表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
75/125

70 時間稼ぎ

「よっえ――――なァ!」


 倒れ伏す戦闘員を蹴飛ばし、息の根を止める。数えていないが、既におそらく篠崎が倒した人数は二桁に登る。

 それだけ戦いながら、今の彼は無傷だった。


「さっすがにこーんなレベルだとは思わなかったぜェ?」


 すでに目的の壁は目前。そして、医療部隊と思われる面々が身構えているのが視界に入った。

 気になるのは、医療部隊がどうやって亀の攻撃を防いだのかだ。

 確かめるために、死体の首を掴んで思い切り投げてみた。


「お」


 砲弾のような速度で死体は医療部隊のところへ飛んだが、彼らにぶつかる直前にバリアのような何かに遮られて死体は地に落ちた。


(なーるほどなァ、これで防いだのか)


 問題は、効果がどの程度なのかだろう。亀の攻撃や篠崎の投げ放った死体も防ぐバリアだ。かなり強固なものだと思われる。


「さーて、実験開始といきますかァ」


 時間はある。敵戦力が弱いということも理解している。であれば、多少は好奇心を優先しても問題ないだろう。

 篠崎は、バリアがどれだけの攻撃に耐えられるのか、調べることにした。





※※※





 浴びせられる攻撃を、ただ見ているしかなかった。

 今のところ全ての攻撃はバリアに弾かれているが、それもいつまで持つかはわからない。戦闘力のない御影は、ただ見ているしかないこの状況に歯噛みするしかなかった。

 見る限り、金髪のゾンビはバリアの強度を試しているように見える。彼には余裕があるのだ。それはつまり、壁側の勢力が負けつつあることを意味していた。

 どうして、と思う。まだ御影たちが壁の中に入って一日しか経っていない。壁の中は安全なのだと信じていたのに、どうしてこんなことに。


(いや、もしかして……)


 存在しないのだろうか。

 今、終了してしまったこの世界に安全な場所など存在しないのだろうか。

 不安になって、隣の秋瀬に目を向けた。秋瀬は目を伏せて、身体を震わせていた。彼女も、彼女ですら、怖いのだ。

 それまで安全だったために。

 それまで危険とはほど遠い場所にいたがために。


「副会長……」


 思わず声が漏れた。震える声を聞いて、秋瀬は御影に目を向ける。そして安心させるように微笑んだ。


「きっと、大丈夫よ。この戦いには第一部隊の人も出るんでしょう? 心配ないわ」


 その言葉は、秋瀬自身を安心させるために言っているように感じた。


「第一部隊の方々は、まだ出撃していないんですかね」


「みたいね。あっちの戦力は本当にすごいらしいから、迂闊には出せないんでしょう」


「だとしても、これは……」


「……怖いよね」


 目の前には第二、第三部隊の面々を単騎で突破してきたゾンビがいて、今現在も攻撃を浴びせているのだ。確かに御影も秋瀬も、学校や壁へ向かう道中にゾンビと戦ってきた。多くの戦闘を目にしてきた。

 だけれど、これほどまでに一方的な絶望を味わったことは、なかった。


「ヘー! やりゃァできんじゃねーか、えェ!?」


 篠崎は死体を蹴飛ばし、バリアを砕こうと攻撃を重ねる。先ほどまで戦っていた仲間の人たちがこうも非道な扱いを受けているというのに、何もできなくて、裾を握った。

 その時、視界の隅で誰かが動いた。


「篠崎ィィィイイイイッッ!!」


 春馬だった。

 彼は、第二部隊の隊長として、部下がこうも無残に扱われているのを許容できなかったのだ。


「おおおおおおおおおおおおッ!!」


 手に持ったハンドガンを、その銃口を、篠崎に向けた。これは通常のハンドガンではなく、ゾンビ由来のもので、被弾者の動きを止める能力があった。

 だが。


「効っかねーっつゥの」


 篠崎は片手で難なく弾き飛ばす。今の篠崎には、大抵の攻撃は通らないのだ。


「俺に攻撃したけりゃーさっきの亀のやつみてェなのを持ってこい! 馬鹿が何度悪足掻きしたところでなー、鬱陶しいだけなんだよォ!」


 春馬の攻撃に苛立ったのか、篠崎は早口で激昂した。聞いて、春馬は笑う。


「ふーん、なるほどな。お前のその能力には許容量があるのか」


「あ? それがどーしたんだよ。まさか、爆発クラスの攻撃をできるとは言わねーよなァ?」


「俺には、無理さ。だけど今、俺の役目がわかった」


 春馬はハンドガンを捨てると、腰から剣を取り出した。無理、と聞いて篠崎は舌打ちしたが、構わず続ける。


「お前は確か『馬鹿が何度悪足掻きしたところで』と言ったな」


 剣で空を切ると、春馬は自らを鼓舞するために言い切った。


「俺の役目は、悪足掻きをした馬鹿どもと同じだ! 第一部隊が出撃するまで、時間を稼がせてもらうぜ!」


 そうして、無謀すぎる時間稼ぎは始まった。



 ずいぶんの時間が経ったが、第一部隊は一向に出撃しなかった。上層部の狙いが読めず、誰もが困惑していた。

 しかし、春馬は諦めていなかった。


「おおお!」


「……チィ」


 届かぬとわかっていながらその剣を振るい、通じぬとわかっていながら攻撃を浴びせる。狙いが時間稼ぎなだけに、篠崎の注意さえ引ければ良い。

 ヒットアンドアウェイを繰り返し、適度な煽りも織り交ぜて篠崎の意識を春馬のみに集中させる。そんな春馬の狙いにも気づかずに、篠崎は吠えた。


「チョロチョロとうっぜーな! いい加減にしやがれェ!」


 篠崎は地面を蹴飛ばし、瓦礫を散弾のように打ち出す。春馬は焦らず身を低くして、できる限り剣で防いだ。

 そのまま篠崎の後ろに回り込むと、その背を斬りつけた。


「よぉ、お前ワンピース読んだことあるか? 背中の傷は剣士の恥なんだぜ。お前はもう剣士にゃなれねーな」


 これ自体は小学生じみたくだらない煽り文句だ。だが、今の篠崎には大きな効果があった。


「の、やろー……殺してやる!」


 怒鳴って、篠崎は掴みかかろうと手を伸ばすが、春馬それを左手で払った。


「喧嘩したことないのか? 動きが俺以下だぞ」


「クソ、が!」


 篠崎の動きは子どもの癇癪と大差ない。多少は漫画やアニメなどの影響からか立ち回れているが、拳の握り方すら知らないようでは春馬には及ばない。

 能力もどうやら攻撃には使えないようだし、これは第一部隊が出るまで時間を稼ぐのは余裕かと思われた。

 が。


「くっそー、『鉄壁』だけでどこまでいけるか試したかったのによォ。ここが限界かよ……」


 篠崎は急に戦いの手を止めて、ブツブツと呟き出した。それになにか不穏なものを感じて、春馬は少しずつ距離をとる。だが、それでは、まだ篠崎の間合いだった。


「ふっ」


 篠崎は腕を振るった。

 直後、その腕の先から放たれるように、電撃が空間を焼いた。


「が、あッ!!」


 咄嗟に非常時防御機能を使おうとしたが、間に合わず春馬は電撃に焼かれた。

 戦闘服自体がそういった衝撃に強かったからか、奇跡的に一命は取り留めていたが、もう春馬は立ち上がれなかった。そもそも、意識がなくなっていた。

 そうして倒れ伏す春馬に近づくと、篠崎はその頭を踏みつけた。


「クソが! テメェのせいで俺の挑戦が台無しじゃねーか! 死ね、カス!」


 何度も何度も踏みつけながら、なおも篠崎は声を荒げる。


「さっきの永井とか言うのもそうだが、なんだってテメェらは無駄に足掻くんだ? ハエが足掻いたところで象には勝てねーんだよ、それと一緒だァ!」


 それを、その言葉を、秋瀬もその場で聞いていた。バリアの内にいたが、声は届いていた。


「今、なんて……?」


 震えた声が漏れるが、しかし篠崎には届かない。


「永井とか言うやつも、テメェみたいにぶっ飛ばしといたがなァ。弱ェーくせに足掻くんじゃねェよ。時間の無駄なんだよ!」


 すでに意識の落ちた春馬を踏みつけ、踏み躙って、踏み潰した。

 だがそんなことには目もくれず、秋瀬はバリアの外へと走り出した。自分の彼氏の名が篠崎の口から出たことが、震える彼女を動かした。


「副会長!」


 慌てて御影が止めようとするが遅い。すでにバリアの外へと出てしまった秋瀬は、篠崎に問うた。


「永井って……」


「あー?」


 篠崎は声をかけられて、春馬を踏みつけるのをやめた。そちらに目を向けて、声の主を観察する。


「永井って、永井雅樹のことじゃ……ないですよね……」


 その声色はもはや懇願に近かった。

 瞳には涙が浮かんでいて、違って欲しいと、永井は生きているのだと、信じたかった。

 だが、篠崎の口角はニヤリと吊り上がった。


「ざーんねんだったな、俺がぶっ潰したのは……そいつだァ」


 秋瀬はその場に崩れ落ちた。


「あ、あ……あ……」


 彼が、永井がやられてしまった。

 両手で顔を覆って、秋瀬は絶望した。涙を流し、嗚咽を漏らした。信じたくなかったが、信じるしかないだろう。信じられるだけの情報は、揃っているのだから。


「あ、そーだ。じゃー俺が、永井くんのとこに連れてってやろう」


 手を叩いて提案する。篠崎としては、春馬のせいで生まれたこの苛立ちを何かで解消できれば良かった。だから永井の命は奪っていないが、こう言って秋瀬を絶望の底に落とし、その命を刈り取る。そうして、壁を攻めることを再開しようとした。

 だが、絶望する秋瀬に手を伸ばそうとして、横に飛んだ。瞬間、その場所を電撃が焼く。


「なんのつもりだ」


 篠崎の視線の先には、篠崎が率いる『屍の牙』の仲間である竹山浩二がいた。


「もーいっかい訊くぜェ」


 篠崎は仲間だった存在を睨みつけ、問いに答えぬ男に再び問う。


「なんの、つもりだ?」


 竹山はしばらく口を閉じていた。

 その瞳には戸惑いが浮かんでいる。浮かんでいながら、しかし先ほどの攻撃を後悔している様子はなかった。

 竹山は逡巡の後、口を開く。


「……キョーヤ、それは……その行動は、間違ってるよ」

更新遅れました。

『ネット小説大賞』の二次選考に落ちたことが予想以上に刺さりました。これから重要な場面が来るというのに、こんなんで大丈夫かという感じですが、頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ