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01

 目が覚めるようにだんだんと意識が覚醒していく。


  あぁ、朝か……


 瞼の裏から、うっすらとした光を感じる。


『汝はなにを望む』


 ふと、脳内にそんな言葉が思い浮かんだ。

 いつもなら二度寝をするところなのだが、なぜか意識だけははっきりしている。

 温かく心地のいい空間に浮いているように感じる。


 もしかしたら、明晰夢の中にいるのかもしれない


 ふとそんな考えが頭をよぎる。


『汝はなにを望む』


 また、そんな言葉が思い浮かんだ。


  なにを望む、か……

  お守りとかに本当に効果があったら、嬉しいかもな……


 俺はほぼ毎年買っているのに、ご利益のない 無病息災 のお守りを思い浮かべる。

 正月に初詣でに言った時、家族全員が何かしらのお守りを買う。俺の場合は特に彼女が欲しいというわけでも、学業で神頼みをするつもりもないため、無病息災のお守りを買っている。だが、買わなかった年は風邪をひかず、買った年は風邪をひくため、損をした気分になるのだ。

 まあ、今年は高校生という事もあって、恋愛成就のお守りを買った。好きな人は特にいないが、そろそろ彼女くらいは欲しい。

 お守りを買ってご利益がないどころか、正反対の効果を出すのはやめてほしい。


『汝の願い聞き届けよう』


 先程とは違う言葉が浮かんだ。

 どうやら、寝ぼけているようだ。

 願望を聞かれて考えていたら、叶えようだなんて、夢以外に考えられない。


  やっぱり明晰…む……か…………


 その結論にたどり着くと、俺はいつの間にか意識を手放していた。



◇◆◇◆◇◆◇



 太陽の暖かな光をうっすらと感じられた。

 朝が来たようだ。

 俺はゆっくりと目を覚ました。

 目を開けずに布団に身を任せていると、時間がたつにつれ、意識がだんだんとはっきりしてくる。


  なんだか、変な夢を見たような……


 俺はどんな夢だったかを思い出そうとしたが、雲をつかむような感覚で、少し前まで覚えていたようなこともいつの間にか消えていた。

 やがて、なにを思い出そうとしていたのかすらわからなくなった。


「うぅ……」


 今は11月だが、外はもうすでに冬かと思うほど寒い。俺は顔が冷たくなっているのに気づき、頭まで布団をかぶる。男子の平均身長よりも少しだけ身長の高い俺がそんなことをすると、体を伸ばしたままでは足が出てしまうため、モゾモゾと動きダンゴ虫のように丸くなる。


  ここから出たくねぇな~


 天国のような空間でそんなことを考えていると、また眠気が襲ってくる。

 だが、無慈悲にも時間は俺の考えを無視して、動き続ける。

 このまま寝てしまおうかと考えたその時、


修斗(しゅうと)~、起きないと遅刻するよ~」


 母さんが大声でそう言った。

 修斗とは俺の事だ。

 昨日はまだ木曜日だったため、今日も学校はある。


「は~い」


 返事をして、掛け布団を体の上からどかすと、天国のような布団の上が現実という名の地獄に代わる。


「さむっ!」


 わかっていたことではあったが、思わずそんな言葉が口をついた。

 そして、布団から降りようとしたその時、


   カラン


 なにかが床に落ちた音がした。


「なんだ?」


 昨日の夜、布団の中になにか持ち込んだ記憶はない。ベッドの周りに物を置いたり、立てかけたりした覚えもない。

 なにが落ちたのかと考えながら周りを見ると、白い箱のようなものがあった。

 その白い箱に指先で触れると、目の前に


ゲームの画面のようなもの


 が表れた。


「なっなんだこれ!」


 俺はそう叫びながら、突然出てきた画面?に触れようとする。

 だが、それに触れようとすると手が通り抜けてしまい、触れることが出来なかった。


「あ、」


 唐突に、この画面が出てきた要因と思われる、あの白い箱のことを思い出す。

 床からそれを拾い上げる。

 それは持っているはずなのに重さは感じられず、感触もよくわからない。とても不思議なものだった。おそらく現代の技術では再現できないだろう。


「一体なにが起きているんだ?」


 俺がそうつぶやいた瞬間だった。


「うわっ!」


 それは急にポリゴンが砕けるようにして消え、その内側から強い光を放った。

 俺はとっさに目を閉じる。

 光が収まり、俺は目を開ける。

 それがあった手の上を見ると、そこには眼鏡のようなものが乗っていた。


「これ、眼鏡、だよな……」


 もともとあった白い箱が消え、黒のフレームの眼鏡のようなものが出現したことに困惑しつつも、手の上のものをまじまじと見つめる。

 だが、おかしな場所は見当たらず、どこからどう見ても眼鏡だった。

 顔の前まで持っていき、眼鏡と同じようにかけてみる。

 度は入っておらず、サングラスでもないようだった。

 だが、レンズを通すと、さっきと同じようなものが見えた。ゲームのメニュー画面のようなものだ。


  なんなんだよ、これ……


 困惑して下を向くと、髪がレンズにかかる。

 メニュー画面のようなものは、いまだ俺の目の前にあった。

 邪魔になっていた髪をはらうと、画面が消えた。


「修斗~、起きてるんでしょ~。早く眼鏡をかけて(・・・・・・)降りて気なさーい」


 母さんが再度大声を出して俺を呼んだ。


  ん?


「母さん! 今、なんつった?」


 俺は聞こえたことに違和感を覚え、聞き返す。


「聞こえなかったの? 早く眼鏡をかけて降りてきなさい」


  眼鏡をかけて?


 俺は今まで一度も視力が低下したことがない。前回の視力検査でも2.0をたたき出している。

 それは今でも同じだ。起きた時は眼鏡をかけていなかった。その状態ではっきりといつもと変わらず見えたんだから、視力が低下しているとは思えない。

 なのに、母さんは今「眼鏡をかけて」と言った。

 聞き返しても同じ答えだったから、間違いではないはずだ。

 そして、眼鏡とは


  これの事だよな


 無意識に眼鏡に手を当てながら、そう結論付ける。

 ふと時計を見ると、起きないとマジで遅刻しかねない時間だった。

 俺は仕方なくわけがわからないまま、一階へと降りた。



◇◆◇◆◇◆◇



「母さんおはよう」

「おはよう、修斗。早く学校に行かないと遅刻するよ?」

「ああ」


 そんなことはわかっていた。

 だが、この眼鏡の事が気になりそれどころじゃない。むしろ学校を休みたいくらいだ。

 とりあえず、眼鏡の事を聞いてみることにした。


「母さん、俺って眼鏡なんかかけてたっけ?」

「なに言ってるの? ついこの間の視力検査で、あんたの視力が急に落ちたとかでかけるようになったんじゃない。朝はかけずに降りてくることが多いから、注意したけど、もう忘れたの? それとも、まだ寝ぼけてる?」

「いや、大丈夫だ。思い出いした」


  どういうことだ?

 俺はさらに困惑した。

 「ついこの間の視力検査」と言ったが、そんなものがあった記憶はない。それに視力は低下していないことは確かめたはずだ。仮説を立てるとしたら、夢、というのが一番有力だろう。


「ほら、変なこと言ってないで、これ食べてさっさと学校に行きなさい。ほかのみんなはもう学校に行ってるんだから」

「あ、ああ」


 俺はよくわからないまま、朝食を食べた。

 ちなみに他のみんなというのは、父の楽斗(がくと)、兄の竜斗(りゅうと)(いつもは竜兄(たつにい)って呼んでる)、姉の沙良(さら)(いつもは沙良姉(さらねえ)って呼んでる)、弟の和斗(かずと)、妹の愛良(あいら)のことだ。

 余談だが、和人と愛良は双子でそっくりだ。一卵性双生児で生まれたのが異性というのは、結構珍しいらしい。ちなみにそのせいで、和斗は女の子のような容姿をしている。

 竜兄は大学生で、沙良姉は俺と同じ学校に通っている。和斗と愛良は中学生で来年受験だ。一応、俺たちと同じ学校に通う予定である。一番近い学校という事もあり、竜兄も同じ学校の出身だ。

 そんなことを考えていると、いつの間にか食べていた食事はなくなっていた。時計を見ると、すでにゆっくりと休んでいるような時間はなくなっていた。


「母さん、沙良姉は?」


 一緒に学校へ行くはずの姉が、まだ起きてこないことが気になって聞いた。いつもは俺よりも早く起きているのに、今日はやけに遅い。


「沙良は日直があるとかで早く行ったよ? あんた聞いてないの?」


 あれ? と疑問に思った。なぜなら、沙良姉は昨日が日直のはずだからだ。


「いや、今思い出した」


 とりあえずそう答え、自分の部屋に戻る。

 俺は身支度をしながら、スマホを見た。


「一日戻ってる……」


 日付を見ると、寝る前と変わっていなかった。


「どういうことだ? あの白い箱と言い、日付と言い、どう考えても普通じゃない。いたずらにしても大掛かりすぎるぞ」


 試しにネットで調べてみるが、結果は変わらなかった。


「なんなんだ、一体……」


 俺はそうぼやきつつも、身支度を終え


「行ってきまーす」


 母さんにそう言って、家を出た。

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