キャリコ・グレイス/十三
八月の最初の日曜日、早朝。
僕らは教団の施設までのバスに乗るために明方市駅前に向かった。バスは駅前のロータリィに停車していたが、バスには誰も乗っておらずその前には人だかりが出来ていた。僕らはそれに近づき、どういう状況になっているのか確かめるために耳を澄ませた。
夜明け前に鉄塔で爆発事故があったのだと教団の白い制服を纏った青年が信者たちに唾を飛ばして説明していた。「だから本日の面会式は中止になったんですよ」
僕は頭が真っ白になった。
鉄塔で爆発事故?
鉄塔ってナユタ様が住んでいるところでしょ?
どうなってんの?
ナユタ様は無事なんですか!?
僕は人混みを掻き分け教団の青年に詰め寄って絶叫していた。「鉄塔で爆発事故ってナユタ様は無事なんですか!?」
「な、なんだ、君は?」青年は後ろに仰け反り小さく僕を見下す。
「ナユタ様が無事かどうかって聞いているんですよ!」
「おそらく、」青年は僕を睨みつけてから僕の後ろの信者たちの様子を伺いながら言った。「無事でしょうよ」
「おそらく無事でしょうって、」僕の両手は彼の襟首をガッと掴んでいた。「そんな他人事みたいに言うんですか!?」
「細かいことはまだ分からんのだよっ」
「ナユタ様のことが細かいことなんですか!?」
「全くなんなんだ、君は!」青年は苛立たしげに怒鳴って僕の肩を強く押した。
僕は強く押された勢いで後ろに倒れて尻餅を付いた。コンクリートにお尻を打ち付けてとても痛くて涙が出た。それでも僕は青年を睨み続け、怒鳴り返してやろうと思った。
「何するのよっ!」
ヨリコは絶叫していた。喉が爆発してしまったんじゃないかって思うほどの大音量だった。「私のコテツに何してくれたのよ!?」
そして次の瞬間。
ヨリコは青年の足を鋭く蹴った。
一撃必殺の彼女の回し蹴りを僕はこのとき初めて見たのだ。
青年は悲鳴を上げ苦悶の表情を浮かべそのまま膝から崩れ落ちてしまった。
僕の口は半開きだった。
「帰りましょう、コテツ」
ヨリコは僕に手を差し出して強く引っ張って立たせて僕の痛むお尻を優しく触って撫でてくれた。不思議と、痛みが和らいだ気がした。ヨリコに対する恋慕の情が膨らんで仕方がない、という状況に僕はなり、バスから離れ地下街に降りたところでその気持ちを精一杯言葉に込めて言った。「ありがとう、凄いね、ヨリコの回し蹴りって」
「そう?」ヨリコは目を伏せ控え目に微笑む。「まあね、危ない目にあったときのために、ちょっと練習していたんだよ」
「そうなんだ、凄い」僕もヨリコに微笑み返した。
しかし次の瞬間にヨリコの笑みは消えていた。
「そんなことより、」ぐっと急に僕の手を握るヨリコの手の力が強くなる。痛いと思うくらいに強くなった。「あんなに動転しちゃって、ナユタ様って一体、コテツにとってのなんなの?」
僕は戦慄して、笑って誤魔化すことも出来なかった。




