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空中散歩  作者: 雨咲はな


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9.特効薬



 朝、学校に行くためにアパートのドアを開けたところで、同じくちょうど家を出るところだったらしい隣人の美沙と出くわした。

「おはようございます」

 礼儀正しく挨拶はしたものの、成海は内心で首を竦めるような気分だった。

 隣の部屋に住む美沙は、新婚の共働きで、平日は仕事、土日は遊びで家を空けることが多く、彼女の夫ともども、滅多に顔を合わせることはない。それが偶然にも同じ時刻に出発が重なるとは。これでは成り行き上、駅までの道のりを二人で一緒に歩かなくてはいけないということだ。

「あっ、おはよう」

 マスカラで綺麗に仕上げた睫毛を上下させ、美沙は親しげに笑いかけてきた。自分を飾ることが大好き、という彼女は、化粧も服装もいつも気合いが入っていて、両指の爪には常に凝ったネイルを施している女性だ。笙子と年齢は近いが、化粧の仕方も性格もかなり違う。

「今日は、少しゆっくりなんですね」

「そうなの。寝過ごしちゃってえー」

 アハハと陽気に美沙は笑ったが、歩く足取りはまったく急ぐ様子を見せない。学校まで三十分足らずで行ける成海と違い、美沙は通勤に一時間以上かかると聞いたことがある。大丈夫なのだろうか。

 しかしだからといって、急がなくてもいいんですか、とは言えない。なんとなく並んで歩いていたら、アパートの敷地を出て数歩進んだところで、美沙が「ねえねえ」と顔を寄せてきた。


「成海ちゃんち、最近、お兄さんの姿を見ないような気がするんだけど」


 来ちゃったか。

 前方を見ながら一拍の間を置いて、ううーんと考える。この手の質問をされるだろうなと予測はしていたが、一発目から直球で来るとは思わなかった。これから駅まで十分、試練の時だ。

「実は仕事で、研修に行ってるんです」

 とは言ってみたものの、相手の目はまったく納得していないようだった。

「えー、そうなの? 研修? どこに?」

「海外に、研修のための施設があって」

 そういうことにしておこう。日本国内の地名を出したら、休みにも帰ってこないことを不審がられそうだ。国外での長期研修だから、誠はほとんど家に帰れないのだ、そうなのだ。ちなみに誠が勤める会社は、海外の研修施設どころか、国内に支店もない。

「えっ、海外? どこ?」

「アメリカに」

 とりあえず、人口の多いところを挙げておく。

「うっそ! すごいね! そんな大企業に勤めてるの?」

 目を輝かせた美沙に、どこ、どこ? と身を乗り出して訊ねられ、ムニャムニャと濁した。自分がものすごくウソつきになったようで、非常に居心地が悪い。

 美沙は、決して悪い人ではないのだが、好奇心が旺盛というか、少々──かなり、詮索好きな女性で、その上掴んだ情報を他人にぺらぺら話すのもあまり躊躇のない性質でもあり、しばしば成海を困惑させる。こういう人に、兄は現在行方不明で、と正直に話すのはどうにも気が進まなかった。

「へえー、それで、ずっと留守なんだ。ぜーんぜん見ないなあ、って旦那とも話してたんだけどさ」

「二、三カ月くらい前からですよ」

「そうだっけ?」

 成海のサバ読みに、美沙は首を捻った。ちょっと疑わしそうでもあるが、もともと滅多に顔を合わせない隣人同士なので、彼女としても誠の不在がいつからなのかまでは確証がないようだった。

「で、研修って、期間はどれくらいなの?」

「もうしばらくかかりそうですね」

 あやふやに答えて、一瞬、目を逸らす。

 誠の不在がいつ終わるのか、いちばん知りたいのは成海のほうだ。本当は、明日だって、今すぐだって、帰って来てくれて構わないのだけど。

「ええー、じゃあその間ずっと、成海ちゃんは一人暮らしってこと?」

「……そういうことに、なります。留守番というか」

 成海の年齢がもっと下であれば、間違いなく遺棄児童として通報されそうなケースなので、用心深く返事をした。成人になっていれば、あるいはすでに働いていれば、一人暮らしでも問題はないのに、十八歳の高校生というのは微妙な立場なのだった。

「いいじゃん、遊び放題じゃん。それで最近、夜遅くに帰ってきてんのね」

 遅いのはバイトをしているからなのだが、帰宅時間まで把握されているのかと思うと、ヒヤリとする。隣近所の住人にはまったく無関心、という人も多いのに、少なくとも美沙はそういうタイプではないらしい。

「ふうーん……」

 美沙の窺うような目がこっちを向いた。成海はそもそも、ウソをつくのは好きでもないし、上手でもない。彩られた唇の端が、意味ありげに上がっているような気がして、心臓が縮みそうだ。

「ね、つかぬことを聞くけどさ」

 美沙がくすっと笑って、声を潜めた。鼓動が跳ねる。


「……成海ちゃんのとこって、ホントに兄妹なの?」

「は?」


 思ってもみなかった角度からの問いかけをされて、かえって反応が出来なかった。それを怒らせたと思ったのか、美沙が取り繕うように笑い声を立て、急いで片手を振る。

「あ、ううん、あたしがそう言ってんじゃないからね。ほら、アパートの他の奥さんと立ち話した時に、ちらっとそんな話題が出てさ。ちょっとした軽い冗談っていうかね」

「えっと……私と誠ちゃ……兄が、本当は兄妹ではないんじゃないかっていう?」

「うん、まあそうね。怒んないでよ? そんな話もある、ってだけのことなんだから」

「怒りはしませんけど……」

 怒りはしないが、呆れてしまう。兄妹じゃなかったら何だというのだろう。恋人同士とか、夫婦とか? 兄のことは好きだが、それはちょっとなあ、と思った。ごめん、誠ちゃん。今、自分でも思いっきり引いた。

「実はどこかから駆け落ちでもしてきたんじゃないのー、とか。あ、別にあたしが言ったんじゃないんだけどね」

 それにしては、くすくす笑って楽しそうだ。

「中学の時に両親が亡くなったので、それからずっと二人で暮らしてます」

 言いながら、そうか、と思った。あのアパートに成海と誠が移り住んできたのは三年ほど前になるが、その当時からの住人はほとんどいない。入ってくる新婚さんたちは、大体子供が出来ると越して行ってしまうので、住人の回転が速いのである。

 美沙のところも含め、最近になってやって来た人たちからすると、誠と成海は、年の差ありの同棲カップルのようにでも見えるということか。うん、ごめん誠ちゃん。やっぱり引く。

「へええー、じゃあやっぱりホントに兄妹なんだ」

 美沙は、つまんない、と言いたげな顔をした。

「間違いなく」

「兄と妹にしちゃ、仲が良すぎない?」

「そうでもないと思うんですけど」

 そういえば晃星も、ブラコンシスコンコンビとか言っていたが。成海としては、ずっとそれが普通だったので、そんなに変だとは思わない。仲が良いといったって、もちろん恋人同士のようにイチャイチャしたりはしないし。

「ふーん、そっかー、兄妹かー。最近お兄さんのほうを見ないから、実は破局を迎えちゃったんだったりしてー、とか言ってたんだけど。捨てられちゃったのかなー、なんてさ。あ、うん、もちろん冗談よ、あはは」

「…………」

 言葉の棘が、ちくりと胸を刺した。

 とにかく、どこまでが冗談なのかは判らないが、そんな噂が立っていることは事実らしい。その中心にいるのが美沙であれどうであれ、他のアパートの住人たちでさえ、そろそろ誠の長の不在を訝しく思いはじめているということなのだろう。

 胃の下のほうが重い。

 そうしているうちに、ようやく駅に到着した。方向が違うので、美沙とは改札で別れて、ふうと息をつく。朝から疲れた。


 ──もうすぐ限界っていうことかな。


 ホームで電車を待つ人込みの中に立って、ぼんやりと考える。

 無責任な噂は、いずれはっきりとした疑惑に形を変えていくだろう。海外研修なんて口実が、いつまでも続けられるものではないということくらいは判っている。いやそもそも、成海一人しかいないのに、あのアパートに住み続けているというのがおかしいのだ。家賃だけでも相当な出費で、預金残高を考えると、たとえ成海が卒業して就職したとしても、支払いを維持していくことは出来ない。

 もって、半年。それを過ぎたら、あそこを出なければ。

 両親と過ごした家を離れ、誠と一緒に、やっと築いた第二の安住の地だった。いつ誠が帰ってきてもいいように、出ていった時と同じくふらりと戻ってきた誠がすぐにドアを開けて入ってこられるように、ずっと、あの場所で待っていたかったけど。


 ……それは無理みたいだよ、誠ちゃん。

 ごめんね。



          ***



 学校に着いたら、ちょうど下駄箱のところで園加と会った。今日はよくよくバッタリの多い日だなあと可笑しくなる。

「おはよう、園ちゃん」

「あ、おはよ。ねえねえ成海、英語の課題やったー?」

「うん」

「見せてお願い! 今日あたし当たりそうなの!」

「うんいいよ。でも当たりそうだって判ってるなら、ちゃんとやってきたほうがいいよ」

「穏やかな顔でズバッと正論言うのやめてよ! あんたのそれ、普通に怒られるよりもキツいのよ!」

 園加は、成海の兄がいなくなったことを知っても、過剰な同情も心配もしないという、稀有な性質の友人だ。こちらの事情にはほとんど頓着しないで言いたい放題を言うので、成海は園加と話すと心からホッとする。

 二人で教室に向かう途中で、担任の上田と行き会った。「おはようございます」と成海は頭を下げて挨拶したが、上田はそのままこちらを見もせずに無言で傍らを通り過ぎた。隣の園加が眦を吊り上げ、後ろから上田の背中に蹴りを入れようとしたので、制服の袖を引っ張って止める。

「まあまあ、園ちゃん」

「まあまあじゃないっつの! あいつシカトしたよ、担任のくせに!」

「気にしてないから」

「気にしろ、って言ってんの!」

 園加はカンカンだが、成海は気にしない。正確には、気にしないようにしている。兄のことを話してからというもの、ずっとこうなのだ。最初は戸惑ったし、落ち込んだりもしたが、今はもう、あからさまに嫌そうに避けられるよりは、むしろこっちのほうがいい、と前向きに考えている。

 多分、あの担任は、切実に、成海のことを「なかったこと」にしたいのだ。厄介な問題を背負った生徒のことは考えたくない。消えて欲しい。だから、普段は、心の中から成海という存在を消している。目に入れても、なるべく見えないことにしている。

 話のできる大人を連れて来い、というのも、その相手に面倒事をそのまま投げ出してしまいたいと望んでいるからなのだろう。

 だとすると、なおのこと征司には頼めないなと思う。後輩の妹というだけで、担任からすべての責任を押しつけられて困る姿がありありと浮かぶ。それはあまりにも不条理というものだ。


 やっぱり、自分一人でなんとかしよう。


「あのねえ、成海、あたしはね!」

 気がつけば、園加はまだ怒っていた。

「真っ当に生きる善人が報われない話っつーのが、昔から大っ嫌いなのよ! 幸福な王子の話、知ってる?!」

「うん、知ってる」

 サファイアやルビーで飾られた立派な王子の像が、不幸な人々に自分の宝石をあげて欲しいとツバメに頼む。次々に自分の身体の宝石や金箔を外してみすぼらしい姿になった王子の像は溶鉱炉で溶かされて、残った心臓が死んでしまったツバメと一緒に捨てられてしまうという、ちょっと悲しい結末の童話だ。

「あれを読んだ時には、それから一週間、腹が立って悔しくて眠れなかったくらいなんだからね! あれはマジ泣いた! アホかっつーの!」

 アホ、というのは何に対してなのかよく判らない。善良な王子の像なのか、律儀なツバメなのか、その優しさを理解し得ずに彼らをゴミとして捨ててしまった街の人々のことなのか、それともおとぎ話にマジで泣いたという自分自身なのか。

「わかる?! あたしはそういうのがすっげえイヤなの! 許せないの! 見るのも聞くのもイヤなの! だから怒れ! わかる成海?!」

「うん、よく判らない」

 よくは判らないが、とにかく顔を真っ赤にして怒っている園加を見ると、なんとなく心が温かくなって、ちょっと笑ってしまった。拳にしてぶんぶんと振り回している友人の手を取り、きゅっと握る。

「ありがとうね、園ちゃん」

「……いざとなったら、うちに来ればいいんだからね、成海。あんた一人くらい住まわせてやるからさ」

 ぼそっと低い声で言われた言葉には、曖昧に微笑むだけにした。園加は少々派手好きで、性格的に暴走しがちなところもあるが、いたって健全な家庭で育った女の子だ。両親と弟と仲良く暮らすマンションに、まさか本当に転がり込めるわけがない。

 でも、そう言ってくれる気持ちは嬉しい。自分のために怒ってくれる心のありようが嬉しい。成海はえへへと笑った。

「ありがとう」

 もう一度言うと、園加がむっと唇を突きだして、ふんとそっぽを向いた。照れているらしい。

「学校の廊下を女同士で手繋いで歩くってキモい。小学生みたい」

「あ、よくやったよね、こういうの。このまま仲良くトイレに行こうか、園ちゃん」

「絶対やだ!」

 きっぱり断られてしまったが、繋いだ手は振りほどかれたりはしなかった。



          ***



 約束の水曜日の前日の夜遅くになって、晃星から電話がかかってきた。

「ごめん、ギリギリになって」

 と言う彼の背後からは、なんとなくざわざわとした雰囲気が伝わってくる。出先からかけているのかな、とちらっと思った。まだこちらには帰ってきていないのだろうか。どこに行っていたのかも謎のままなのだが。

「明日、時間と待ち合わせ場所は前と同じでいいかな」

「はい、いいんですけど……あの、大丈夫なんですか。忙しいのなら、無理しなくても……」

「大丈夫大丈夫」

 軽い感じで言っているが、かすかに向こうから聞こえるのは発車ベルの音だ。ということは、ひょっとして、これから電車に乗るのでは? 今どこの駅にいるのか判らないが、成海の用事に付き合うために、彼はわざわざ夜行に乗ってこちらに帰ってくるのだろうか。

「……本当に無理してませんか?」

「俺が大丈夫って言ったら大丈夫なの。それより成海ちゃん、そっちは何もなかった? あんだけ言ったのに、この一週間、メールも電話もしてくれないんだもんなー」

 拗ねるような声だった。

「特にメールや電話をする用事がありませんでした」

「成海ちゃんは冷たい! おやすみ、とか、おはよう、とかその一言だけでもいいじゃん。ハートマーク付きの」

「え、だって、メール一件にも通話料が発生して」

「わかったよ、待ってた俺がバカだった! これからはこっちからメールする!」

 もうー、と晃星は電話の向こう側でぶつぶつと言っていたが、成海は咄嗟に返事に詰まった。


 ……「これから」?


「で、変わったことは何もない?」

「あ、はい、何も」

 征司に、その人物は信頼できないから関わらないように、と忠告されたことは胸の中にしまっておく。実は今日も、例の彼はあれ以降接触がないんだろうね、と心配そうに訊ねられたばかりなのだ。

 あっちにもこっちにも内緒のことばかりを抱えていて、いつかぱんぱんにお腹が膨れてしまいそうである。成海は少し考えて、そのうちのひとつだけ、外に出すことにした。これくらいのことなら話してもいいだろう。

「えっと、この間のことなんですけど」

「うん?」

「同じアパートの人に、私と誠ちゃんは本当に兄妹なのかって聞かれました」

「はあ? なにそれ」

 美沙に言われたことを再現して聞かせると、あちら側で、晃星は大笑いした。おそらく駅構内にいるのだろうと思われるのに、周囲を憚る様子もない。そこまで笑うようなことかな、とは思うが、晃星の立てる笑い声はどこまでも快活で陽性で、こちらまで楽しくなってくるくらいだった。

「なんだそりゃ! そんな風に見られてたんだ、二人! すげえ、さすが!」

 何がさすがなのか意味が判らないが、あまりにもあけっぴろげに笑うので、成海もつられて笑い出してしまう。

「私もびっくりしました」

「そりゃびっくりするよね。誠は案外喜ぶかもしれないけど。いやそれも怖いな。成海ちゃんはどう思ったの?」

「かなり引きました」

 正直に言ったら、またげらげらと笑われた。

「しっかし面白いこと考えるよね。高校に通ってる女の子と社会人の組み合わせで、駆け落ちかなんて発想はなかなか出てこないよ、普通」

「ですよね」

「あ、でも、高校生の奥さんか……その響きはなんかちょっといいな。おさな妻ってやつ? うわーエロくてそそる」

「…………」

 ものすごく嬉しそうな呟きを耳にして、それにも引きそうになった。

「じゃあ、明日」

「待った、なんでいきなり会話を打ち切ろうとしてんの? 冗談だってば。It's a joke! ごめんなさい」

 子供のように謝られて、噴き出す。

「本当に信じてもらえたのかどうかは、はっきりしないんですけど」

「気にしない、気にしない。何をどうしたって、いろいろ言うやつは言うもんさ。下世話な好奇心はいずれ本人に跳ね返る。成海ちゃんまであっちに合わせて品性を落とすことはない。ほっときゃいいよ」

「はい、わかりました」

「たいへん素直でよろしい」

 晃星は満足そうに言って、電話の向こうでくくっと笑った。

「なんかいいよね、こういうの。新たな喜びに目覚めそう。俺って先生みたい?」

「残念ながら、先生というにはちょっと重みが足りないかと」

「じゃ、なんかカッコイイこと言おう。えーとさ、なんつったっけ、こういう時に吐く、有名な決め台詞があったよね」

「はい?」

 また英語の台詞かな? と首を傾げる。それだったら、悪いけれど、成海は知らない自信がある。そして英文を聞いても理解できない自信もある。

「あ、思い出した」

「はい。なんでしょう」

「真実はいつも一つ! だ」

「…………」

 今度は二人で声を合わせて笑った。

 笑いながら、もしかしたら晃星は、わざと明るい方向に話を持っていこうとしているのではないか、と気がついた。美沙と話した朝に感じた胃の下の重みが、今はこんなにも軽くなっているのは、最初に晃星が笑い飛ばしてくれたからこそだ。

 不安はまだたくさん残っていて、それは決してなくなりもしないし、忘れたりも出来ないけれど、それでも一旦どこかに置いて、こうして一緒になって笑える。

 それって、すごいことかもしれないなと成海は思う。


 ……結局、傷ついたり、落ち込んだりするのは一人でも、それを癒すことが出来るのは、自分以外の誰かの何かということなのだろう。

 怒りであったり、笑いであったり、何気ない言葉であったり。


「あの……」

「うん?」

「明日は、晴れるといいですね。……晃星くん」

 電話だから、この赤い顔が見られなくて幸いだ。晃星はちょっと黙ったあとで、そうだね晴れるといいね、と笑み混じりに返し、

「元気出た」

 と、小さな声で付け加えた。




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