表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロボット禁止法  作者: 沙阿弥
起動
6/12

第2話 ふぞろいな歯車たち(上)

『防爆』:ガス爆発が起きるような環境でも運用できる能力を示す。

第3ハンガー内、防爆外骨格(樋野防災機器製レスキューマスターⅢベース)


「ちょっと予備機の装備を組み直す。終わったらモニターしてくれ。」

 会議から帰って来るなり、小林主任は言った。


「何を変えるのですか?」

「まあ、速度を上げるだけだ。予備部品で足りそうだな。」

 なんだか嫌な予感がする。この人は目的の為ならば、自分自身の安全はあまり気にしない傾向がある。


 警察に協力する為に派遣されてきたレスキューチームの装備機材は、消防車や救急車を作っている会社が製造している最新型・・・の一つ前の型であるレスキューマスターⅢだ。

 なんでも「枯れてないのは不安があるから」だそうだが、自殺願望がありそうな人間に言われても「はぁ」としか言えない。


 コレの大元は医療用に親会社である自動車製造会社が開発していた介護用機器で、要介護者本人に着せて社会復帰を目指すという売込み文句で開発されていたものだ。が、ロボット禁止法の改正で市販ができなくなってしまった。

 開発チームの最底辺の下っ端だった自分も困ったが、開発元はもっと困った。その挙句に、残った市場である行政機関向けに「人の型をした災害救助用ジャッキ」という製品に仕立て直した。

 装着者と要救助者一人の生存空間を確保するという目的の為の堅牢な骨格と、標準的な木造家屋であれば圧し潰されずに済むという高トルクが売り文句だ。

 ・・・最大出力ではあっという間にバッテリーが空になるのが玉に瑕だが。一応オプションの電源ケーブルを引きずってもらえれば大丈夫という事になっている。


 元々が足腰の弱った老人の為のシステムだ、安全第一が基本思想になっている。瓦礫の山から要救助者を助け出すのにも「速度」は最重要の要素では無い、この人は一体何をやろうとしているのだろう。


 厄介な事に、私が「えー!」とか「あー!」とか「やり過ぎです!やめましょう!」とか言っている間に、試作機から乗り続けている主任は、門前の小僧よろしく手際良くモーターを交換したり、靴底を災害出動用のトゲトゲに付け替えたりしてゆく。

 ううっ、あんなので街中を走ったらアスファルトもコンクリートも傷だらけになっちゃう・・・

 大理石の床に白い跡を刻みながら、カーリングのストーンのように主任が滑っていく光景を思い浮かべて身ぶるいしているうちに、「組み直し」という冒涜行為は終わってしまった。


「電源投入します。」

「どうだ?」

「・・・起動チェックは正常終了してしまいました。」


 ゴリゴリと精神が削られるような気がする。いや、削られているのは安全係数だ。


「いや、一発OKならそれで良いだろ?」

「絶対不具合が有ります。人体実験には反対です。」

「今日は型稽古ってとこで止めとくか。」


 なんでこんな人が責任者なんだろう、主任ってレスキューでも小隊長をするような偉い人じゃなかったの?次の当直の人はまだ来ないのかな?・・・来ても止められないか・・・


「10型は無理でも、廃棄待ちの古い索雷機を用意してもらえませんか?人型だったら7型でもいいんです。」


 一応、会議の度にお願いしている事も確認する。駄目で元々だ。


「駄目だった、盗難事件以来、愛される自衛隊様のご機嫌は芳しくないんだ。」

「うう・・・すぐ隣のハンガーに最新型の10型改が3台もあるのに・・・」

「即応部隊の備品を壊しちまったらどうするんだ?俺の頭なら何度でも下げるが、出動できないせいで犠牲者が出たら?被害者になんて言うんだ?」

「・・・すみません。」

「さて、ロックを外してくれ。まずは歩行、次にジョギングかな?スキップもするか?」

「ゆっくりですよ、最初はゆっくりしゃがんで、それからゆっくり立ち上がって、違和感が無いかちゃんと確認してください。」

「ラジオ体操でもするか?」

「腰回りが一番不安なんです!

 フレーム強度ギリギリの出力まで上げてるんですよ!脊椎損傷になりたいなんて言いませんよね?」

「自重以外の負荷は掛けない使い方をするから大丈夫。

 次からはブリキのパンツでも用意するか?」

「・・・一度ウケたからって、3度も4度も同じネタっていうのは寒いと思います。」

「3回まではお約束だろ?」

「はいはい、おじいちゃん、もう夕ごはんは食べましたよ?」

「くぅ~!ママ!ボクのバディが虐めるんだ!」

「私は開発者です!バディさんが欲しかったらお隣に行って自衛官になってください。」

「えーそんなー。」


 もう無視無視!私は指示されただけ、抗議もログに残した。


「ロック解除!・・・OK。コントロール渡します、3、2、1、今!」

「・・・OK、変な共振は無い、直立正常。動作確認開始、前進3歩、後、停止する。」

「直立正常確認しました。前進してください。」

「前進する・・・面倒だな、1歩、2歩、3歩、停・・・あれ?」

「あ~っ!」


 衝突音よりも先に、椅子からお尻に振動が伝わってきた。

ちょっとずつヒーローものになってきたかと思いますが・・・


「発注書 品名:ブリパン―01、材質:ニッケルクロムモリブテン合金 形状、緒元は添付データ参照のこと。」


次回は幕間です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ