第四話~帰り道~
「・・・で、渡したいものってなんだ?」
部活の活動時間が終わり、わいわいと騒ぎながら帰る時間。
オレは誰も人気のいないところに和人を呼んだ。
ここは礼服室。
数年間何も使われていない空っぽの部屋だ。
「試合に付き合ってくれたお礼です」
和人に渡したのは、袋に包まれた細長いものだ。
「・・・・見てもいいか?」
「はい」
中身を確認する。
「!!!これは・・・・」
中に入っていたのは、フェンシングの剣。
しかも、三本も入っていた。
「この剣、ゴルビツキー・プロか・・・」
レオンポール社がセルゲイ・ゴルビツキー氏と開発した剣。
一本1万6000する高い剣だ。
それを三本。
合計で4万8000。
「・・・なんでこいつをくれるんだ?」
「さっき言ったとおりです。試合に付き合ってくれたお礼です」
「それにしても、こいつは割に合わない。どうしてだ?」
「・・・まぁ、今回の試合は私が勝ってしまって、かなり落ち込んでいたので・・・」
「・・・・・そうか。それじゃあ、そういう事で貰っておく」
「ありがとうございます。あと・・・」
「?何かあるのか?」
「はい。相良剣介さんのことを聞きたんです」
「・・・・・・・・」
和人の顔が少しだが暗くなった。
オレが死んでから三日。
みんながどう思っているのかそれを知りたかった。
「・・・・・あんまりいい話じゃないぞ?」
「分かっています」
「話が長いから、帰りながら話すよ」
「はい」
和人と一緒に帰ることにした。
※
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
帰り道。
オレと和人は歩く。
「あの・・・相良さんの通夜と葬儀はいつですか?」
「・・・聞いている話だと、今週の土曜日に通夜、日曜日に葬儀だって聞いている」
「そうですか・・・」
静寂が訪れる。
「・・・・あいつは・・・・」
突然、ぽつりと独り言を言うように話し始める。
「あいつは・・・・いい奴だったよ。人にいつも気を配っていて、周りを楽しませてくれる。絡みはかなりうざかったけど、恨めないやつだったんだよ」
「・・・・・」
黙って和人の話を聞く。
「あいつはいつも自分の運動自慢していて、『オレの体は鉄壁さ!』と言っていたっけな・・・・・。
とにかく馬鹿なことをいっつもやってたし、暇さえあれば『和人!』と言いながら、俺のところに来たりと、色々騒がしくて、楽しかった奴だった。
でも・・・・そんな奴が車に轢かれて、死んじまったって言うのが信じられないでいる・・・・。
お前は車に轢かれても死なないだろ~とか、いつも俺の所に来ているからついつい『死になさい』って言っているのが、本当に現実になるとはな・・・・」
一筋の雫が和人の頬を伝う。
「まだ、あいつにフェンシングで勝ってねーんだよ・・・・戻ってきて、決着をつけさせろよ・・・・・・勝ち逃げしやがって・・・・ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・・!」
ぽろぽろと雫が流れている。
「・・・・・・・・・・・・・・」
それを見ていたオレは、和人をそっと抱く。
和人が俺のことをそう思っていたことが嬉しかった。
「な、なにをするんだ?」
和人は戸惑う。
「貴方がそう思っているなら、剣介は嬉しく思っているでしょう」
「な・・・なんでそんな事が言えるんだ?」
「誰にも話していなんですけど、私と剣介は古い友人なんです」
「なっ!!」
「貴方の話は、いつも剣介から聞いていました」
「け・・・剣介が?・・・・俺にそんな話したこと無いぞ?」
「そうです。誰にも言わないようにと二人で約束していましたから」
これは噓だ。
そうしないと、恐らく和人の本心を聞けないからな。
しかも、こんな可愛い子がオレの古い友人であるわけが無いだろう。
「いつも言っていました。『和人は学校で唯一の良き友人だ』と・・・・」
これは本心だ。
和人はオレにとってかけがえのない友人だ。
和人がいたからこそ、この学校でめげずに来れたと思っている。
そして、さっきの和人の言葉。
嬉しくて嬉しくて、こっちが涙を流したい気持ちだ。
「・・・・あの馬鹿やろう・・・・」
オレは離れて、和人は涙を拭う。
「このことは、誰にも話さないでくださいね。話したら・・・・」
「分かっている。話したら、渡守たちみたいになるんだろ?」
「はい」
お互いに微笑む。
「・・・・・なんだか、剣介と話しているようだな」
「そうですか?まぁ、一緒にいて話をしていたですかね?」
「ふっ・・・・そうかもな」
和人はニコッと笑う。
「あ、それと今日の試合のことは気にしないでください」
「気にしないさ・・・多分」
「多分ですか・・・・」
そこは気にしないって言い切ろうぜ・・・和人。
「私は、一応経験者なんです」
と言うか、前まで完全な現役だったんだけどな!
「そうだろうと思っていたよ。朝倉さんとやっているとき、剣介とやってるような感覚だったよ」
「そうなんですか?フェンシングを教えてくれたのは剣介で、フェンシングのことを色々教えてもらったんですよ」
「そうだったのか・・・・」
「和人さんの好きな剣も剣介から教えてもらいました。『和人はこの剣が好きでさ~』って」
「・・・・・あいつ、人に色々と教えすぎだ・・・」
少し和人が拗ねる。
「でも、そのおかげでこうして会えたんですから・・・・」
「だな」
お互いに笑い合う。
この体に転生して、少しは良かったと思っているオレがいた。
※
「それでは・・・これで・・・」
「あぁ、また明日な」
と和人と別れる。
オレの家の前まで送ってくれた。
「・・・・さて」
家の中に入る。
「ただいま~」
「遅かったですね」
玄関にはリリスがいた。
迎えに来てくれていた。
少し嬉しかった。
「あれからずっと家にいたのか?」
「はい。そうです」
「暇じゃなかったか?」
「大丈夫ですよ。私はこういうのは慣れていますから」
「・・・・・そうか」
一瞬、リリスが昔のオレの姿と重なった。
「・・・・・・・・」
「?どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
家の中に上がる。
「・・・・・は?」
靴を脱ぎ、一階の奥を見た。
「・・・・リリス、お前変な物買ってないか?」
「・・・・変な物ですか?」
「あぁ・・・・こいつはなんだ?」
それに指を指す。
一階の奥が・・・・豪華な雰囲気を出しているティールームみたいな部屋になっていた。
家を出たときは、何も無い殺風景な部屋だったのだか・・・・・。
♪~♪~
「あ、ちょっとすみません」
リリスの方から、携帯の着信音が聞こえた。
・・・・・携帯あったんだ。
「・・・・そうですか・・・分かりました。ちょっと待ってください」
その携帯をオレに渡す。
「?オレ?」
「はい。冥王からです」
「!!冥王!?」
「いいですから、早く取ってください」
プルプルと腕が震えていた。
「わーったよ」
電話を取る。
「もしもし・・・」
「おぉ~、君が相良剣介君・・・いや、朝倉響君だね」
その声は、普通の老人みたいな優しい声だった。
「はい。そうです」
「いやぁ~、すまないねぇ~。ワシのせいで変な所に転生させてしまって・・・」
「いえいえ、そうなってしまった理由はリリスから聞いています」
「そうかそうか~」
「あまり無理をなさらずに」
「君は優しいなぁ~。ワシにそんな事を言ってくれるのは、君だけだよ」
・・・・・冥王ってあまり人望ないのか?
あまりにも酷い・・・・。
「きみをそんなところに転生させてしまった謝礼ってことで、君の家の中を君好みにしておいたよ」
「え?」
「あとは、お金もちょっと入れておいたから」
「えぇ!?そんな事をしなくても・・・」
「いいんじゃよ。若い者は黙って年上の貰い物を受け取るのが常識じゃ。明日も少しワシからのプレゼントをやるから楽しみにしておれよ?」
「・・・・分かりました。ありがとうございます」
「リリス君の事もよろしくお願いするよ」
「???」
その話がリリスに聞こえていたようで、オレから携帯をばっ!!とすぐに取り上げた。
「何言ってるんだこのじじい!!早く過労死しろ!」
乱暴にボタンを押し、通話が終わる。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・リリス?」
「・・・・ごめんなさい。取り乱してしまいました」
何事も無かったようにしているが、あのときみたいに黒いオーラが出ていたような気がする。
「さっきの話は・・・・」
スパパパパパっ!!!!!!!
手前で思いっきり鎌を振り回す。
「おいおいおいおいおい!!!!」
がむしゃらに振り回し始める。
「その話の内容は聞かないでください!!!!!」
と言いながら振りまわす。
「分かったから!分かったから!やめてくれ!!」
やっと終わり、はぁはぁ・・・・と肩で息をしていた。
「聞かないでくださいね?」
顔は真っ赤で、涙目になっていた。
・・・・意外に可愛かった。
「あ、あぁ」
「・・・あぁ、もう・・・・・私は少し、頭を冷やしてきます」
スタスタと玄関を出る。
「・・・・・・」
リリスもあんな反応するんだなぁ~。
そう思いながら、二階に上がっていく。
オレの転生について、色々な人に面倒かけてしまったな・・・。
案外、この生活はいいと思ってきた。
オレなりに何かお礼しないとな・・・。
※
翌日。
「・・・・・うわぁ・・・・・」
紹介するのが遅くなったが、オレの家は前いた家と大体同じ構造だ。
木造亜鉛メッキ鋼板葺3階建。
床板面積は、1階79.75m2、2階77.66m2、3階77.00m2
土地面積は200坪。
と、かなり広い。
間取りも大体同じであった。
リリスや冥王のおかげで、難なく暮らせている。
「・・・・・・おいおい」
朝起きて家の外を見たら、何も置いてなかった家の前に、ガレージが建てられていた。
外に行き、ガレージの前に行く。
「真面目にか・・・・」
中には、車が二台並んで置いてあった。
車種はキャデラックセビル98年製とリンカーンナビゲーター09年製。
どっちもアメ車だ。
そしてバイクも置いてある。
スズキSV400SとハーレーダビッドソンスポーツスターXL1200Rカスタム。
こいつはやりすぎだろ・・・・。
家の中に入り、リリスのところに行く。
リリスの部屋は三階で、オレの隣の部屋だ。
こんこん。
「リリス?入っていいか?」
・・・・・・。
「リリス?入るぞ?」
何も反応がない。
「・・・・・入るか」
女同士大丈夫だろう。
「・・・・うおぉ・・・・」
中は可愛らしい装飾であった。
リリスには、約5000万渡して好きなように使っていいと言っている。
・・・・この部屋の改装費に当てたな。
真ん中には屋根付きの大きいベット。
ベットが凄まじい存在感を放っていた。
その左右には、大きなテディベアがいた。
「・・・・クマ好きなんだなぁ・・・・」
探している少女はすーすー、と吐息を立てて寝ている。
「リリス~」
揺らしてみる。
「ん・・・・・・」
寝返り、また眠る。
「お~い」
また揺らす。
「んん・・・・・」
今度は少し目を開ける。
「・・・・・・」
体を起こし、オレを見る。
目は半開きで、寝ぼけている。
服装は、ダボダボのYシャツ・・・・だけ。
「・・・・お姉ちゃん?」
「!!」
可愛い声で、そう・・・・・言われた。
心に何かが走る。
なんて無防備な。
・・・・少し、イタズラしたくなった。
「・・・・・・そうだよ。もう起きる時間だよ」
「ん・・・・・」
頷き、そのままベットから出る。
「・・・・・お願い」
手を万歳させる。
「はっ!!!これはまさか!!『着替えさせて』と言うことか!」
ウッハウッハするオレ。
仕方ないもん!だって男だったし、女の子に興味があるのは仕方ないもん!
ドキドキしながらYシャツを脱がす。
「ん・・・くすぐったい・・・・」
まだ寝ぼけている。
Yシャツの下は・・・・何も無かった。
発展途上の体が露わになる。
「・・・・なんと大胆な・・・・」
幼い体でよかった・・・。
もし、これが大人びた体つきであれば、オレの理性は吹っ飛んでいたかもしれない。
「・・・・・早く」
着替えを催促する。
「分かった。ちょっと待って」
部屋にあるタンスを開く。
「どれがいいかな・・・・」
大体みんな同じような服ばかり。
「ん~・・・・・」
服を探している最中だった。
後ろから殺気を放っている人物に気付かなかった。
「・・・・え?」
視界が真っ暗になり、意識が飛んだ。
※
「・・・・・・・・はっ!」
がばっと勢い良く起きる。
「おはようございます」
「・・・あぁ、おはよう」
横にリリスがいた。
本を読んでいたみたいだ。
さっきまで何かをしていてたような気がする。
記憶が少し飛んでいる。
「ん~・・・・・」
何かを忘れているような気がする。
「・・・・・・あ!」
そういえばそうだった。
冥王に電話しようとリリスの部屋に行って、リリスが寝ぼけていたからちょっとイタズラしていたんだ。
「おもいだ・・・」
ひゅん!!
首に鎌がかけられた。
「なにを思い出したのですか?剣介さん?」
「え・・・それは・・・リリスが・・・」
さく。
首の薄皮一枚が切られた。
「な・ん・で・す・か?」
鎌の柄の部分が真っ赤になっていた。
・・・・多分、あれで思いっきり殴られたと思う。
「・・・・・なんでもありません。私は・・・何も覚えていません・・・」
「・・・・よろしい」
と恒例みたいになってきたやり取りを終える。
「・・・・見られた・・・・」
と、がっくりするリリス。
・・・・あれは可愛かったなー。
うむ!もう少し成長していたら、良かったなー。
と思い耽っている最中に壁にかけている時計を見る。
今の時間は・・・・・午前9時。
・・・・・・かなり寝過ごしていたようだ。
「やば!遅刻!」
ベットから出る。
「その心配は無いですよ」
「は?」
「私が学校に休みますと連絡しました」
「・・・・・マジかよ・・・・・」
こんな初めから休みか・・・・。
「原因は貴方にあるんですから・・・・」
「うっ・・・・」
確かにそうだ。
リリスにイタズラしてしまったから、その報いだろう。
「それで、私の部屋に来てまで何がしたかったんですか?」
「おぉ!そうだった。冥王に電話を繋げてくれないか?」
「冥王に?分かりました」
携帯を取り出し、冥王に電話をかける。
「はい。どうぞ」
「すまないな」
携帯を受け取る。
「どうしたんだい?リリス?」
「すみません。リリスではないです。剣介です」
「おぉ!剣介君か!どうじゃった?ワシからのプレゼントは?」
「あんな物を貰うなんて聞いていませんよ!」
「車とバイクか?いいんじゃよ。それぐらいはしておかんと」
「し過ぎです」
流石にあれは驚く。
昨日何も無かったところにバンっ!と立たれるとびっくりしてしまう。
「そうか?あと、免許もあるし、乗ってもいいんじゃよ?」
「え?」
免許?
マジですか・・・・。
「詳しい事はリリスに聞いておくれ。それじゃ、またの~」
と会話は終わった。
「・・・・・」
「終わりましたか?」
「あぁ・・・・」
「冥王が何かしたんですか?」
「プレゼントの規模がでかいって言っただけだ」
「・・・・・まぁ、仕方ないですよ。一人の人生を、本来とは違う方向にしてしまったんですから、ここは黙って貰っておきましょう」
「・・・・・そうか。なら、そういうことにしておく」
冥王はそこまでオレの転生先を間違ってしまったことに責任を感じているんだ・・・・。
こんなオレなのに・・・・・。
救われても意味が無い人間なのに・・・。
「さっき話していたと思うのですが、免許証はここにありますよ」
さっとテディベアから取り出す。
「わー。ホントだー。(棒)」
もう、どうでもよくなっていた。
一度はこんな生活してみたいって思っていたけど、もういいや。お腹いっぱいです。
静かに暮らそうかと思っていたけど、もうだめだ。無理です。
「今日は暇になりましたし、どっかに行きませんか?」
「おいおい、オレは欠席になっているんだろ?出ていいのか?」
「あ・・・・・それは、バレなきゃ大丈夫です」
言ったぞこいつ!
礼儀正しくて、律儀そうな子だと思っていたけど、意外に大胆なこと言うな!
「運転なんですけど、乗れば大丈夫みたいです」
「みたいですってちゃんと話を聞いていたんだろ!?」
「冥王がそう言ったんです。大丈夫だと思います・・・多分」
「・・・・・・・」
なんか信用はあまり出来ないが、騙されたと思って信じてみる。
「それじゃあ、バイクで行くか・・・・と、リリスは乗れないなー」
バイクで行きたいと思っていたが、いきなり二人乗りは流石にキツい。
「その点なら大丈夫です」
「どこが大丈夫・・・・・は?」
一瞬で小学生みたいな姿から、凛々しい女性に姿になった。
年齢は20前半ぐらい。
服装はそのままのゴスロリ風の服だ。
最初にこの姿でゴスロリではなく、普通の服装で会っていれば一目惚れていたかもしれない。
「これでなら、問題ないですね」
声も年齢にあった声だ。
「・・・何でもアリだな・・・もう・・・」
もう頭を抱えることしか出来ない。
何でもアリに慣れないと・・・・。
それで、一つの疑問が出てきた。
「そういえば、何でその姿でずっといなんだ?」
「この姿だと、維持するのにかなり疲れるんです。しかも、一般人にも見えるようになってしまうんです。dだからいつもは、一般人から見えないあの姿でいたんです」
「へぇ~」
色々と事情があるんだな。
「そんなことより!早く行きましょう!」
かなりご機嫌のリリス。
そんなに楽しみなのか?
「剣介さんはどれに乗ります?」
「オレは・・・・」
まぁ、いいだろう。
昨日はオレの言うとおりにしてくれたし、今日は付きやってやるか。
「行く前に!その服をなんとかしろ!」
ゴスロリ風の服で出られたら、絶対変な目で見られる。
「・・・・面倒くさいです」
「だめだ!着替えてこい!」
「分かりましたよ」
ぶつぶつ言いながら中に入っていく。
「・・・・・・」
今のこの生活は、前いた家の生活よりもかなり楽しい。
あの頃とは違い、人(人外?ではあるが)がいる。
毎日が飽きない日々になっている。
「さて・・・リリスと何処に行こうか・・・・」
リリスが来るまで、携帯で地図を開き、目的地を決めることにした。