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業火紅蓮少女ブラフ/Calico Grace  作者: 枕木悠
先天的後継者の祈り(Calico Grace)
7/19

キャリコ・グレイス/七

 エイダとロザリィとイサクというのはナユタ様の守り人であり、鉄塔の下から退屈過ぎて死にそうになって逃げ出したナユタ様のことを追いかけているのだと言うのは、彼女たちから逃げながらナユタ様から僕が聞き出したことだ。彼女たちはチャイナ・ドレスに似た紫陽花色のワンピースを纏っていた。紫陽花色は黄金色に縁どられていて、どこかヨーロッパ中世の騎士を思わせるデザインだった。全て同じデザインかと思えば、それぞれ袖やスカートの長さや胸元の装飾やボタンの位置や大きさなどが違っていた。彼女たちの髪型も、三人とも背が高くスタイルがよくて美人というのは共通していることだったが、見事にバラバラだった。「ショートヘアがエイダで、茶髪がロザリィで、前髪ぱっつんがイサクよ、」とナユタ様は教えてくれた。「あ、ちなみに三人とも生粋の日本人よ」

「ナユタ様は日本人なんですか?」息を切らせながら僕は聞く。

「え、なんでそんなこと聞くの?」ナユタ様は僕に怒った顔を向けた。

 だから僕は「ごめんなさい、」とすぐに謝った。「なんでもありませんから」

 守り人の三人は怖い顔をして必死に僕らを追いかけて続けていた。三人にとっては信者たちが会同に集っているこの立方体の施設内にナユタ様がいるということがすでに、決してあってはならない異常事態に違いない。鉄塔の下の居住スペースとこの立方体の施設は地下で繋がっているのだとナユタ様は教えてくれた。三人の隙を付いてここまで逃げてきたのだと。

「三人とも、守り人にしてはどこか抜けているんだよね、そこが可愛いとこでもあるけどさ、んふふふふっ」

 ナユタ様は迷宮のように入り組んだコレクションの展示エリアを縦横無尽に動き華麗に三人の目をくらませた。この建物の作りがナユタ様の頭には全て入っているのだ。巨大な鯨と象の屏風が展示されたショーケースの脇にある非常扉をナユタ様は押し開けた。湿った空気が顔にぶつかる。扉の先は丁度この施設の正面玄関の反対側に当たるようで自然の緑が上から下まで絶え間なく生い茂っていた。ここから非常階段が下の森まで続いている。ナユタ様はカンカンカンと高い音を立てながら階段を勢いよく降りて行く。

「あ、ちょっと待ってよ」僕は彼女に遅れないように必死に足を動かした。汗が全身から噴き出していた。途中でふと上を見上げると伸びた木々の枝と葉が非常扉の方を完全に遮っていた。この上から下にいる僕らを見つけることは困難だろう。

 階段を降りるとそこには本当に小さな川があって緩やかな傾斜をチョロチョロと流れていた。周囲を見やれば、緑の隙間、本当に遠くに滝があるのが見えた。耳を澄ませば水が落ちる音も聞くことが出来た。この小さな川はあの滝から続いているものなのだろう。ナユタ様はしゃがんで川の水を両手で掬っておいしそうに飲んだ。僕はそんなナユタ様の野性的な姿を後ろからぼうっと眺めていた。するとナユタ様はこちらを一瞥、先ほどと同じように両手で川の水を掬ってから立ち上がり自分は飲まずに両手を僕の方に差し出した。

「おいしいから飲みな」

 僕はナユタ様の指に唇を当てて、その綺麗な手に掬われた水を飲んだ。

「おいしいですね」僕は言った。

 ナユタ様は無償の笑顔を見せ、「うーん」と背筋を伸ばして大きな欠伸をした。「ちょっと疲れちゃったね」

「はい」僕は走り回って階段を駆け下りたせいでくたくただった。

 僕らは樹齢が計り知れない大木の根の窪みに入り込んだ。窪みはちょうど二人の体がすっぽり入るくらいの大きさだった。そして僕らは寄り添い、何も言葉を交わすことなく目を瞑った。ナユタ様の寝息が聞こえて来るのは早かった。僕はその寝息に誘われるようにいつの間にか、深い眠りに落ちていた。


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