幕間 ゼロアワー:-1
『ロボット兵器の歴史』
今日に至るも、初めて実用的な自律攻撃兵器が使用されたのが何時であったのかには定説がない。
初期に喧伝された成功例は、誇大な戦時プロパガンダであったり、告発者の誇張であったりするものが多く、その当時の技術水準を無視した主張には疑いの余地も多い。
ここから見える市街に人気は無かった。俺達は何でこんな所に居るのだろう?
最初は暴動鎮圧だと言われて出動したはずが、途中で反乱軍と戦う事になったと言われた。いざ、目的地に着いたら、突然の後退命令で何も見ない内に逃げ出し、市外に出たら出たで、後続部隊に銃撃された。その内に日が暮れて、夜が明けた。
電話もネットも繋がらない、テレビも映らない。ラジオの国営放送では戒厳令の布告と国歌が延々と繰り返し流れされている。それ以外の周波数は雑音だらけだ。短波ラジオを隠し持っている奴の海外情報でも訳が分からないと言う。
こうなると噂レベルの話に頼る他は無い。
中隊本部を覗きに行っていた奴の話では連隊長は逮捕されたそうだし、おまけに俺達は臨時大隊とかに改編されてまた市内に行かされるらしい。
「一体何と戦うんだ?暴徒どころか人っ子一人居ないぞ?暴徒や反乱軍は何処だ?」
「でも索敵に出た小隊が全滅しただろう?」
「そう言われて一遍後退したけど、市外に出たら今度は後続部隊から撃たれたじゃないか。
一体何がどうなっているんだよ。」
「・・・とにかく、増援が来たら前進だとさ。
前進して、抵抗勢力を排除して、治安を回復せよっていうのが、新しい命令になるそうだ。」
「本当にそれ、政府の命令なのか?」
「止めろよ、疑ったって俺達に判る訳ないだろ。見ろ、増援だ。」
「・・・なぁ、あの服装は治安警官じゃないのか?おまけに盾と警棒しか持ってないぞ?」
「くそ!あんな連中と戦列なんて組めないぞ。前に行かせて弾除けにしようぜ。」
「そういうのは小隊長に言えよ。」
バラバラな装備の部隊が、ワンブロック進む毎にぎくしゃくと足並みを揃えながら進んでいく。
右隣の通りをポリカーボネートの盾を持った警官が、左隣の通りを昨日俺達に銃撃してきた部隊が進む。右の警官たちは直ぐ後ろで銃を構える軍警を不安そうに振り返りながら進んでいるし、左の部隊は猜疑心に満ちた視線を浴びせてくる、まだこっちを反乱軍かと疑っているようだ。最悪だ。
誰も彼もが怯えている。それでも真っ黒に焼け落ちた市庁舎の近くを通り過ぎる頃までは愚痴を言うだけの元気は有った。
でも、カラフルなテントが雑然と並ぶ避難所まで来た時には、通信機に叫ぶ隊長以外、誰も何も言わなくなった。風の音しかしない。こんなに・・・たくさんの人が居るのに。
結局、その場は後続部隊に任せるから進めという命令が来た。
みんな黙って前進する、そして、時折、発砲音が響く。その度に、隊列は止まる。
原因はカラスだったり、味方のドローンだったり、置き去りにされた犬だったりした。
カラスは目の敵のように撃ち落とされ、ドローンが落ちるのも一度見た。犬は人懐こい大型犬で高層住宅の入口を守っているようだった。皆がその前に手持ちの食べ物を積み上げる。普段「犬は食える。」と主張する同僚までがとっておきの缶詰を開けた。
・・・そして、やっと道の向こうに鈍く輝く海が見えてきた。
「おい!見ろ!あの工場の煙突は煙が出てる!誰か居るんだ!」
仲間が言う。確かに、火事ではない。煙突の先からうっすらと煙が出ているのが分かる。
行かなくてはいけない。何が有ったのか知るために。
幕末日本の外交官は「内戦は戦争よりも恐ろしい。」と言ったそうですが、冷戦後の各国内戦を見れば同意せざるを得ませんね。
書き溜めもそろそろ終わりなのですが、この先の方針はちょっと悩み中です。
ゼロアワー:0は無い方が良いかな?と思っています。本編以前のお話ですし。
悲しい内容になりそうですし。
どどっと書いたものを、矛盾が無いようにチェックしながら、連日少しずつ進めてきましたが、
毎日読んでくださっている方もおられるようなので心苦しいのですが、
少しお休みいただこうかな?と考えています。




