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第三話~学校生活~

4月10日 月曜日。


窓に光が差し、目が覚める。


起きた時間は朝6時。


この日は、学校の初登校だ。


7日の日に入学式があったが、正直なところ三年生は出なくてもいいのだ。


主役は新入生の一年生。


三年生の出る幕なんてない。


基本その日は休みになっている。


何でオレがその日に出歩いていたかと言うと、後輩の顔を見るためであった。


理由は特にない。


ただ、どんな奴が入ってきたが見るためだ。


しかし、見に行く途中に事故に遭ってしまい、今の状態になっている。


目をこすりながら二階に降り、朝食を摂る。


前までは親と一緒に食べていたが、今は転生して親がほとんどいない環境になり、一人で食べている。


「・・・・・・・」


一人で食べているのだが、目の前にはじっとこっちを見つめる少女がいる。


「・・・・ずっと見られると、食べづらいんだが・・・交渉屋」


「そうですか?あと、名前を教えているのに、何でそれで呼ぶんですか?」


「・・・・なんでだろ?」


「理由も無く言っていたんですか・・・これからちゃんと呼んでください」


「へいへい」


「女性なんですから、その口調・・・何とかしてください」


「分かってるての」


一昨日、昨日とリリスの女性についての講義を無理やり受けさせられた。


女性はこうで、ここに気を遣って、生理がどうこう・・・・・・と、一から叩き込まれた。


男子よりすごく面倒くさかった。


こんなこともするのかよ・・・ってやつが大半だった。


「・・・交・・・リリスは、飯を食べなくてもいいのか?」


「私は生きている人間とは違います。人間と同じように食べなくてもいいですが・・・でも、少しは食べないと流石にお腹が空きます。・・・・大体は一週間に三食食べられたら、十分ですね」


「へぇ~・・・・・」


リリスの体を見る。


外見が小学生なのは、そのせいじゃないかと・・・。


ざくっ!


と当然オレの手の近くにナイフが刺さっていた。


リリスからまたドス黒いオーラが出ていた。


・・・・あ、やっちまった。


「失礼なこと・・・考えましたね?」


「すみません」


これで三度目だ。


流石に抵抗するとなると、何個命があっても足りない。


「?今日はやけに素直ですね?」


「逆らえばどうなるか分かったのでね・・・」


「分かればよろしい」


「私だって・・・好きでこんな姿になっているわけじゃないのに・・・・」


「?何か言ったか?」


「いえ、何でもありません。ところで時間は大丈夫なのですか?」


「あぁ。まだ間に合う」


時間は6時30分。


まだまだ間に合う時間だ。


携帯を持っていたので、地図でこの場所から学校までの距離を調べておいた。


前いた家と同じぐらいの距離だ。


流石に自転車が無くて、昨日はmanazonで自分の自転車を買った。


前に乗っていたのは、昔親父が乗っていたマウンテンバイク。


世の中に出始めた頃の物で22年ものの自転車だった。


今回買ったのは、ロードバイクとマウンテンバイクの二つだ。


いい物にしようと吟味していたら、合計で20万掛かったのは正直心痛いが仕方ない。


今日は歩きで学校に向かう。


「・・・・そういえば、リリスは他の人から見られないか?」


「その点は大丈夫です。私は幽霊みたいな存在です。特異体質の人に見られない限り、問題ありませんよ」


「・・・・宙に浮くことも出来るのか?」


「出来なくは無いです。ただ、私歩いているほうが好きですから」


「そうか・・・・それじゃあ、行ってくる」


話している間に準備が出来て、玄関に向かう。


鏡で自分の姿を確認する。


・・・・本当に女なんだよなーっと再確認する。


つい最近までは男して暮らしていたのに、いきなり女に転生することになって、こうして生活することになったし・・・・。


「・・・・ってリリスも行くのかよ!」


「ええ。そうですが?だめですか?」


「何で付いてくるんだよ!」


「私は貴方のサポートを任された物としての使命を果たすために行くのです。もし何かあった場合、私はいるのといないのでかなり変わるんですよ」


「それはそうだけど・・・・」


学校での姿を見られると、絶対笑いの種にしそうで、連れて行きたくは無かった。


「だめ・・・・ですか?」


と甘い声を出し、おねだりしてくる。


「ぅ・・・・・・」


この女性経験が無いオレにそんな声を出すな!


断れなくなるだろ!


絶対分かってやっているなこの子悪魔・・・。


「はぁ・・・・分かったよ、いいぞ」


「分かりました」


「でも、学校にいるときは邪魔はするなよ?」


「分かっていますから」


ご機嫌になったリリスはふんふんと鼻歌を歌う。


「おっと、こいつを一応持っていくか・・・」


部屋に戻って、布にくるまれたものを持つ。


こいつを買ったのは、かなり財布が痛かった。


でも、今はこんなに資産を持っているので痛くもかゆくも無いが、庶民からすればかなりの出費なのだ。


護身用に持つものだが、そんなに必要は無いだろうと思う。


でも、備えあれば憂いなしって言うしな。


                  ※


「久しぶりに歩いたなー」


周りを見渡しながら、小声で喋る。


こんな口調を聞かれたら、もう学校でやっていけなくなる。


変人扱いにされて、終わる。


男口調で喋る女なんて、絶対に浮く。


「・・・・着いたな」


校門が見えるところまで来た。


青木市立満弦高等学校。


さっさと校門を通る。


自分は転校生なので、職員玄関から入る。


着いた時間は8時ちょうど。


いつも通りの時間に来れた。


そこで靴を履き替え、職員室に向かう。


「失礼します。朝倉響ですが、工藤先生に用事があって来ました」


いつも通りに職員室に入る。


工藤元就くどうもとなり


工藤先生は社会の先生で、三学年の学年主任だ。


頭は少しハゲていて、真ん中にぽつんと島みたいに髪が残っている先生だ。


「お~、君が転校生の朝倉響さんか」


「はい」


「貴方のクラスはもう決まっています。えっと・・・・クラスは文型クラスの34HRで、担任は黒崎先生です・・・・あそこにいるのが黒崎先生です」


指を指したところに黒崎先生はいた。


黒崎桂くろさきけい


黒崎先生は前のオレのクラスの担任だ。


24HRからお世話になっていて、そのまま三年生に上がっていたようだ。


「黒崎先生。転校生来てるど~」


「あ、はい。分かりました」


こっちに向かって来る。


「貴方が朝倉響さんですね」


「はい」


「たったの一年間だけど、よろしくお願いします」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「響さんは朝のSHRのときに紹介するからちょっと待っててけ」


「はい」


少し話をして、職員室から出る。


これから先生たちは朝会があるので、オレは外で少し待つことになった。


「中々の優等生ぶりですね」


ひょこっと顔を出すリリス。


「こうでもしないと、印象悪くなるだろう」


「まぁ、一理ありますね・・・ここが貴方の学校ですか・・・・」


周りをキョロキョロする。


リリスは学校に入るのは初めてなんだろう。


「あ、先生たちの朝会が終わったみたいですよ」


職員室に目を向けると、先生たちは席から立ち、動き始めていた。


「それじゃあ、朝言ったとおりににしてくれよ」


「分かってますよ」


ふっと姿を消して、リリスは見えなくなった


少し待って、黒崎先生が出てくる。


「さてと・・・・こっちだ」


黒崎先生の後ろをついて行く。


でも、実際は場所分かっているけどな。


三階に上り、34HRの教室に着く。


「ここで待っていてくれ」


と言われ、教室の中に入る先生。


中はいつもどおり男子の声で騒がしかった。


先生が一通り説明し終わり、手招きで入れと言われる。


そして、中に入る。


「・・・・・・・・・」


オレを見たクラスの反応は十人十色。


うっひょー!と騒ぐ人。


オレの姿を見て驚く人。


綺麗・・・と言う人。


などなどまちまちの反応だった。


教室の真ん中に立ち、黒板に自分の名前を書く。


「今日からこのクラスに編入することになった朝倉響です。たった一年ですがよろしくお願いします」


言い終えて、一部の男子がうおおおおお!!と声を上げる。


・・・・相変わらず煩い奴らだ。


一つの机に、彼岸花の花が添えられていた。


・・・・・元々男のオレが座る場所だった所。


ずっとそこをオレは見ていた。


「・・・・・・・・・」


「入学式の時に相良は不慮な事故で亡くなってしまったが、相良の分まで生きてこの一年間過ごそうな」


と先生が一言言う。


「朝倉の席はあの席の隣な」


と指示された机は、菊の花が添えられた机の隣だった。


「はい」


とその席に行って座る。


「・・・・・・・」


本来なら、隣にオレが座って隣にこの子が座ったんだろうな・・・。


なんとも言えない複雑な気持ちになっていた。


「朝倉に質問は今はやるなよ~。これからやることがあるから、それ終わったらだな」


こうして、朝のSHRは終わった。


                 ※


「・・・・ふぅ~、疲れました」


昼休み。


朝のSHRが終わった後案の定、質問攻めをくらった。


前はどんなところに住んでいたの?


好きな男子のタイプは?


部活ってやってた?


好きな教科は?


何が得意?


などなど、たくさん聞かれた。


他のクラスからもオレを見にやって来ていた。


中々の人気者だ。


「朝倉さん?これから食べに行かない?」


このクラスの女子のリーダーみたいな立ち位置にいる女子、滝口夏月たきぐちなつきが話しかけてきた。


オレはこいつと話すのが苦手だ。


勝手に突走っているような話をいつも遠くから聞いていた。


・・・できれば、話したくない相手だ。


「ごめんなさい。私はこれからちょっと行くところがあるので・・・・」


「そう・・・。それじゃ、次の機会ってことで!」


と数人の女子と一緒に少し離れたところで、机をくっつけていた。


「それじゃあ・・・・」


席を立ち、廊下に行く。


何処に行こうかと、迷っているときに、


「朝倉・・・響ちゃんだよね?」


「?はい、そうですが・・・」


げっ・・・・こいつか。


オレに話しかけてきたのは、チャラチャラとした男三人組。


渡守亮助わたもりりょうすけ岩島昇いわやまのぼる西屋廉太郎にしやれんたろう


男だったオレのことを毛嫌っていたやつに会ってしまった。


西屋は昔から同じ学校であまり毛嫌っていないが、後の二人は毛嫌っていた。


関わりたくは無かったのだが、まさかあっちから来るとは思ってもいなかった。


「俺らと一緒に食べない?」


「いいえ、ちょっと用事があるので・・・」


「いいじゃん。行こうぜ~」


「すみません。またの機会ってことで・・・」


「大丈夫。すぐ終わるから・・・」


中々離してくれない。


「ねぇ~、いいじゃん」


ウザ過ぎて、少しキレた。


「・・・次で離してくれないと、強硬手段に出ます」


「おっ?何それ?面白そうじゃん?やってみてよ?」


「面白い奴じゃん~」


相変わらず、うざい態度を取る渡守。


渡守を催促させる岩島。


使いたくは無かったが、早速こいつを使うことになるとは思ってもいなかった。


・・・・・忠告はしたし、大丈夫だよね?


朝持ってきた布に包まれた物を持つ。


「お?何それ~」


周りはざわざわと騒ぎ始める。


布を取った瞬間、すぐに抜刀する。


「え・・・・?」


オレが斬ったのは渡守の制服の袖。


斬った後からハラっと落ちる。


渡守は腰を抜かし地べたに座る。


「う・・・そ・・だろ?」


オレが持ってきたのは、日本刀・・・それも真剣。


一応、数億もの資金を持っているオレは狙われるとことが多く、護身用に持ち歩いているという事を先生達には伝えている。


先生たちは承諾してくれたが、人をそれで斬らないようにと言われた。


人を!斬らないように言われたので、服を斬った。


きゃあああああ!!!!と悲鳴を上げる周りの女子。


まじかよ・・・とオレを見つめる人々。


「このっ・・・・・」


渡守の後ろにいた岩島が出てきて、オレに殴りかかってきた。


すぐに刀を納刀する。


そのまま迫ってくる岩島。


この攻撃を避け、背中に納刀したままの刀で斬る。


「がっ・・・・・・」


そのまま倒れ、地面に倒れる。


西屋はそのまま動かずにいた。


「さっきの攻撃が抜き身であるなら、貴方は死んでいます」


倒れこんだ岩島に向けて言う。


さっさとこんな面倒事を終わらせたい。


「女性をそんな誘い方をして、貴方方は最悪な人間の部類です。無理やりにでも一緒にと言う・・・。

そんな人には一生いい人なんか来ません。せめて、薬をキメて人生終わるのがオチです。

・・・・まだいたのですか?さっさと消えてください」


「ひ・・・・ひぃ~~~」


三人は一目散に走り去った。


刀を布に戻す。


脅しとしてはこれがいいだろう。


昔のオレにしてきたことの憂さ晴らしも出来た。


「・・・ふぅ・・・・・」


一つため息をつく。


「す・・・すげぇ!!」


「え?あ、あの・・・・・」


周りから、拍手がオレに向けられた。


「かっけぇーー!!」


「よかったぞ!」


そんな歓声を受けていたときだ。


キーンコーンカーンコーン。


「あ・・・・・」


昼・・・・食い損ねてしまった。


               ※


その後、先生に呼び出され、怒られてしまった。


大体は、あの三人組を怒っていた。


オレはそんなに怒られはしなかった。


だが、やりすぎだと言われてしまった。


教室に帰ってきたとき、英雄扱いされたのはかなり戸惑った。


「・・・・・今日は疲れました~」


放課後。


みんなは掃除や部活に行っていた。


オレはまだ転校初日という事で、掃除は免除された。


「さて・・・・」


オレが向かった先は、女子トイレ。


個室に籠もり、小声で言う。


「いいぞ」


「やっとですか」


横から出てきたのはリリスだ。


リリスはオレにも見えないようにして欲しいと言う約束を取り付けた。


見えていれば、どうしても気になってしまう。


朝の時にお願いしたのだ。


「昼休みのあの出来事はやりすぎではないですか?」


「いいんだよ。今までの鬱憤を当てただけだ」


「・・・貴方はずいぶん楽しくない高校生活を過ごしてきたのですね・・・」


「まぁ・・・な」


リリスの言うとおりだ。


オレは高校生活は楽しいと思えることがほどんと無かった。


昼にいた三人組もそうだし、滝口もそうだ。


色々な人に毛嫌いされていたからな。


「これから部活に行こうと思うのだが、いいか?」


「いいですよ。これは貴方の転生した人生ですから」


「わかった。ありがとう」


「どういたしまして」


とトイレの個室を出て、あるところに向かう。


                 ※


「・・・久しぶりだな・・・」


来たところは、満弦学校の第二体育館。


その場所で活動しているのは、フェンシング、卓球、バドミントンだ。


活気が廊下まで響いている。


「すみませ~ん」


と中に入っていく。


オレがやるのはフェンシングだ。


昼間のときに刀を持っていたら、久しぶりにやりたくなったのだ。


男だったオレが所属していた部活だ。


いつも先生がいる体育教官室に入っていく。


「すみません」


「お?どうした?」


いた先生は原先生と言うここの学校の出身の人で、この部活のOBである。


「体験入部したいんですが、いいですか?」


「君は・・・あぁ。昼に騒いだ男子を黙らせた子か」


「・・・やめてください・・・恥ずかしいです」


先生達の間でそこまで広まっているとは、かなりの有名人になってしまったな。


「いいぞ」


「ありがとうございます」


椅子を出して、部活を見る。


「今からこの部活に入りたいのか?」


「まぁ・・・一回やってみて決めようかと思います・・・」


「そうか・・・集合!!」


原先生が部活の部員を集める。


・・・・懐かしい面子だ。


一緒に過ごした奴らもいて変わってないなと思う。


「今、体験入部に来た子だ。噂の転校生、朝倉響さんだ。誰か響さんの相手になってくれないか?」


「あ・・・それなら、俺がやります」


手を上げたのは、オレが唯一信頼した男子。


城山和人しろたかかずひと


入部当初から一緒に絡んた相手だ。オレの一方的な絡みであったけど、学校の中で結唯一信頼することができたやつだ。


「あの・・・それじゃあ、試合やってみていいですか?」


「「「「「え?」」」」」


全員が驚く。


流石にそうだろう。


やったことのない素人がいきなり試合なんて、あまりにも無謀だ。


「なぁ・・・それは流石に無理じゃない?朝倉さん?」


「いや、一回やらせてみろ、城山」


「え?」


「お前も聞いているだろう?昼間のことを・・・」


「でも・・・」


「一回だけだ」


「・・・・分かりました」


オレの希望通り、城山との試合をやることになった。


               ※


「えっと・・・・」


和人と試合をやることになった。


オレは手馴れた動作でユニフォームを着る。


「あ・・・それ・・・」


と声をかけてきた後輩がいた。


「?どうしたの?」


「そのユニフォーム、死んだ先輩のユニフォームなんですけど・・・」


「・・・大丈夫よ。私はそんなのは気にしないから」


と言うか、その本人が目の前にいるんだけどね!!


「あの・・・これ・・・」


差し出してきたのは、バストプロテクター。


フェンシングでは、女子は付けるものである。


「いいよ。それはつけなくても大丈夫だから」


「でも・・・」


「いいの!!」


と押し切る。


後輩は仕方なく引き下がる。


あんなの付けてやってたら、やりづらい。


・・・・・・・準備が終わった。


着ているユニフォーム、剣、マスクはオレが使っていたものを使っている。


男用なのに何故か、ぴったりとサイズは合っていた。


相手の和人は準備万端。


一緒にピスト(試合場)の中に入る。


「チェック」


審判の原先生が言う。


お互いに有効面であるメタルジャケットを突く。


色のついたランプが光る。


今やるのはフルーレと言う種目だ。


上半身(腕と頭は除く)のメタルジャケットの部分を剣で突くことによって、点数の入る競技だ。


オレの得意競技ではないが、少しはやれる。


「この試合は5点先取で勝ちにする」


「ラッサンブレ サリュウ(気をつけ、礼)」


「「お願いします」」


礼をして、マスクをつける。


・・・・マスク越しに見る相手。


懐かしい感覚が体をめぐる。


「オンガルド(構え)」


「エト・ヴ・プレ(準備はいいか?)」


「アレ(始め)」


試合が始まった。


始まりと同時に前に出る。


「!!」


いきなりの前進で驚いた城山は後ろに下がる。


勢いを緩め、権利を持ったままゆっくり攻める。


フェンシングでは前に進み続けていないと、『攻撃権』を取れないのだ。


両者同時の突きが認められた場合、どちらか一方の突きに優先権があるかを決める権利で審判が判断するのだ。


この権利なしで突くと、一緒に攻撃したとしても、攻撃権を持っているほうが有利になる。


「・・・・・」


攻め時を見極める。


・・・・・・ひゅん!


和人が攻めに来た。


その剣を払い、城山の有効面に突く。


ピーっ!!


「コントルタン(斬り返して攻撃)トゥッシェ(有効)ボアン(得点追加)。ユヌザゼロ(1対0)」


和人から一本取れた。


周りからおおぉ!!と声が上がる。


やっぱり久しぶりにやると気持ちがいいなぁ。


得点が決まったら、開始線のところまで戻るのがルールだ。


「オンガルド・・・・・エト・ヴ・プレ・・・アレ!!」


「!!」


さっきのオレのように和人が攻めてくる。


その剣を払おうとするが、するりと避ける。


「くっ・・・」


そのまま有効面に突かれる。


「アタック(攻撃)トゥッシェ、ボアン。ユヌパートゥー(1対1)」


「大人気ないぞ!」


「手加減しろよ~」


「うるせー!」


と言いながら戻る。


やっぱり感覚が戻っていないのと、女になった体だからか・・・・。


と言うか、突かれると痛いなぁ~。


だから、女子はバストプロテクター着けていたのかー。


・・・やっと理解できた。


「オンガルド・・・・・エト・ヴ・プレ・・・アレ!!」


ここでアタックのフェイクを仕掛ける。


「!!!」


和人は剣を振り上げ、振込み(剣をしならせて攻撃)をする。


・・・・・予想通りだ。


それをまた振り上げ、和人の肩に剣先を突かせる。


「「「「「おおぉ!!!」」」」


歓声が上がる。


女子で振込みをやる選手はこの満弦学校にはいない。


振込みをする選手となると、関東大会と上位の大会に出れて上位に入賞するレベルだ。


「プリーズドフェール(相手の剣を捉えて攻撃)トゥッシェ、ボアン。ドゥザユヌ(2対1)」


これで一点オレがリードした。


後は・・・・この調子で攻める!!


               ※


「はぁ・・・はぁ・・・・・」


それからの試合は、接戦だった。


取ったら取り返され、取られたら取り返す。


それを続けて、4対4。


一本勝負に持ち込んだ。


何回かノンヴァラブル(無効面への攻撃)を受け、オレの体は少し悲鳴を上げていた。


この体は元々のオレの体ではない。


女の体では、男には平気な攻撃が、女だとかなり辛い。


しかもプロテクターをつけずにやっている。


息がかなり荒くなる。


「オンガルド・・・・・エト・ヴ・プレ・・・アレ!!」


「くぅ・・・・・」


無理やりに体を動かす。


今は痛みに構ってられない。


こんなにも楽しい戦いの邪魔だ。


自分が生きているって感じるのは、戦っている・・・・この瞬間だ。


オレはこの感覚が好きだった。


ここには自分の居場所があると思っているからだ。


戦いこそ、自分の価値を見出せる場所であった。


「はっ!!!」


和人が先にアタックをする。


それを払い、オレもアタックするが、払われる。


「・・・ちぃ!!」


間合いを切り、仕切りなおす。


「やばいな・・・」


そろそろオレの体が限界になってきた。


足がガタガタ震え、あまり力が入らなくなる。


「そろそろ・・・か」


和人がゆっくり攻めてくる。


試合時間が残り10秒を切る。


「あと少しだぞ!」


「一本決めろ!」


ピストの外から大きな歓声が聞こえる。


俺を応援している奴もいれば、和人を応援している奴もいる。


フェンシング部以外の奴も、この試合を観戦していた。


「朝倉さん頑張って!!!」


「城山!一本!」


「朝倉先輩!!勝ってください!」


「城山!負けんなよ!」


応援する奴の声が途切れずに聞こえて来る。


「はっ!!!!」


和人の剣を叩く。


こうすることで、攻撃権を取ることができる。


「くっ・・・!!!」


アタックをしようとするが、和人は後ろに下がっていく。


普通でのアタックでは届かない間合い。


「これなら・・・・どうだ・・・・!!!」


アタックをした後、剣を伸ばして和人の有効面に向かって走る。


フレッシュと呼ばれる攻撃方法。


前に矢のように飛び出して行う攻撃動作である。


「なっ!!!」


不意の攻撃で、後ろに下がっていた和人が少し体制を崩した。


「い・・・・・けぇ・・・・・・!!!!!」


そのまま飛び出す。


剣先が和人の有効面に吸い込まれる。


ピー!


「アタック!!トゥッシェ、ボアン!!サンクザキャトル(5対4)!!ラッサンブレ サリュウ!!」


「「ありがとうございました」」


「うおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!!」


終わったと同時に、大きな歓声が上がる。


オレのところに、原先生が近付く。


「朝倉・・・・お前は経験者か?」


「いえいえ、そうじゃないです。ただ、前にテレビにやっていたのを見て、ルールや動きを見て、真似てやっていただけですよ」


「・・・・今でその実力なら、東北・・・・いや、インターハイを決めること出来るぞ」


「インターハイ・・・ですか」


少し考える。


確かにインターハイに行けるのは嬉しい。


楽しい試合が待っているだろう。


自分の居場所である戦いもできる。


「でも・・・・私は行きません」


「!!どうしてだ?」


「私には、やることがあるのです」


そう。オレにはやることがあるのだ。


こうして転生したオレにはやることがあるのだ。


原先生を後にして、和人のところに行く。


「今日の試合に付き合ってくれて、ありがとうございます。城山さん」


「・・・あぁ」


流石に素人に負けてしまえば、落ち込んでしまうだろう。


「本来なら、最後の勝負で城山さんが剣を出していたら、私は負けていたでしょう」


「・・・・・・・」


「貴方にはお礼をしなくてはなりません。あとで渡したいものがあるのでよろしいですか?」


「?・・・分かった」


承諾を得る。


あらかじめ、紙にその場所を書いて渡す。


そこを後にして、体育館を出る。


「・・・・・おっと」


足がふらつき、壁に寄りかかる。


「はは・・・・流石にきつかったか・・・・」


あのまま持久戦か、もっと激しく動かされていたら本当に負けていただろう。


「本当はお前の勝ちだよ・・・・和人」


小声で言い、荷物を置いていた教室へ戻った。


                  





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