殺した
誰も彼もが憎くなる。優しい誰かを
忘れているのは知っている。
それでも世界に滅びろと口が開く
俺は間違っていない。殺すことは正しいことだった。間違いは正す必要があった。
醜い奴等が何もかもを汚すのが許せなかった。世界は美しかった筈なんだ。俺が愛したものは美しかった筈なんだ。
一体何時からだ?愛するものだけで世界を造ったつもりだった。狂うはずがないものだった。
焼けた土と焦げた空気の臭いが鼻を擽る。気分は最悪だった。苛立ちと憂鬱、それと絶望が頭を支配する。
不死の権利が手元に見える。目の冴えるような真っ赤なクリスタルに自分の厳めしい顔が映った。
もう二度戻らない。俺がそうした。きっと上手くいく、信じた道の末が今だ。ならばいっそ、そんな考えが脳裏から離れない。
意識が朦朧としたまま爆心地から離れるように歩く。何もない。食い縛った歯が痛い。何もない。
確かこの辺りだった筈だ。たどり着いたのは俺の世界を造ることにしたきっかけの場所。優しく暖かい場所だった。
気にくわない奴なんかもいたが、ああだこうだと言い合った掛け合いも何だかんだと楽しかった。もう戻らないことは覚悟した筈だった。
何もない。食い縛った歯が痛い。何もない。
ふと腑に落ちた感覚がした。別れの挨拶をまだこの場所にしていなかった。永遠にこの場所を続かせる、そんな妄想をしていたせいだ。
気付いた。手に持った不死の権利の行方にだ。自然と口が開く。
「ごめん…ごめんなさい。さよならを言い忘れてたみたいだ。初めてでさ、あんなに幸せだったの…。ずっと皆と居たかったんだ。それが出来ないって気付いて…怖かった。最期だから…最期にするから…さよならと言わせてください。」
何もない。自分勝手な声が聞こえる。
「さよなら」
何もない。何もない。もう何もない。