は男へとクリスタルを放り投げた。
「はぁん…じゃあ、バキッと。」
深紅の破片が世界へと飛び散り、世界の終わりが始まった。男は無表情で手のひらを見つめていた。
「…わお、信じられない話だったかな」
「いや、世界は滅べばいいと思ってた」
男の言い草に僕は久しぶりに笑い声を上げた。僕もそう思っていた気がする。そう思った。
「意外だ、退屈な人だと思ってたのに存外面白かった」
「いや、逆さ。世界が退屈なのは自分が退屈だからと言うだろう?飽きた玩具はそうそうに投げ出すタイプなんだ」
世界が色を失う。形を失う。意味を失う。
退屈な玩具は僕の手からようやっと離れていった。
勘違いばかりだ。それで世界の多くは
成り立ってる。過程のない存在なんていない
だから、自由なんて存在しないと理解した。
未だに自由がないことを信じきれない