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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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81 戦いの始まり

 七月三十一日の朝、『舵医院』の外にある駐車場には数人の若者たちがいた。

 『屍の牙』の面々である。


「さーてェ。わかっちゃーいるたァ思うが、今日はマジで壁を落とす」


 篠崎が、揃ったメンバーたちに言った。すでに『屍の牙』には篠崎を含めて六人のメンバーしか残っていない。壁側の戦力との差は歴然で、絶望的であるのは明らかに思えた。

 しかしそれを告げる者は皆無だった。


「作戦らしー作戦はねェ。全員、後悔のねーよォにぶっ潰してこい」


 篠崎の言葉にメンバーは頷く。

 それぞれの覚悟を一瞥して確認し、篠崎は鈴音に目を向ける。


「お前はウチの切り札だ。俺たちも全力で潰しに行くが、万が一俺でも歯が立たねー敵が来たら、そん時が出番だ」


「あら、思ったより出番が早そうだわ」


「縁起でもねーこと言うんじゃねェよ。基本的に出番はねーと思え。連絡するまで指示した場所に隠れておけよ」


「はいはい、わかったわ」


 つまらなそうに唇を尖らせ、鈴音はそっぽを向いてしまう。

 篠崎としては彼女の出番はないだろうと思っているが、もしかするとまだ壁は戦力を隠し持っているかもしれない。先の進撃で出し惜しみをするとは思えなかったが、壁の狙いは読めない。

 警戒はしておいた方がいいだろう。


「それから、狭間。お前は本気出しゃ結構やれるんだから、頼むぜ」


「あいよ」


 呼ばれた男は適当に返す。今までも彼の態度はこうだったから慣れてはいるが、やる気があるのか不安で仕方ない。

 同じ不安を感じ取ったのか、金丸が会話に割り込んだ。


「おい狭間、テメェやる気あんだろーな? クソみてぇに負けやがったらマジで許さねぇぞ」


「ま、なんとかなんでしょ」


「テメェなぁ!」


「まぁまぁ金丸くん。ここは僕の渾身のギャグを聞いて落ち着いて! 餅ついて! なんつって!」


「クソつまんねぇッ!!」


 最後の戦いを目前にしているとは思えない仲間たちの態度に篠崎は呆れて物も言えない。しかし、同時に最後だからこそこれでいいのかとも思った。

 後悔はしない。

 ちっぽけな復讐を、今終わらせよう。





※※※





 真白という少女は、診察室でカップヌードルを啜っていた。ドアを開けた時にその光景を見て固まったのはおそらく言うまでもないだろう。


「いやぁー、ごめんねぇ。実はさっき起きたばっかで、これ朝ごはんだったの!」


「ああ、はい……」


 時計を見ると既に十一時近くを指しており、本当に今起きたばかりだというのなら、彼女は相当朝に弱いのだろうと思った。御影は近くのイスに腰掛け、彼女が食べ終わるのを待つ。ズルズルと麺を啜る姿はどこか呑気で、現状を忘れさせた。

 やがて食べ終えると、真白は割り箸をカップヌードルの容器に乗せた。


「ふぅ、美味しかったぁ」


「何味なんですか?」


「ポテト付きラーメン」


「なんですかそれ」


「フライドポテトが乗ってるのよ」


「意味わかんないです」


 ラーメンにフライドポテトって合うのだろうか。それ以前にカップヌードルなのにフライドポテトはどうやって作るのだろうか。容器に書いてある『フライドポテト・ラーメン』という商品名からして真白が付け足したのではなく元々入っていたのだろう。

 ゲテモノ臭がするとまでは言わないが、率先して購入したいとは思わない商品だ。場のノリとかでない限りは買わないだろうし食べないだろう。


「えーっと、それで……君は?」


「あ、御影奈央って言います! つい昨日篠崎さんに連れてこられて……」


「あー、奈央もそうなんだ!」


 さらっと距離を詰められて困惑するが、気を取り直す。


「ええ、真白さんもなんですよね?」


「うん、私もついこの前よ。高校が篠崎さんに襲われて、私はここに連れてこられたの」


「ああ、そうなんですか……。やっぱり、おばあちゃんに結婚相手として見せるためだったんですかね……」


「だと思うよぉ。私が途中でゾンビに噛まれちゃった時、すんごい顔で舌打ちしてたもん」


「うわ、想像できます……」


 二人してため息。

 しかし、真白はどうやらゾンビになってしまっているようだ。やはり、戦闘に参加するのかもしれない。


「真白さんは、『屍の牙』を手伝ったりしないんですか?」


「あんまり。他に行くとこないからここにいるだけって感じ」


「あー、なるほど。じゃあ、戦わないんですか?」


「嫌よぉ。私、バトルなんて絶対できないもん」


「それは同感です……」


 どうやら、わざわざ御影が動くまでもなかったようだった。真白本人に篠崎を手伝う気がないのなら、御影の仕事はなくなったようなものだろう。

 なんだかそう思うと力が抜けてしまった。


「真白さんはこれからどうするんですか?」


 篠崎たちは壁を責める。もしも彼らが失敗したら、御影たちは二人きりだ。そのままでは三日と持たない気がする。


「んー、考えてないなぁ」


 真白は楽観的だった。確かに、想像しにくい状況ではある。

 こんな風に世界が変わってしまった今、逃げ場がどこにあるのかなんてわかったものではない。どうしたらいい、なんて聞いたところで行き当たりばったりに生きる人の方が多いのだ。答えられる人の方が少ない。


「まぁ、なんとかなるでしょ!」


 だから、せめてポジティブでいるしかないのだ。

 どうしたらいいのかわからない。そんな状況で悲観していたら、状況は悪化するだけだから。


「……ですねっ」


 御影も困ったように笑い返し、もしも可能なら、彼女についていこうと思った。





※※※





「さーって、そろそろ行くぞォ」


「おーう」


「ダッシュで奪取! なんつって! 全力で走ってこーぜ!」


「クソつまんねぇ死ね」


 男四人はそれぞれ伸びをし、戦いに備える。目前に迫った最後の勝負に、しかしみんな落ち着いていた。

 それは、きっと、他人に自分の想いを伝えたことで何かが吹っ切れたからだろう。

 つまりは彼らにとって、御影の存在が大きかったのだ。


「おっかしぃな、あんだけクソ憎んでたはずなのによ。なーんか、勝ち負けどーでも良くなって来た」


「わかるよ、僕もだ。後悔しなきゃいいやって気分。航海して後悔、みたいな?」


「クッソつまんねぇの挟むなよ。でも、そーだな」


「おいおい、ちゃーんとやってくれよォ?」


「ははは、全力は尽くすさ」


 軽口を交わし合い、お互いに笑みをこぼす。もしかしたら最後になるかもしれない会話だ。


「――と」


「そーんな会話に水差すみてェに現れやがったテメーは、誰だァ?」


 篠崎は眼前に現れた敵を睨む。

 敵は、六人だった。鈴音は既に配置についているため、こちらは四人。状況は少々こちらが不利なようだ。


「あーれ、『彼』はいないのかな?」


「だーれの話だァ?」


 敵の中のリーダーらしき人間が訊いてくる。誰を探しているのかはわかっていた。『屍の牙』の協力者のことだろう。

 だが敢えて、茶化すように笑って見せた。それを目の前の敵も面白がる。


「とぼける必要はないぜ。いるんだろ、その病院の中に」


「だーから、誰のことか言わねェとわっかんねーって。ここには男が四人もいんだからな」


 肩をすくめて小馬鹿にするように笑みをこぼす。挑発のつもりだったが、相手は全く意に返さないような様子で、


「『ミカゲ』って子。いるんでしょ?」


 瞳を細めて、何もかもを見透かすように、笑みを浮かべた。

 もはや隠す理由もなかった。篠崎は首肯して、彼らがここに来た理由を問う。


「テメーら、何しに来た?」


「目的は三つ。『ミカゲ』って子を探しに来たのと、真白って子を探しに来たのと、君らの足止め」


「ふーん、じゃあ俺たちの敵だ。全部譲れねェわ」


「だよね」


 敵はニコリと微笑み、自身の仲間を振り返る。


「キミたちは、協力してあの金髪と戦うんだ。オレは『ミカゲ』と真白って子を探す」


「了解」


 それぞれの短い返事を聞いて、篠崎は少しだけ驚いた。一見こちらのことを舐めているようで、しかしこちらの実力を認めていることが読める。

 なるほど、と思った。


(こいつら、思ったより厄介かもな……)


 壁に向かう最初の一歩から大きな石が転がっていたようで、篠崎は舌打ちした。

フライドポテトのカップ麺は実際に売ってました。食べたことのある方はわかるかと思いますが、普通の味でした。


ポケモンGO楽しいです。

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