第2話 ふぞろいな歯車たち(中)
『遠隔索雷機』:7型以降採用された人間を模倣する擬態能力が最大の特徴。
第2ハンガー内、遠隔索雷機(美崎重工製10型遠隔索雷機)
整然と機材が詰め込まれた第2ハンガーの片隅に全隊員が集まっている。
隊内であれば本来は機械の為に存在する空間なのだが、仮暮らしに妥協はつきものだ。銃や擲弾類のような兵器類が無いから出来た隙間に男達が詰め込まれている。
「分担が決まった。」
小隊長の言葉で打ち合わせが始まる。
「どうなりました?」
「順当な所だな。最外周を機動隊が囲んで市民保護も担当する。
その後、ウチが突っ込んで足止めしたら、レスキューの外骨格がネット投射器で逃げられないようにする。
最後に自爆前に液体窒素で停止状態にする。」
浮かない顔で女房役の分隊長が答える。
「前回からは機動隊の電撃も効かなくなったし、他に手がないですからね。
反応速度じゃウチより人間が着込んでいる外骨格の方が段違いに早いし、
飛び道具はお願いするしかないですよね。」
消去法の結果の、あまり望ましくない選択だ、小隊長の顔も険しい。
「だが、あっちは生身だ、おまけに耐爆じゃなくて防爆だからな。
そもそも市民保護の為に来てもらったのに、機動隊よりも先に突っ込ませるなんて、本末転倒だ、泥縄どころの話じゃないな。
・・・だから、いくら吹き飛ばされても問題ない俺達が守って、追い詰めて、
組み付いてでも足止めするのが必須の達成目標になる!」
何年も閉鎖地区でデシやボットを駆除してきたチームに齟齬や迷いは無い。皆が一様に頷く。
「了解しました。
しかし、たった3機の10型では、ある程度の速度が無いと足止めも出来ません。
何処まで軽くしますか?
将来デシやボットみたいに派手に自爆するようになったら予算的に痛いですが。」
「多分としか言えないが、こちらが銃器を使わない間は過去も自爆はしていない。
早ければ次の機会には相手もスタンを使い始めるだろうから絶縁は必須として、
それ以外は耐爆装備をきれいさっぱり、丸ごと外して出動する。」
思いもよらない発言を受け、一瞬の沈黙の後、歓声が湧く。
「凄い!太っ腹だ・・・自衛隊じゃないみたい。」
「お大尽だよぅ~♪」
「夢みたい、夢じゃないよね?」
「黙れ!我々が従事しているのは警察活動だぞ!
『命大事に』って事で機材を含む全消耗品費用は警察持ちだ。ふふふ・・・」
だが、皆が喜びに浸っていても、女房役には聞かなければならない事がある。
「あのー、小隊長、悪い顔している所、すみませんが、
最後の液体窒素はドコの担当になったんですか?ウチじゃないんですか?」
「全部だ、ウチ、レスキュー、機動隊、周囲の安全さえ確認できればすかさず使用する。」
「でも、それだと又機体が重くなるのでは?」
「だから、1機だけ窒素を担いでもらう。
まあ燃え残りでも判る事はあるし、ウチ以外は人命の危険がある以上、実際に使用するのはその1機のみだろう。」
方針は決まってもまだまだ未解決の課題は多い、為さねばならぬ事について隊員達が口々に意見を交わす。
「前2機、後1機?でもその後ろに外骨格が来るから・・・う~ん?」
「なにはともあれチームワークの訓練が必要ですね。」
「普通はボット相手なら撃ち合い、デシ相手だと単独処理ですからね。
ところで、お願いしたのってどうなってるんですか?」
「とりあえず、『中隊長さん』と『監督さん』の話し合い待ちです。
私としては『監督さん』の方が好みですが、
・・・なんであんなに拗れてしまったんでしょう?」
そう、銃器を使わない集団行動の訓練は思わぬところで頓挫している。
珍しく小隊長が隊員達に尋ねる。
「異教徒は許せても、異端者は許せないと言いうが。
・・・ラグビーとアメフトってそんなに違うものなのか?」
こんな時に答えるのも分隊長の役目だ。
「・・・違うみたいですね。」
「まぁ、『監督さん』は『中隊長さん』と違って現在無役みたいなものだから、
・・・こっそり見学してもらうことにする。」
「了解です。」
(上)のレスキューでもそうでしたが、現在の陸自的には変な所満載かと・・・違和感がありましてもお許しください。
一応、警察になめられないように、高めの階級の人達が派遣されてきている事にしています。
尚、『中隊長さん』は機動隊の元中隊長で対策課に来ている人。『監督さん』は1話でちょっと言われていた組織犯罪対策から来た人で、故障するまでアメフト一筋だった人です。20歳以上の年齢差とその間のスポーツ医学の普及が拗れている最大の原因です。みんないいひとなんです。・・・だから大変なんですが。
次回は幕間です。