83 別行動
更新またもや遅れました。
申し訳ないです。
高月、永井、浜野の三人は、すでに篠崎たちが潜伏していた舵医院の近くまで来ていた。想定よりも早い到着だ。というのは、舵医院の方から戦闘音のような音が聞こえ出したために移動ペースを上げたからであるが。
音は病院よりも近くから聞こえる。つまりは、敵もこちらへ移動してきている可能性があるということ。
高月は一度建物と建物の間に隠れ、二人を呼ぶ。
「もう一度、確認しますよ」
高月が口を開く。
敵と鉢合わせて戦闘になる前に、今一度確認しておきたかった。
「僕らの目的は、ナオの奪還。なので、なるべく戦闘は避けます。極力見つからないようにして下さい」
「無理じゃね?」
「それをやるしかないわけさ」
やる前からお手上げだとでも言うように両手を挙げる浜野に、高月も笑いかけるしかなかった。
無謀は承知。それでも、助けたい。それだけの話だから。
「もしも敵と鉢合わせした場合は、どうするんだ?」
永井が真剣な表情で尋ねる。
それには、高月よりもおそらく数日分第二部隊での経験のある浜野が答えた。
「御影さんの救出が最優先なら、仲間を減らしてでも先に進むべきじゃねーの?」
「……なるほどね、それがいいかもしれない」
それに高月も同調する。そして、それがこのチーム内での決まりとするように言い直した。
「敵と鉢合わせして戦闘を避けられない場合は、仲間を置いて先に進みましょう」
二人は無言で首肯した。
「さて、そろそろ行きましょう……」
そして高月が言いかけたところで、
「どこに、行くってんだァ?」
「…………」
待っていたかのように声がかかった。
驚きはしなかった。
あくまで落ち着いたまま、物陰の入り口に目を向ける。
視線の先には三人の男。
声の主と思われる茶髪を後ろで縛った男、夏にもかかわらず長袖シャツを着た男、気だるそうに頭を掻く男。
全員、高月よりは年上に見える。
「テメェら、服装からして『壁』の連中だよな? クソッタレが、もう来やがったのか……」
(言動からして『屍の牙』か……?)
茶髪の男は舌打ちすると、物陰の外を親指で指差す。その先には四車線の大きな道路があった。乗り捨てられた車や割れたアスファルトの瓦礫などがあるにしても、この狭い場所よりは断然戦いやすいだろう。
「来い、さっさと潰して壁に行きてェんだよこっちは」
茶髪の男は心底憎たらしそうにこちらを睨み、そう告げる。それに乗るのもいいように思えた。状況は三対三だ。それも『屍の牙』。仲間の命を考えるなら、誰かを置いていくべきではない。
それでも――。
そう思って、視線だけで背後の二人に確認をとる。
浜野が敵を見据えたまま小さな声で囁く。
「高月、一人でも助けにいけるか?」
短い確認に高月が首肯すると、浜野は少し笑った。
そして、敵の意表を突くように前へ跳んだ。いつの間にか筒状の武器を取り出していて、スイッチを入れると筒の延長に光の刃が現れる。刃は高月の知っている通常のものよりも長く、浜野の身長ほどはあった。
浜野の不意打ちは確かに効果があり、敵が驚いて後退。横一文字の斬撃はかわされたものの、代わりに敵との間に距離が生まれた。
「カイト、行け!」
永井が高月の肩を叩いてから浜野を追う。二人の背が視界から消えるよりも先に、高月は物陰の反対側から舵医院を目指した。
※※※
金丸の苛立ちは最高潮に達した。
この容姿で意外にもフェアプレイを好む金丸は、もちろんそれだけが理由ではなかったのだが、わざわざ三対三の勝負を提案したのだ。
だというのに。
「なんで、不利を選んだ」
「こっちはお前に付き合う義理なんかねーんでな」
浜野が光の長刀を下げて軽く返す。
敵には黙っているが、永井の持ってきているインカムには人工知能が搭載されている。それを含めれば立派な三対三だ。
浜野が無駄話で時間を稼いでいるうちに、永井はインカムの設定を弄る。まだ使ったことすらない武装で、人工知能がどんなものかも把握していない。本当ならこんな場面ではなく、もっと余裕のある時に試したかった。
「さて、と。これで大丈夫か……?」
『人工知能機能の起動を確認、人工知能マイとの接続中……完了。繋ぎます』
「よし、できたかな……?」
『ジャジャァーンっ! 期待に応えるスーパー妹、マイちゃんだよーっ!』
「ぶふぉおッ!!!!」
強敵を前にして盛大にむせた。
心配そうな目を向ける浜野に手を挙げて大丈夫な旨を伝え、マイクに小声で怒鳴る。
「なんだお前!?」
『あ、お兄ちゃん! なにって、スーパー妹のマイちゃんだよぉ!』
「ダメだこれぇ!?」
一瞬でポンコツ人工知能を渡されたのだと確信した。確かに五木には感情を搭載して欲しいとは言ったが、こうしろとは一言も言っていない。
とはいえ本当に役立たずのゴミならそもそも渡さないはず。もしかすると戦闘を補助する能力に関しては信用できるのかもしれない。
ひとまず電源を落とすのはやめて、人工知能の指示に従った。
『それじゃあお兄ちゃん、ゴーグルをつけてね』
「ゴーグル?」
言われて、そういえば渡されたものの中にあった気がすると腰の小さなポーチに触れる。中には黒いゴーグルが入っていた。
このゴーグルにも電源スイッチがあり、オンにしてから着用する。すると、起動音と同時に視界が青白く輝いた。
視界の左上には永井の位置を中心とした半径五十メートルほどの地図が表示されており、永井は緑の点、浜野は青の点、敵の三人は赤の点で表示されていた。
『これでお兄ちゃんとマイは視界を共有したよっ』
「おお、なるほど。これで状況を見ながらアシストしてくれるのか」
『マイたち……一つに、なっちゃったね……』
「意味深に囁くな!」
なぜここまで感情豊かにしてきたのか。それにこういう方向の感情は求めていなかったつもりなのだが。細かく注文しなかった永井の責任なのだろうか。
そして永井は人工知能と会話しているつもりだが、その姿は他の人間たちには一人で話しているように写る。
浜野と金丸はドン引きしていた。
「おい、テメェの連れ……頭おかしいんじゃねェのか?」
「お、俺にもわからん。会って少ししか経ってないし……」
「待って、浜野まで引かないでくれぇ!!」
永井がむなしく声を上げるが、印象は悪いままだ。帰ったら五木に文句を言おう。
「……ま、いーか。三対二でどこまで足掻けんのか、見させてもらうぜ」
「負けても言い訳すんなよな」
「こっちのセリフだァ、ガキ」
そうして、浜野と金丸が同時に戦闘を始める。光の長刀を縦に振り下ろし、それをかわした金丸が身を低くすると、地に触れた。
「さっそく能力を使わせてもらうぜェ」
直後、地面が槍のように隆起した。それはもはや隆起という表現ではおかしい。明らかに、形が変わっている。
「――っぶね!」
間一髪でそれを浜野はかわすと、狙う箇所を金丸の手に絞った。手で触れることが能力発動の条件であるなら、さっさとぶった斬ってしまいたかった。
だが、そんな単純な狙いは相手にも読まれていた。
「隙を突くのが好きってね〜!」
浜野の長刀が金丸の手に当たる寸前、そこに氷の盾が出現し、攻撃を防ぐ。攻撃時に力を込めていたため、浜野は反動で仰け反ってしまった。そこに隙が生まれた。
「サンキューだァ、寒川ァ!」
体勢の崩れた浜野の頭へ、地面から突き出た槍が向かっていく。
(ちっくしょお、まずった……先手を打とうとしたのが失敗だったか……!)
その四角錐のような形をした槍が、浜野に届こうとした瞬間。
「俺を、忘れてんなよッ!!」
ギリギリのタイミングで間に合った永井が浜野の肩を押し、槍を紙一重で避けた。苛立ち、舌打ちしながら能力を発動させようとする金丸の横っ面に、永井は転がっていたアスファルトの欠片を蹴り当ててニヤリと笑う。
「戦闘中にしゃがんでると、いざってときに攻撃をかわせないぜ?」
「クソガキがァ、舐めやがってェ」
『お兄ちゃんっ! 頭に攻撃くるよっ!』
「わかって、るっ!」
動作直後のため、体勢が変えづらいことから攻撃を避けようとするには時間が足りない。そのため永井は、蹴ったときの勢いを敢えて持続させた。
そうして頭を後ろへ無理に持って行き、飛んできた氷片を避ける。
「あら残念、当たると思ったんだけどね〜」
氷片を放った張本人の寒川は大して悔しくなさそうにこぼす。ともあれ、これで三人の敵のうち二人の能力は大雑把に割れた。
金丸は地面に触れることで地形を操ることができる能力者。
寒川は空間上に氷を作り出す能力者だろう。
能力の限界がどの程度か読めず、不安は残るが、こちらの手札を見せることなくここまでの情報を手に入れた。流れはこちらにあると見ていいだろう。
どうやら三人目の敵、狭間はまだ戦闘に参加する意思はないようで、欠伸をしている。よほど余裕なのか、それとも二人を信頼しているのか。それは、永井にはわからないが。
「サンキュ、永井!」
「おうよ気にすんな、いくぞ!」
礼を言う浜野に親指を立て、永井も武器を取り出す。永井の取り出した武器は浜野のそれよりも短い剣だった。
まだ使いこなせない銃の類は持ってくるのを止めたのだ。
こちらの武器は、浜野の長刀と永井の剣のみ。おそらく、浜野の長刀の能力と永井の人工知能マイが勝負の勝敗を分けることになるだろう。
そして永井たちはここで負けられない。
高月一人では御影の救出は厳しいだろう。さっさと目の前の敵を倒し、追いつきたいところだった。
両者は一度にらみ合うと、戦闘を再開した。
主人公の登場まであと少し待ってください。タメが長くてすいません。




