幕間 ゼロアワー:-4
『ロボット』
人々の仕事を代替する各種機械のこと。
近年は、戦域監視や自動狙撃の機能を持つ無差別攻撃機械を指す事が多い。
「瞳孔が収縮しています!」
「くそ!神経ガスだ!服をみんな剥げ、切り取るんだ!袋に入れて密閉しろ!」
「子供の方は怯えていますが、目立った外傷や影響はありません。」
「外の袋は危険だ、密閉してから処分だ。早く引き上げるぞ!お前らも上がったら服を処分しろ!」
マンホールから男達が出てくるとすぐに、車体の錆びたオイルタンク車がやってくる。
「工場長!海水です!昨日汲んだ分ですので洗浄に使えます!」
「海水浴禁止の海岸で滝行とは思わなかったな。よし、やろう。」
曇天の元、素っ裸になった男達が太いホースから出てくる海水を頭から被っていく。
最初に洗い終わった男が子供を抱き上げ、生産ラインの端にある事務所に向かうと、入れ替わりにタオルや作業服を抱えた事務員が出てくる。
紫色の唇から言葉が漏れる。
「工場長、連中、何を考えているのでしょう?」
「分からん、何も考えていないか、間違ったボタンを押したかだな。」
「ボタンの押し間違いで自国民の避難している場所に神経ガスをまき散らすのですか?」
「無政府状態だからな、
逃げ出せなくて沿岸部にへばり付いてる外国人への脅しのつもりなのかもしれないし、
侵略者に迎合する裏切り者への懲罰なのかもしれない。
・・・これが催涙ガスならそういう解釈になるのかもしれん。」
「勘弁してくださいよ。命があれば生産ラインも工場も要らないのに。」
「交渉は前からやっているはずなんだが・・・外務省の皆様がな。
棄民省にでも名前を変えやがれ。」
「工場長、ちゃんと寝てます?自棄になっても良い事ないですよ?」
「・・・裏目裏目だな。俺は博打には弱いんだった。
無理をして、避難所にいる市当局の人間に交渉しようとしたら、こんな事になって。
若いのまで酷い目に合わせて。・・・俺の責任だ。
どの面下げてご家族に会えばいいんだ・・・」
「でも下水道の悪臭避けに火災用のボンベ背負わせなかったら絶対帰ってこれなかったですし。
冗談代わりに持たせた『高山の綺麗な空気』のカセットガスが有ったから、
たった一人でも子供を助けられたんじゃないですか。
可愛い子ですよ?」
「・・・とにかく、なるべく海岸よりに人は寄せて、
反対側は何が有ってもいいように空けておこう。」
「もうなってます。
・・・みんなガスからちょっとでも遠くに行きたかったようで。」
「・・・そうか。他に出来る事は無いかな?」
「竹槍でもつくりますか?」
「もうちょっとマシなものが欲しいがなぁ。」
「・・・フォークリフトや自動搬送台は戦車じゃないし、
溶接ロボットやNC旋盤は鉄砲の代わりにはならないですし。」
「弾除けの鉄板を並べる位か。」
「他にやれる事もないですし、逃げる算段がつくまであれこれ弄ってみますよ。」
「好きにしろ。どうせ上手くいっても捨てる設備だ。
俺は・・・仮眠をとる。何かあったらたたき起こせ。」
ジョージ・オーウェル先生!ここいらが限界なんです。
ディストピアって難しいですよね。