幕間 ゼロアワー:-3
『ロボット』
人々の仕事を代替する各種機械のこと。
近年は、戦域監視や自動狙撃の機能を持つ無差別攻撃機械を指す事が多い。
目の前にあるのは鉄の箱だ。何処かの美大学生の作った前衛芸術と言われたらきっと信じる事が出来るだろう。
まずは素直に聞いてみよう。
「・・・で?こいつは何だ?元が大型フォークリフトなのは判るが。」
「いや、今でもフォークリフトですよ?
ちょっと鉄板で覆って、拾い物をフォークに乗っけただけです。」
立て板に水とばかりに答えが帰って来る。だが、舌は回っているもののこちらに目を合わせようとはしない。
「座席が無いぞ。」
「遠隔操作はメーカーオプションですよ?有線でも無線でも大丈夫です。
いやー利益や資産は課税されちゃうけど、投資には税金かからないし、課税軽減も有りますし。」
目が泳いでいる、お前、リコール報告の時の方がもう少し堂々としていなかったか?
まあいい、一番大事な事を聞こう。
「何を誤魔化そうとしているんだ?
ちゃんと役に立つのなら一緒に経理部でも社長にでも謝りに行ってやるぞ。
それよりこの『拾い物』っていうのは変だろう。」
「拾った人が寄付してくださいまして。」
寄付?この社会性が失われた都市で一番有り得ない言葉だ。いや、単に貨幣経済的な交換が無かったという意味なのか?
「・・・・・・・対価は?」
ついに下を向いてしまったが、答えは返ってきた。
「・・・工場の入門証です。」
つまり、逃げ帰ってきた従業員か、取引先辺りの顔見知りか?日本国籍が無いのは確実だな。入れてしまった以上、見捨てる選択肢は無い。どさくさ紛れに連れて行って、悩むのは帰国後にしよう。
「・・・我が生まれし日は呪われよ・・・」
「何の呪文です?」
「聖書だよ!もういい!」
そうだ、あれこれ悩むのは後だ、本題に入ろう。
「このフォークに乗ってるデカい鉄砲と削り出したばっかりのピカピカした台座は何だ!
きっちり怒ってやるから説明しろ!」
「ピカピカは後でペンキを塗ります。
毛虫かミノムシみたいにする案もあるので、間に合ったらそうなると思います。
後は見ての通り、サーボモーターでグルグル回ります。
デカい鉄砲は引き金から伸びてる鎖を遠隔操作で引っ張ると弾が出ます。
これ自体はそれだけのシロモノです。原始的ですね。」
見た目通りの説明だ。頭痛がしてくる。
「何処に飛んでくのかも分からんのか?撃てりゃいいのか?」
「・・・市の監視カメラネットワークはシステムダウンしていましたが、
ほとんどのカメラ自体はまだ損傷していません。
とりあえず給電して適当なサーバに繋いでみたら映りました。」
は?
「何がどう適当なんだ?映る訳ないだろう!そもそもどうやって繋いだんだ?」
「いや、当工場の外部監視カメラ映像は以前から市当局にも提供しておりまして。
使っているのも市当局の指定システムで・・・つまり同じ物なんです。」
「初めて聞いたぞ!」
「あれ?すみません、前工場長には言ってあったんですが。」
「あー!!!もういい!結論を言え!」
「えーと、カメラで着弾地点を観測します。
あとはホースで水を撒くように台座の角度を調整して的に当てます。
以上、この原始的機械の説明を終わります。」
半日以下ででっち上がった機械はそれなりの考えに基づいているようだ。役に立つかどうかは別だが、生きている死人のようだった連中の目に光が戻っているのは良いことだ。
「・・・分かった、で、どう使うんだ?
これだけの弾数であのワサワサいる武装勢力の相手なんぞ出来ないだろ?
ハチの巣つついて怒らせるだけじゃないのか?大体お前ら人間撃てるのか?」
「どうせ最後の抵抗ですし、どうしようもない場合だけって事で、
引き金だけは独立したボタンになってますんで、私が押します。」
やっとこっちを見たな。よし、分かった。
「馬鹿モン!俺が責任者だ!それは俺が押す!お前は引き続きコレの指揮を執れ。
それから、あと30分やるから引継ぎやっていっぺん仮眠しろ、これは命令だ。」
「・・・はい、じゃぁ寝ます。
みんなよろしく頼むな。運用チームになったみんなも一緒に仮眠取ってね。
製作チームの人達は最低限の運用ができるまで、あとちょっと願いします。
でも終わったら仮眠前に一度起こして状況報告をして下さい。
ではおやすみなさい。」
「ここで寝るな!ちゃんと仮眠室行け!」
「最大の秘密とは、それが実現可能であるという情報である。」
工場の外部監視カメラは、工場出入り口の警備員が使用しており、その警備員は市警察OBや関係者が作る警備会社の社員さんでしたので、誰も問題にしていなかったのでした。