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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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82 悪役同士の戦い

 最初に動いたのは山城だった。

 仲間へ指示をし終えるとすぐに腰を落として、病院めがけ一直線に跳んだ。

 すぐさま寒川は篠崎に指示を仰ぐ。


「篠崎さん――!?」


「アレは無視だ、寒川ァ! テメーらは先に行けェ!」


「は!? なんだよそれ、クソ意味わかんねぇぞ!」


 金丸には答えず、篠崎は残った敵五人に突っ込んだ。

 女が三人、男が二人いる。パッと見た感じで戦えそうなのは二十代に見える女と、気性が荒そうな男の二人だ。

 となると、先に潰すべきは――。


(男の、方だなァ!)


 真っ先に篠崎に狙われた男――熊田は、自分が狙われたことを理解すると、ニヤリと笑った。


「やっぱ、俺からだよなぁ!!」


 熊田にも、予測はできていたのだ。

 このメンバーの中なら、自分が一番先に狙われるだろうことは。

 熊田は篠崎が距離を詰める中、着ていたシャツを脱いだ。


(このブタ、何に――!?)


「――こう使うのさ」


 熊田は中に着ていたタンクトップ姿で、シャツを前方に放る。すでに篠崎との距離はゼロに近かったが、さすがの反応速度で篠崎はシャツをかわした。


(視界を奪うつもりだってーなら、まだまだ甘ェ……なっ!?)


 ――が。

 瞬間、シャツは粉々に散った。


「――はァ!?」


 視界が真っ白に染まる。

 細かくなった糸くずが篠崎にまとわりつくように舞い、視界を奪う。鼻や口に入らないように手で頭の周りを仰いだ。

 そんな篠崎の頭部に、重い衝撃が走る。


「バァカ、殺し合いの最中に何やってんだお前?」


 地面に叩きつけられ、追撃を避けるために転がった先で、金属バットを握りしめる熊田の姿を見た。篠崎はあれに殴られたのだろう。


(――チィ、ザコのクセにメンドクセェ……!)


 跳ねるように起き上がり、能力を発動する。能力は『疾風迅雷』。爆風を、前方に発生させた。


「な……ぁっ!?」


「わぁ――――!!」


「おい佐藤テメェ吹っ飛ばされてんじゃねぇ!!」


 爆風に耐えられず、宙に浮いた佐藤を支える熊田。そんな間抜けな場面に一瞬気を取られたが、これで隙ができた。

 篠崎なこの一瞬に距離を詰めた。

 同時に周りを見ると、何だかんだで金丸たちはみな先を急いだようだった。


(へっ、アイツら……頼んだぜェ)


 矢野の飛ばしたパチンコ玉を生み出した風で吹き飛ばしつつ、篠崎は熊田の顔面を拳で狙う。


(これ以上、死ぬんじゃねーぞ)


 拳はクリーンヒットし、熊田と熊田が支えていた佐藤は吹き飛ぶ。佐藤に熊田が重なる形で地面に落ち、熊田の重さに佐藤が悲鳴を上げる。

 前回の壁への攻撃で、たくさんの仲間が死んだ。最初の亀の放った閃光で半分を超える仲間たちが殺された。

 それ以外にも、色々なところで仲間は戦って死んだ。

 犠牲には、報いる。


「よー、そんだけ数がそろってるわりには大したことねェなーカスども」


 倒れ伏した熊田を見下ろすと、篠崎は見下すように睨みつけた。


「俺はテメーらみてぇなザコに構ってる暇はねーんだよ。どけ、殺すぞ」


 眼光には、明確な殺意がこもっていた。





※※※





「さて、アンタが『ミカゲ』で間違いないよなー?」


 山城が病院に入ると、待っていたかのように茶髪の少年が長イスに腰掛けていた。一瞬驚いたものの、山城らしく陽気に話しかけてみる。


「オレは山城天音。見てわかる通り、ゾンビだ」


「……その上、『翼』を授かった」


「…………」


 山城は不敵に笑う茶髪の少年に、無言で笑いかえした。少年の言葉の意味はわかっていたが、あえて知らないふりをした。


「お前の『翼』は、誰から授かったものだ?」


「そりゃ、もうあれしかないでしょ。レッドブ……」


「もういいわ」


 手を振って、ため息をつきながら茶髪の少年は話を打ち切る。風見晴人も言ってた通り、山城の言動は『ウザい』のだ。

 少年は立ち上がると、廊下を歩いていく。無言だったが、おそらくついてこいということだろうと察し、山城は後を追う。

 しばらく歩くと、少年は右にあった部屋に入った。ドアは手を離すと勝手に閉まってしまうタイプのものらしく、山城は少年の入った部屋にドアを開けて入る。

 そこには、手術室のような部屋があって。


「何か重要な秘密でも話すと思った? 残念だったな、お前には邪魔だから早めに消えてもらおうと思っただけだよ」


 宙に浮いた無数のメスが、こちらに向いていた。


「……おー、マジか」


 反応に困ったような返事をこぼして両手を広げた山城に、メスの雨が降り注ぐ。


「なんだよー、期待しちゃったオレの気持ち返してくれよー」


 しかし、山城には瞬間移動の能力があった。メスが山城に突き刺さるよりも先に、山城は部屋にある手術台の上に瞬間移動していた。


「……お前、ほんっとにうっぜえな」


「よく言われる」


 舌打ちする少年を見下ろし、山城はニコリと微笑んだ。





 しばらく駄弁っていた御影と真白だったが、途中から聞こえるようになった戦闘音のような音に不安を感じ、廊下を歩いていた。


「なんですかね? こう、ジャラジャラジャラ〜みたいな」


「コインゲームでいっぱい出てきた時みたいなね!」


「あ、はいえっとよくわかんないです……」


 だが真白のたとえからわかるように、金属質な音が聞こえてくるのだ。そして時々、大きな振動を伴った破壊音も聞こえる。

 そのとき、御影は視線の先で信じられないものを目にした。


「な、なんですかこれ!?」


 壁に、大穴が開いていたのだ。

 それも、ドア一つ分ほどの大穴。ドアごと壁を吹き飛ばしたようで、辺りには大小様々のコンクリート片が散乱していた。

 うちの一つを手に取り両手で持ち上げる。


「ここ、これ壁ですよね!? ここにあったものですよね!?」


「みたいね……」


「ま、真白さん、ヤバイですよこれ!」


「ヤバイね。下剤入りの朝飯を食わされたことに授業中に気づいた時みたいな感じ」


「なんでそんなたとえ方なんですか!」


 キメ顔でたとえる真白だが、たとえ方が謎である。

 騒いでいると、真白が「待って」と手を出す。


「戦闘音、近づいてくるわ!」


「えっ!? ……あっ、本当だ!」


「今すぐそこの……あ、斜め前の部屋……ここ!」


 ビシィ! 真白が指さした部屋とは反対側の壁が吹き飛び、部屋から人が飛び出してきた。


「方向逆じゃないですか!」


「ミスった!」


 涙ながらに真白を糾弾しながら、飛んできた人に駆け寄る。人は壁を突き破って、廊下を挟んだ反対側の壁にぶつかり、もたれかかるように倒れていた。


「大丈夫ですか!?」


「いってぇー、やっぱ手加減してこないよなぁ……って、奈央ちゃん?」


「え、……山城さん、ですか!?」


 飛んできた人――山城は服についた汚れを払いながら立ち上がり、駆け寄った御影にヘラヘラと笑みを浮かべた。


「あー、学校を脱出した時以来だねぇ。そっちの子は、真白ちゃん?」


 感慨深げにつぶやきながら、山城は真白を指差す。御影は真白に一度目を向けるが、真白の反応からして山城の知り合いではなさそうだ。


「えっと、真白さんとは……どんな関係で?」


「あーっと、説明しづらいんだけど」


 頬をかく山城に御影は訝しげに眉をひそめた。


「というか」


「戦闘中によそ見とか、よく余裕ぶっこいてられんなぁ!」


 知らない声に振り返った御影と真白を連れて、山城は廊下の前方に瞬間移動し、放たれた長イスをかわす。

 直後、山城のいた場所に銃弾レベルの速度で長イスがぶつかった。

 派手な音を立てて長イスが大破する。


「説明してる暇は、多分ないや」


 山城の顔に冷や汗がつたっているのを見て、御影はそれだけの敵と戦闘をしているのかと驚く。

 声の主、少年は山城が突き破った大穴から歩いてきた。

 御影と同じような髪の色をした、茶髪の少年だった。


「女の子を危険にさらすのは、感心しないなぁ」


「お前も今仲間の女を危険にさらしてんだろが」


「てへぺろ」


 少年は山城から御影へと視線を移し、ニヤリと笑った。

 御影は少年のことを知らなかったが、少年は御影のことを知っているようで、気持ち悪さを感じた。鈴音恵に『使徒』だと指摘された時のような悪寒が走った。

 もしかしたら御影には、御影の知らない何かがあるのかもしれない。そんなことを、密かに感じ始めた。

更新遅れてすみません。

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