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ほこりを被った花瓶  作者: 逆さのカカシ
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メモリアル・ドロップ



デパートで働く36歳 アラフォー

清水涼子





ただのお客と店員で終わるはずだった

いや、そもそも何もなかったはずだった。


私が彼を気にし出したのは

何がキッカケだったろう…




私は独身で父と母はいたが

共に高齢で

別の場所で年金暮らしをしている。


早く結婚相手を見つけないと

あたしたちが死んじまうよ!

なんて冗談交じりに

母がいつも急かしてきていた。


ただこんな私でも恋愛感情が無いわけではない。


高校生の時は共学の高校へ

行っていたため同学年のサッカー部の男子に

自ら告白したこともある。

結果は見事にフラれた。


大学生の時には

思い切って髪色を茶色にし、少し派手目の服も

着ていたが男性からのお誘いは無かった。



正直この年齢になると

交際までに漕ぎ着けることが億劫になっていた。


恋愛なんて

ただ疲れるだけだし

気を引こうと行動するだけで

滅入ってしまう。


恋愛下手なのかもしれない。



趣味と言えるものも無いし

新しい刺激が欲しいと思ったことも無い

欲の薄い女なのだ。




今日も出勤だ。

朝食はトーストしたパンと野菜ジュースに

ヨーグルトだ。

手早く済ませて歯を磨き、化粧をする。

つくづくこの低い鼻を恨む。

そして、それに相反するかのように大きく垂れた目。

リップは薄いピンクで塗り

眉毛を整えマスカラをし薄化粧終了。


服は通勤だけでしか着る必要がないので

あまり派手ではない。

裾を少しロールアップしたデニムと白のワイシャツに

アウターで黒のジャケット。

靴は紺色のパンプス。

一応のオシャレはおばさんとはいえする。


玄関の扉を開け、持ち物を確認し扉を閉める。

大学を卒業してから実家を出ている為

今は仕事場になるべく近いアパートを借りて住んでいる。

独り身の為、軽自動車だ。


職場は車で20分のデパート。

有名な高級老舗では無いが

そこそこ名の知れた所だ。


車で走り出して10分、信号が赤になり車を止める。

運転席から歩道の花壇に目がいった。

そこには紫のスミレが咲いていた。

今日は4月18日 土曜日、ちょうどスミレが咲く頃だ。

助手席の窓を開け、助手席に身を乗り出す。



スミレに気を取られていると後ろからクラクションを

鳴らされた。

慌ててアクセルを踏み急発進をした。

車の運転に集中する。

あと10分も車を走らせれば到着だ。

職場へ急いだ。



職場に着き、ロッカーに向かう。

同じ職場で働く女性が12人ほどいた。


ただ、私とはフロアが違う。

仲が悪いという訳ではないが話す程ではない。


軽く挨拶をして

そそくさと自分のロッカーから制服を取り出し

着替える。

私服を脱ぎ、グレーのギンガムチェック柄の膝下の

スカートに白いワイシャツ、その上から

スカートと同じ模様のベストを着る。

全身が映る鏡の前で身だしなみを整える。

肩に掛かる髪をポニーテールにする。

少し鏡から遠ざかり全身を見る。

中途半端な165センチという身長も嫌気がしつつ

社会人になってから運動をしなくなり14年

お尻やお腹が少し出て気になる。



多少は運動した方が良いのかな?と思いつつ

面倒だと思ってしまう自分がいる。


スタッフ専用の扉を開けて

担当の場所に向かう。


私の担当場所は4階のおもちゃ売り場だ。

同じフロアに私を含め4人程常駐している。

土日は5、6人に増える。

フロアの人数表を見たら

今日は5人だ。

勿論、品出しは自分たちでやる。


先に3人が始めていた。


他の2人にテキパキと指示をしている女性がいる。

160センチ後半の身長に縁の無い眼鏡をし

肩までの黒髪が靡く。

鋭い目つきのこのフロアの最年長42歳

笹木愛子。


そして、その指示に的確に答える。

薄茶色の長髪を頭の後ろで1本に縛っている。

高い鼻に二重の目

整った顔、モデルのような体型

172センチの長身

田端祐美 歳は29歳


肩で息をしているこのフロア最年少。

去年からここで働いている。

両目が大きく今時の顔をしている。

低身長でボブヘアーの可愛らしい同僚

善岡沙希 歳は22歳


もう1人は、まだいないようだった。


笹木愛子が私を見つけて声を掛けてくる。

「涼子ちゃん!そんな所で立ってないで

開店までに品出し終えるわよ!」



「はい!今行きます!」

その一声で一気に仕事モードに切り替わる。

3人の手伝いに入る。


なんとか品出しを終え、フロアのレジカウンターで

4人が立ち尽くす。

開店のアナウンスが鳴る。


待てど暮らせど客は来ない。


5階建てのデパートだが

元々、客足は少ない。


ほとんどの客が年配の方で

地下の食品売り場ばかりに行ってしまうため

4階にはほとんど客は来ない。

5階には本屋が入っているがその客が足を向ける事はない。


夏休みや冬休みの大型連休に差し掛かると

平日や休日の来客数が増え、多少なり

忙しくなる。


その他は忙しくない。

とても楽な仕事だ。

立っているだけで良いのだから。



あっという間に昼休みになり

4人で昼食を食べに行く。

それぞれがテレビを見たり話したりしている。


昼食を食べ終えてフロアに向かうと

見慣れない青年がいた。


青年はカードゲームが並べられてある

ラックの前で腕を組んで立っていた。


なにやら、深刻なそうな顔で立ち尽くしていた。


気にはなったがお客様をじっと眺める訳にはいかないので業務に戻った。


数分、立ち尽くした後

レジに来て


「これを下さい」


「はい、何パックにしますか?」


また眉間にシワを寄せて考え込む。


服装はグレーのパーカーに

黒のカラーパンツ、大きめのリュックを背負っていた。顔は目が大きく可愛い顔立ちだった。


青年は数十秒、悩んだ後

意を決した様に言った。


「10パック下さい…!」


私は普段通りに返す。


「10パックですね。少々お待ち下さい。」


そう言ってレジの裏に行き

カードゲームを持ってくる。


レジに戻り合計金額を伝える。


「1580円になります」


青年は合計金額、ちょうど出し

商品を受け取り帰っていった。



不思議な青年だなっと思っていたら

後ろから

同じフロア担当で2歳年上の眼鏡を掛け

いつも髪を後ろに1本で結んでいる

田城聡美が話し掛けてきた。


「あの男の子の事、涼子ちゃん気になるの?」


「いえ!ただ、変な男の子だったなって思って。

それより田城さん、いつからいたんですか?」


「今日は昼過ぎからなの!ちょっと用事があってね」



田城さんは得意げに話し出す。

「あの子、次は3週間後にまた来るわよ」


何故そんな事が分かるのか気になった。

「なんで分かるんですか?」


鼻高々に田城さんが言う。

「良いから、3週間後

必ず来るから期待しておきなさい!」



私と彼の1番最初の出会いはこの時だった。



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