2回目
田城聡美の予言から3週間が経った土曜日。
朝食を食べながら、ふと思い出す。
私は彼女が言った事に半信半疑だったが
3週間が経つ間にこの前の青年は1度も現れなかった。
家を出て車を運転している時も
田城さん何者?などと考えながら車を走らせ
いつも通り20分で職場に着いた。
ロッカールームで着替えていると
予言者、田城聡美が入ってきた。
彼女は私の存在に気づき顔を見るなり
ニヤリと笑った。
いつもの得意げな顔で鼻歌を歌いながら
着替え始めた。
特別話しかけてくるわけでも無く
身支度が終わると出て行った。
私は彼女の鼻に付く感じが少し苦手だ。
だが、彼女自体が嫌いという訳ではない。
壁に掛けてある時計に目をやる。
朝礼まであと4分。
田城さんに気を取られ着替え途中だったことに
気づき、そそくさと着替え朝礼に向かう。
朝礼が終わり、それぞれの担当フロアに向かった。
時刻は10時になり、開店の時間になる。
今日は善岡沙希と田端祐美と田城聡美と私だ。
レジカウンターの中で立っていると
隣に田城聡美が来た。
「涼子ちゃん、期待しておきなさい!
絶対に来るから」
田城さんの自信と熱に言葉も出ない。
開店から10分程して
土曜日ということもあり、レジに客が並ぶ。
普段より忙しくなった。
商品の梱包や客の対応に追われて
彼の事などすっかり忘れていた。
そんな中、聞き覚えのある声がする。
「これ、下さい」
思わず顔を上げる。
この前の彼が目の前にいた。
田城聡美の予言が的中した。
その事に気付き、つい大きな声をあげてしまう。
「あっ!!」
周りにいた客や店員が一斉にこちらを見る。
青年は驚いた顔をしていた。
田城聡美が駆けつける。
「りょ、涼子ちゃん!声が大きいよ!」
田城聡美に言われてハッと気付き
慌てて頭を下げる。
「失礼しました!こちらを何パックですか?」
青年は少し困った感じに答えた。
「じゅ、10パックで」
そそくさと商品を持って
レジまで行き会計をする。
その最中は青年の顔を見れなかった。
商品を渡して青年は帰っていった。
12時の鐘がなり、昼休みになる。
従業員の控え室で昼食を
それぞれが食べている。
1人で食べていると田城聡美が隣に座る。
すると、顔をグッとこっちに近づけて言ってくる。
「ほら!来たでしょ!」
私は適当にあしらうように返す。
「確かに来ましたね」
田城聡美は私のリアクションに
少し残念そうな顔をしたが
またいつもの自慢顔をする。
「分かった。涼子ちゃん、さっきの大声出した事引きずってるんでしょ!
なるほどね〜だから、反応が薄かったのね」
田城聡美の言うことは的確で図星だった。
返す言葉も見つからない。
私たちが話していると
善岡沙希と田端祐美も入ってきた。
2人が私の前の席に座る。
善岡が少し困り顔で言う。
「涼子さん、さっきはどうされたんですか?
突然大きな声を出されたので驚きました」
田端も不思議そうな顔で聞いてくる。
「さっきは本当に驚きましたよ。何かあったんですか?」
質問責めの私は1ずつ処理する事にした。
「さっきは大声出してごめんね?
まぁ、ちょっとね。
田城さんの予想が当たったというかなんというか」
田城聡美は珍しく優しい言葉を言ってくる。
「あれは私もびっくりしたし
そういうこともあるよ。
でも、私の予想当たったでしょ?」
相変わらずの自慢顔だ。
「何か理由があるんですか?
さすがに田城さんが
超能力者ってことはないと思いますから」
田城が少し馬鹿にした口調で言ってくる。
「カードゲームの発売日よ。
彼がいつも買っていくカードゲームのね。
まっ蓋を開ければ単純な事なんだけどね」
田端が思い出したかのように言ってくる。
「もしかして、田城さん
あの背の低い男の子の事ですか?
彼たまに来ますよね」
善岡も知っている様子だった。
「あの高校生っぽい人ですよね。私も見たことありますよ」
ここにいる全員知っている様子だった。
何故か私だけが知らなかった。
田城が当てたタネも分かり意外と呆気ないものだ。
「彼が買っていくカードゲーム
面白いのですかね?」
「さぁ?若い子の事はあまり分からないよ」
田城聡美でもそこまでは知らなかった。
今度、来た時にこっそり聞いてみようかな
なんて思っていた。
気付かぬうちに
次の発売日を確認していた。