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空中散歩  作者: 雨咲はな


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5.影あり光あり



 昼休み、お弁当を食べ終えた成海は、教室のドアの向こうから、担任の上田に手招きして呼ばれた。

「天野、今度の三者面談のことなんだけど」

 少し空気のひんやりする廊下で、他の生徒をちらちら見ながら、声を潜めて訊ねられた内容に、「あ、はい」と成海は返事をする。勝手に眉が下がって、困った顔になった。

「あの……申し訳ないんですけど、うちは」

「うん、そうだよな。それどころじゃないっていうのは判ってるんだけどな」

 急いた口調でそう言われ、かえって居たたまれない気持ちになる。目を伏せそうになるのを頑張って耐え、成海は出来るだけなんでもない顔をして、担任教師の顔を見返した。

「三者面談は無理でも、一応、進路についての話はちゃんとしておかないとまずいんだ。天野だけ何もしないで放置しておくわけにもいかないしな。これからのこととか、な、ちゃんと話し合っておかないといけないだろ」

「はい」

 上田の言い方はどこか言い訳めいた早口だったが、大人しく頷いた。

「進学は無理そうだってことだけど、じゃあ就職、っていっても簡単なことじゃないだろ。就職となったら、やっぱり現在の天野の状況をちゃんと伝えなきゃならないことになるし、そうすると学校としても知らんぷりしているわけにはいかないし」

「……はい」

 言葉の端々に混じるもの──苛つき、後ろめたさ、こちらを責めるような棘は、なるべく気にしないでおこうと思っても、無視しきれるものではない。顔を下向かせない代わりに、ぎゅっと拳を握ってやり過ごそうと努力する。

 上田はそこまで言うと、すくうような目で、成海の目を覗き込んだ。眼鏡の向こうから、訝るような視線が突き刺さる。

「なあ、天野には、本当にお兄さん以外に、保護者になってくれるような人はいないのか? まったく? 遠い親戚とかでもいいんだ、ちゃんと話が出来るような大人はいないのか」

「…………」

 だんだん返事をするのも苦痛になってきて、成海は黙って首を横に振った。親戚がいないというのがまるで成海の非であるかのような言われかたもつらいが、つまりはこの担任に、自分は「ちゃんと話が出来る」相手と思われていないようなのが、よりつらかった。

 成海の無言の返事に、上田はふー、と深い溜め息をついた。ああまったく面倒な……という声が聞こえてきそうなその溜め息に、成海の意地も砕けた。とてもではないが、あからさまに嫌気の差している担任の顔を見ていられず、とうとう、目を伏せる。

「誰もいないのか。一人も?」

「はい」

「アパート暮らしなんだろ? 近所の世話焼きな人とか、大家さんとか、天野の面倒を見てくれそうな人はいないのか」

 面倒を見てもらわないと生活できないような年齢じゃありません、と言い返しそうになってやめた。そういう問題ではないのだ。少なくとも、上田にとっては。

「近所はみんな新婚のご夫婦ばかりですし、アパートは不動産会社の管理です」

「…………」

 しばらく黙り込んだあと、もう一度、今度は、はあっと投げ出すような短い息を吐かれた。

「……だったらせめて、バイト先の雇い主とか」

「え」

 その言葉に、驚いて顔を上げる。目を合わせた上田は、顔を顰めて、さらに早口になった。

「だって、お兄さんの友達なんだろ?」

「お友達ではなく、先輩です。それだけです」

「でも、天野のことを心配してくれてるんだろう? だからバイトとして雇ってくれた、ってそう言ってたじゃないか。二十七歳で、店も持ってるって言うんだから、それなりの分別くらいはあるだろう。一度、その人に今後のことを相談してみたらどうだ。その上で、就職の際の身元の引受人とかになってもらえばいい。出来れば、学校にも来てもらうように頼んでみてくれ。天野のことを話し合う相手がいないと、先生だって困るんだ」

「でも、常陸さんは私の保護者じゃないし、そんな図々しいこと頼めません」

「しょうがないだろう、周りに頼る大人が誰もいないっていうんじゃあ。天野も、そんなことを言っていたら、この先一人になって途方に暮れるだけだぞ。図々しいとか、厚かましいとか、そんなことを言っていられる呑気な状態じゃないんだから」

「でも──」

 成海はなおも反論しかけたが、上田は言うだけ言うと、「とにかく、話をしてみなさい。いいな?」と念を押して、さっさと背中を見せて立ち去ってしまった。



「上田の話って、なんだったの、成海」

 教室に戻ると、すぐに友人の園加に問われた。きっと、成海の顔に、ありありと「困惑」の二文字が書かれてあったからだろう。

「うん、あのね……」

 園加は、成海の身に起きた出来事も、現在置かれている状況も、すべて知っている人間のうちの一人だ。細かい事情は説明しなくても、すぐに通じる。さっきまでの担任とのやり取りを語ると、彼女は眉を吊り上げて、ついでに近くにあった椅子を蹴っ飛ばした。

「はあ?! なに言ってんの、バッカじゃないの!」

「うん……私も困っちゃって。常陸さんに、そんなことまで頼むのは……」

「そっちじゃない! 上田の責任丸投げなアホ言動について言ってんの! 何が周囲に大人はいないのか、だ! お前だろ、いちばん身近な大人は! お前がもっと相談に乗って行動しろよ! どこまでも自分は無関係で済ませるつもりか、あの無能教師が!」

「まあまあ、園ちゃん……」

 ガンガンと椅子を蹴りつけながら、唾を飛ばして担任を吊るし上げる友人を宥める。園加は怒りはじめるとどんどんボルテージが上がっていく性格なので、このまま放っておくと、職員室にまで突撃していきかねない。

「まあまあじゃない! 成海も怒れ! あの担任、針の先ほども役に立たないくせに、考えてんのは自分の保身のことばっかりじゃんよ!」

 とうとうこっちまで怒鳴られてしまった。園加はけっこう可愛い顔をしているのに、怒ると言葉が悪くなり、表情は鬼さながらで、ちょっと怖い。

「うーん、でも、それで助かっている面もあるわけだし」

 と、成海は曖昧に口を濁す。

 三十過ぎのひょろりと痩せた担任の上田は、かなり極端な事なかれ主義で、生徒やクラスに問題が起こっても、解決に向けて何かをするよりは、そのまま見ないフリをする、という選択をしがちだ。

 成海が担任に、兄がいなくなったことを告げたのは、わりとつい最近のことである。征司の店でバイトをすることになり、だったら正式に許可を取らないと──とその時の成海は考えていたので、事情を話した。

 今になってみると、わざわざ許可を取ろうとする成海に、「真面目だな」などと言ったのは、彼独特の皮肉だったのだろう。そんなの、黙ってやってくれれば、こっちも煩わされずに済むのに、という意味だったのかもしれない。知らなければ、そこでどんな問題が起きようと、上田の責任にはならないのだから。

 ……話した結果、「家庭の事情」ということで、バイトの許可は取れた。

 けれど、それだけ。

 それだけで、上田という教師は、言ってはなんだが見事に何もしなかった。

 当惑した顔で、「でも、家出か蒸発なら、いずれ戻ってくるかもしれないんだろ」という結論を出して、それでおしまい。学校のもう少し上のほうに話すとか、そういうこともしていないだろう。問題になったら面倒だから。

 上田はただただ、厄介なことには関わりたくないらしいのだ。このまま放っておいたら、兄が帰ってきてまた何事もなく元の状態に戻れるのかもしれないんだし、と、今に至るまでひたすら傍観の立場を貫いている。

 成海の周囲には教師以外の大人がいない。だから一応、上田に預金関係のことも相談してみたのだが、「そういうことには詳しくない」との言葉だけで済まされた。いっそ清々しいほどに、彼には、自ら踏み込んで何かをしよう、という発想がないのだった。

 しかし、そのおかげで、未成年の成海が未だに放っておいてもらえている、という側面も確かにある。ここで大げさに騒ぎ立てて、学校も巻き込み、関係各所に率先して連絡するような人間が担任であったなら、今頃、「保護」という名目で、成海の身柄はどこかにやられていたかもしれない。どういう理由であれ、上田が、保護者はいるが現在は不在なだけ、と考えてくれているから、成海は今もあのアパートで兄のことを待っていられるのだ。

 そう思うと、かえってあの無関心さはありがたいくらいである。

 時々、しんどいこともあるが、仕方ない。教師といえど、彼だって一人の人間だ。


 上田と同じような態度をとる人は、これから成海が社会に出た時に、いくらだって出会うことになるのだろう。

 誰だって、自分のことが大事で、少し身勝手で、厄介事には無関係でいたいもの。

 成海はいちいちそれに、泣いたり怒ったり傷ついていたりしてはいけないんだ、きっと。

 ──この先、ずっと一人っきりで生きていくことになるかもしれないのだから。


「まったく、普段は成海のこと、透明人間みたいに扱ってるくせして、たまに自分から話しかけたと思ったらそれか」

 園加はまだ怒っている。ガンガン蹴られ続けている椅子は、ずいぶんと所定の位置から追いやられてしまった。それはまったく無関係なクラスメートの椅子なのだが。

「いつも、私の存在は、あんまり意識しないようにしてるんだよ」

 上田にとって、成海はクラスの腫れ物だ。下手に触れると膿が出る。だから見ないように、考えないようにして、やり過ごそうとしているのだろう。

「なにノンビリ言ってんの、怒れ! ほんっとにあんたって、どっか浮世離れしてるんだから」

 園加はびしりとそう決めつけると、ようやく椅子を蹴るのをやめて、息を吐いた。

「──で、どうすんの」

「どうするって?」

「だから、常陸さんに頼むの? 学校に来て先生と話してくださいって」

「うううーん……」

 問題が最初のところに戻って、成海は改めて頭を抱えた。

 征司はただ兄の先輩、というだけの人だし、バイトとして雇ってもらっているだけでも充分迷惑をかけているのに、そんなことまで頼んでよいものだろうか。

 かといって、他に頼れる成人はいない。兄の会社の同僚、他の知り合いや友人たちとは、せいぜい多少の会話を交わしたくらいの関係だ。

 そこで、ふと、思い出した。

 そういえば、もうちょっと話した人もいる。

 ……いや、でも、その人は、征司よりもさらに、こんなことを相談するような筋の人でもないのだが。

「なにも、この先の保証人になってください、ってことでもないんだし、いいんじゃない? 上田は要するに、そうやって大人と話した、って既成事実を作りたいだけよ。そうしたらあとで誰かに何か言われた時、言い訳できるでしょ。そんなに深く考えず、こう言われたんだけど、って話してみたら?」

「うーん……ちょっと、考えてみる」

 園加の言葉に、成海がぼそぼそと答えると、ちょうどチャイムの音が鳴った。


 ──しょうがないだろう、周りに頼る大人が誰もいないっていうんじゃあ。天野も、そんなことを言っていたら、この先一人になって途方に暮れるだけだぞ。


 自分の席へと戻りながら、担任に言われた言葉を思い出し、肩を落とす。

 ……今現在、成海はとっくに途方に暮れている。



          ***



 その日、閉店間際の「ル・クール」に、客がやって来た。

「こんばんは」

 澄んだ声で挨拶するその女性に、征司が微笑して「ああ」と返し、成海は慌ててぺこんと頭を下げた。

「こんばんは、笙子さん」

 挨拶をすると、笙子がにこっと笑った。ふわりと形よくウエーブのかかった髪をしなやかに揺らし、うっとりするほど綺麗な仕草で首を傾ける。

「どう、頑張ってやってる? 成海ちゃん」

「はい、結果はともかく、頑張ってやってます!」

 張り切って答えると、彼女はくすくすと笑って、「ここ、いいかしら」と近くにあったテーブル席についた。と同時に、征司が何も言わずに、ロイヤルミルクティーを作りはじめる。

 彼女は特別客なので、たとえオーダーストップの時間が過ぎていても、取り立てて注文をしなくても、彼は彼女のために、必ずその飲み物を淹れるのだ。笙子が大好きなロイヤルミルクティーを、完全に彼女の好みに合わせて。

「成海ちゃんは、よくやってくれてるよ」

 穏やかに征司に言われて、成海はえへへと照れ笑いをするだけに留めておいた。まだまだ失敗が多いことくらいは自分で判っているが、征司はそういうことを口にする性格ではない。そしてそんなことは、誰よりも笙子がよく知っているだろう。

「お待たせいたしました」

 ロイヤルミルクティーをテーブルまで運んで置くと、笙子がにっこりして、「ありがとう、成海ちゃん」と言った。ただでさえ美人なのに、そんな笑顔を向けられては、眩しすぎてくらくらしてしまう。

 征司もかなりの二枚目なのだが、その恋人までがこのような美人とは。世界というのは、わりと不公平なのか、それともこれで均衡が図れているのか。二十五になるまで、ほとんど女性の影らしきものを感じなかった我が兄のことを考えるに、少々不憫になる。

「今日はこれから、店長とデートですか?」

 ついさっき、最後の客が出ていった店内には、征司と、笙子と、成海の三人しかいない。訊ねてみると、笙子がふふと笑った。

「まあ、そうね」

「わー、いいですねえ。大人のデートですね。明日は、お店もお休みだし」

 お休みだから、今日は夜遅くまで遊べますね、というくらいのつもりで成海は言ったのだが、笙子はぽっと頬を赤らめ、「もう、いやね」と小声を落とした。

 あらら。

 なんだか、ちょっと際どい意味にとられてしまったらしい。そしてそれは、実際、図星を衝いてもいたらしい。どうやら、「大人のデート」とは、これから夜通しカラオケで騒ぐ、とかそんなものではないようだ。

「成海ちゃん、今日はもう上がっていいよ」

「あ、はい」

 まだ十時には少し間があるが、征司に言われて、素直に切り上げることにした。いつもは客がいなくともきっちり時間まではいるのだが、さすがにこの状況で、この場に居座る度胸はない。

「じゃあ、失礼します」

 挨拶をして、倉庫兼従業員用控室に入り、ドアをパタンと閉める。

 ドアの向こうから、ひそやかに交わされる二人の声と笑いが漏れ聞こえてきて、わあー、とパタパタ掌で顔を扇いだ。男女交際に免疫のない成海には、ちょっと刺激が強い。

「早く着替えて帰ろうっと」

 呟いて、ロッカーに手をかける。

 ……結局、学校のことは言えなかったなあ、と心の中で思った。



 裏口から出て、路地を抜けて通りに出ると、ひょっこりと誰かが目の前に現れた。

「や、成海ちゃん」

 と、相変わらずにこにこして軽い口調で声をかけてきたのは、晃星だ。

 成海はびっくりした。

 昨日の今日である。連絡先の交換をしたとはいえ、実を言えば、もう会うこともないだろうと思っていた。

「八神さん。どうしたんですか?」

「成海ちゃんを待ってたに決まってるでしょ。学習して、今回は後ろから肩を叩くのはやめたんだ」

「私をですか」

「そうそう。これから毎日こうやって出待ちをして、あとを尾けようかと」

「…………」

「冗談だから。ドン引きしないでくれる? メールか電話でもいいかなと思ったんだけどね、どうせだったら顔を見て話したほうがいいかと思って。ついでだし」

「はい?」

 何が何の「ついで」なのだろう、と思って問い返したのだが、晃星はそれには答えなかった。

「明日、バイト休みでしょ?」

「え、はい。よくご存じですね」

「だって、そこに書いてあるじゃん」

 店のドアには、確かに、オープン時間とクローズ時間、そして、定休水曜日、と白文字で書かれてある。

 しかし、それが何か? と首を傾げる成海に、晃星はニコッとした。

「デートしようよ」

「…………」


 わあー、軽ーい……。


「それも冗談ですか?」

「いや、これは本気」

「デートって、それはつまりその、いわゆる大人のデート的な……」

「なにぶつぶつ言ってんの。大人のデートってなに? 明日、昼くらいからちょっと出ておいで」

「あ、なんだ、明日の話ですか」

「いつの話だと思ったの? なんでこう君との会話は噛み合わないかな。明日の、そうだな、どうせなら一緒にランチでもしようか。十一時に、君んちの最寄駅で待ち合わせにしよう。なるべく大人っぽい服を選んでくるんだよ」

 晃星はさっさと予定を決めていってしまう。流されるように、はあ、と返事をしかけてから、はっとした。

「あの、八神さん。明日は水曜日です」

 成海は慌てたが、晃星はまったく平然としている。

「知ってるよ。だからバイトは休みって話でしょ。平日だし、ちょうどいい」

「いえ、平日だからよくないんですけど。バイトは休みでも、学校があります」

「サボんなさい」

 すっぱりと爽やかに命令された。にっこり笑っているが、なんだか有無を言わせないような言い方で、困惑する。

「そ、そういうわけには……学校をサボるのは不良のすることだって誠ちゃんが」

「いいから、サボんなさい。一日くらい学校に行かなくたって、大して問題ないよ。それよりも、君のこれからのほうが重要だ」

「は?」

 問い返すと、晃星は片目を眇めるようにして成海を見た。

「成海ちゃんにとっての最重要案件はね、お風呂の残り湯の使い方、なんてものじゃない、ってこと。こう言っちゃなんだけど、金だよ。君がやたらと節制にばかり心を砕くのは、この先の資金が心許ないからだ。それはなんでかっていうと、誠のアホが通帳とカードを持っていって、君だけではそこから引き出すことも、再発行をすることも出来ないからだ。問題点ははっきりしているんだから、やることといったら決まってるじゃないか」

「決まってる……っていうと」

「銀行と話し合うんだよ、当然。通帳に入ってるのは、ご両親の保険金なんでしょ。だったら、それは誠だけの個人財産ってわけじゃない。名義は誠になっていても、君にだって所有の権利はある。そこのところを前面に出して、主張すべきところは主張しないと、いつまで経っても前進しないよ」

「…………」

 一瞬、ぼんやりしてしまった。

 なぜって、今まで、そんな風に、成海に具体的なアドバイスをしてくれる人は、誰もいなかったからだ。判らない、知らない、困ったね、と言われるくらいで。

 晃星の声はしっかりしていてよく通り、成海の中にあるおぼろげなものを、一気に形にするような力強さがあった。

「あの、でも、私、未成年だし。銀行の人は、まともに話を聞いてくれなくて」

「だから二十五の俺が一緒に行くんだけど?」

 さらりと言われて言葉に詰まる。

「……一緒に、行ってくれるんですか」

「うん」

「いいんですか」

「いいよ。当たり前でしょ」

「…………」

 当たり前だと、なんでもない口調で、晃星はそう言った。


 今まで。

 心配してくれる人はいた。これからどうするのと訊ねる人も多くいた。何かあったら連絡してねと言ってくれた人もいた。

 ──でも。

 そのうちの誰が、「一緒に行く」と言ってくれただろう?

 警察へも、銀行へも、誠の会社にも、友人知人を訪ねて廻る時も、いつも成海だけ、成海一人で足を運んでいた。

 不安と心細さを押し隠して。


 ……世の中には、こういう人もいるんだ。

 面倒なことに関わりたくないと思う人もいるけれど、たくさんいるのかもしれないけれど、それでも、こうして、自分から関わろうとしてくれる人もいる。

「──ありがとう、ございます」

 喉が詰まって声が出しづらい。目も口も変な形に歪んでいそうだったので、それを隠すために深々と頭を下げて礼を言ったら、晃星はちょっとの間、無言になった。

 それから、「あのさ成海ちゃん、そういうのはナシにしよう」と、若干わざとらしい明るい声を出した。

「俺も、可愛い女の子とデートしたいんだよ。そんなわけだから、明日は俺のためにオシャレしておいで。学校もサボってね」

「はい、サボります!」

 勢いよく顔を上げて、きっぱりと返事をしたら、晃星が楽しそうに噴き出した。




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