第0話 こどもの国(下)
『知性化地雷』
各々がセンサーノードとしてネットワークを構築する地雷。
戦争末期には偽装能力や移動能力を持ち、都市基盤に寄生して稼働し続けるものが登場し、現在も駆除が続けられている。
一部には自爆機能の他に化学兵器も搭載されており、毎年犠牲者が発生している。
地雷駆除の現場では「デシ」と呼ばれる。
『デシ』
小型ロボットに対する俗称。戦前の玩具名称「デシボット」に由来する。
たっぷり5秒は凍り付いてから、体を無理やり、ゆっくり動かす。後ろへ、戸口へ、モドキの足跡のちょっと手前まで。
兄ちゃんの言葉を思い出す「りせいだ!いしのちからだ!」うん、兄ちゃん大丈夫、さらにゆっくり戸口から横へ、部屋の中からは見えない死角へ。暗い戸口の脇に自分が立っているのを確認する。モドキの足跡も踏んで消してないし、自分の足跡を残すようなヘマもしていない。
声を出さずに涙だけを流し終わると、少し落ち着いた。
バカで浮かれていた自分を叱ってから、ねらいを変える。モドキの足跡をたどって外れないように進み、何かを拾って帰ろう。もちろんモドキの足跡の脇に自分の足跡を残すようなヘマはしない。
歩き始めて気が付くが、さっきよりも暗闇に目が慣れてきているのが分かる。ビルのあちこちから光が入ってきて、見えていなかった物が良く見えるようになっている。
「たんきはそんきよ」姉ちゃんの声が聞こえるような気がする。うん、帰ったら姉ちゃんに何かお土産を渡そう。ハンカチかな?
モドキの足跡は廊下を行って帰って、階段も登って・・・降りてきているみたいだ。部屋の中は入っていないのかな。ゆっくり足跡をたどっていくと、階段下の暗がりにクズのツルみたいな物を見つけた。
ドキドキする心臓をなだめて、周囲を観察する。有難いことにデシがギタイできるようなゴミは無い。ニッパーを取り出し、握る。今日の「しゅうかく」は電源延長ケーブルのタコ足配線だ。タコ耳のご利益かな?見える限りの赤金をゆっくりパチパチと取り外す。真っ黒い埃に包まれた赤金は今日、リサイクルショップで換金されて何かの銅製品に生まれ変わるのだ。
タコ足配線は、ビル1階の入口付近で勝手放題に伸びまくっていたがあちこちで乱暴に切断されていた。兄ちゃんが言うにはモドキがデシに利用されないようにそうするんだそうだ。電信柱から電線が切り落とされているのも同じリクツだとか。次に来る時はちゃんと大きい道具を持ってきて外の電線を持って帰ろう、重たくても安心な方がいいよね。
「しゅうかく」しても、あまり目立たないようにするのが大事な「おさほう」なので結構時間をかけてしまったが、なんとか無事に「新しい穴」に戻れた。
「・・・ただいま。」って兄ちゃんに言うと、何も言わずに兄ちゃんに抱きしめられた。
「兄ちゃん、あついよ。」って言うと、兄ちゃんは「てをだして、ほら、あらわないと。」ってペットボトルの水と灰色の石鹸を出してくれた。爪の間や親指の元の方までキレイにして、ついでに顔も洗う。兄ちゃんこんなに口うるさかったかな?
ついでにタコ足配線の被膜を剥くと、せっかく洗った手がまた真っ黒になって、二人で笑ってから、また洗った。
帰りにリサイクルショップで赤金を売る。手間の割には細いので安い。兄ちゃんはそれでも嬉しそうなので、理由を聞いたら、オレが無事なのが嬉しいんだって。なんだか兄ちゃんらしくないよね。
換金したお金は、姉ちゃんに渡すことにした。みんなで食べるには少な過ぎるし、いつもやりくりが大変なのは姉ちゃんだし。
* * *
・・・その晩、閉鎖地区がどうだったかーとか、何をしたかーとか、姉ちゃんに根掘り葉掘り聞かれて、兄ちゃんと二人で凄く怒られた。まだデシの駆除がある程度進んでいない所は子供でも危険なんだって。兄ちゃんと二人で口ごたえしたら、「わたしのほうが、けいけんも、くでんも、いっぱいあるの!」って言われてもっと怒られた。
それだけかと思ったら、一通り怒った姉ちゃんが「もうこーこーは行かない、しゅーしょくする!」とか言い出してもっと大変だった。兄ちゃんと二人で「ごめんなさい、もうしません。」て言って許してもらった。
寝る前に兄ちゃんに「くでんってなに?」って聞いたら、施設の先輩たちの経験を後輩に聞かせてきたお話なんだって。閉鎖地区から帰ってこなかった子の話はもっといっぱいあるんだっていわれて、トイレに一緒に行ってもらってから寝たら、夢の中にヤドカリみたいなデシとかドラム缶位大きなキノコみたいなボットとかが出てきて、追いかけまわされてすごく怖かった。
けど、夜中にうなされて目を覚ましたら、兄ちゃんがまだ起きててもう一度トイレについてきてくれたから、そのあとはちゃんと寝れた。世界地図を作らなくて済んで良かった。兄ちゃん姉ちゃんありがと。
次回は幕間です。