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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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66 金髪の手がかり

 マイクロバスから計六人と一匹がいなくなった後、残った面々は東京を目指した。ところどころで休憩をしたり、出会った生存者と争ったりしながらも、目指していた『壁』は目前まで迫っていた。


「よっしゃあ、これで俺たちは助かるぞ!」


 運転している幕下は片手でハンドルを握りながら、空いた手で拳を握る。

 これでとりあえずは安全なはずだ。

 風見は幕下の目的を『頭の中お花畑』と罵倒した。だが、幕下は今、こうして成し遂げようとしている。

 道中は、それはそれは大変だった。

 あまり食料を持ってこなかったせいで、手持ちが底を尽きた時は近くのコンビニをしらみ潰しに探し回った。しかしそれでも見つからず、生存者の住処から盗ったりした。

 それが見つかって争いになり、こちら側からも死者がでた。

 それでも生き残りたい一心で、壁の中は安全なのだと信じて、進み続けた。

 バスの中にはもう幕下を含めても五人しか残っていなかったが、それでも前を向いてきたのだ。

 それが、ついに終わる。

 やっと終わるのだ。



 ――そう、思っていた。



「ん、光?」


 ピカッと、雷のように光だけが一瞬視界を覆った。

 そして直後、爆発とともに轟音があった。


「う、おあっ!?」


 目前と言えど、壁までそれなりに距離のあったマイクロバスは、しかし目前に迫る爆風から逃れるために建物の陰に隠れることにした。

 ハンドルを捻り、全力で右へ。そこから急ブレーキをかけて、車体はドリフトするように回転した。


「テメェら、何かに捕まれえ!!」


 後ろに乗る面々に怒鳴りつけ、自身も必死でハンドルを操作した。爆心地から距離があったおかげか、爆風が盾に使った建物を吹き飛ばすことはなく、何とか一命は取り留めた。

 後ろを見て、乗っていた全員が無事なのも確認した。


「くっそー、どうなってやがる……」


 まだまだ周囲は危険な気がして、幕下は運転席から降りた。

 周りを見回してみると、爆風に飲み込まれたゾンビや生存者たちの死体がところどころに転がっている。その無惨な様子に「ひっ」と喉を鳴らすが、もう死体は何度も見てきたと自身を納得させる。

 一瞥した感じでは、周りに息のあるゾンビはいないようだった。


「……はっ、ちょっと待て!」


 そこで幕下は気付く。

 爆発は都心部で起きた。そしてマイクロバスの進路も都心部だった。

 その都心部には、何があった?


「――壁は!?」


 これで目的地が壊れてたりしたらシャレにならない。そう思って都心部が見れる場所まで走っていった。


「……は?」


 そこで、驚愕した。


「地平線……? 壁以外なんもねえ……!?」


 壁が残っていたことに安心すべきなのだろうが、幕下はどうしても驚愕せずにはいられなかった。

 地平線だ。それも都心部に。

 幕下は何度も都心部に来たことがあったが、その時は毎度、高層ビルの量に驚かされたものだ。

 その面影が、ほどんど残っていない。


「ギリギリセーフってことか……」


 大体五百メートル先からはほどんど建物がない。ギリギリのところで爆風から逃れられたということだ。

 自分の運の良さにホッとしながらも、もしももう少しスピードを出していたらと思うとぞっとする。

 見た感じでは壁の方はまだ大丈夫そうだ。マイクロバスで再び向かっても問題はないだろう。

 むしろ次の爆発が来る前に、さっさと壁にたどり着いてしまいたいくらいだ。

 そう思ってマイクロバスに戻ろうとすると、なにやら騒がしい。

 耳をすますと、若い男女の笑い声とマイクロバスの面々の怯える声が聞こえてきた。


「ちょ、なにこいつらウケるんですけど。こんなので移動してきたの? バカじゃないの?☆」


「言うでない波風嬢! 彼らも自身の力で精一杯頑張ったのだ! それはむしろ称賛すべきであり、私はもちろん称賛しよう! よく頑張ったぞ諸君!」


「こっちにもバカいたわ……☆」


 女の方は呆れるように肩を落とす。

 しかし何がそんなにおかしいのだろうか。移動手段にマイクロバスを使うのは十分に効率的だと思うのだが。


「アタシらみたいにゾンビになればもーっとラクだったのにねぇー☆」


 幕下はゾッとした。

 彼らはゾンビだ。つまりは敵だ。

 マズイことになった。幸い風見晴人のように自我は存在し、話せばわかるようにも見えるが。


「なるほど、では彼らをここでゾンビにしてしまうというのはどうだろうか波風嬢!」


「こいつら仲間にするの?☆」


「篠崎殿は東京に攻め込んでいるのだろう? であればここで仲間を増やせば少しはマシになるのではなかろうか」


「あー、なるほどね。初めてアンタの口からまともな意見聞いたわ☆」


「はっはっは、褒められるというのはなかなかに良いものだな!」


「貶してんのよ、バカ!☆」


 言いながら、女の方は男を殴った。

 それを見て、幕下はマイクロバスに背を向けた。これはダメだ。さすがに無理だ。

 マイクロバスの連中には悪いが、ここでお別れだ。


「俺はこんなところで、死にたくねえ……!!」


 幕下はなるべく音を立てないように隠れながら、逃げ出した。





※※※





 風見たちの一行はゾンビの反応がある辺りを目指して再び移動していた。爆発で吹き飛んだ辺りは何が起こるかわからないため避けて、なるべく余裕を持ちながらの移動。

 よく考えれば、生存者たちが各々徒歩や車で移動する中で走っているというのはなかなかシュールな光景に思える。

 そんな風に考えながら走っていると、見知った生存者が視界に入った。


「あ、あいつ……」


「幕下先生……ですか?」


 風見と同じように幕下に気づいたのか、笹野も風見に寄ってくる。


「なんであいつがここに……? マイクロバスは……?」


「聞いてみますか?」


「ああ、ちょっと行ってくる。先行っててくれ」


 風見は山城たちを先に目的地へ向かわせることにし、幕下の方へ向かった。

 幕下は必死で走ってきたのか疲れ果てた様子だが、チラチラと後ろを振り返っている。そして誰もいないことに安心したのか、近くのベンチに座った。

 そんな幕下に風見は声をかける。


「おい」


「うわああああッ!?」


「ビビんなよ、俺だよ……」


「なんだ、お前か……」


 幕下は大声をあげて驚いた。驚くのはこっちの方である。

 風見を見て胸をなでおろした幕下。それを見て、単刀直入に訊いた。


「お前、マイクロバスはどうしたんだ?」


 幕下は訊かれて目を逸らした。

 風見には冷たかった彼も、やはり教師なのか、生徒たちから離れたことに後悔しているらしい。


「何があったんだよ」


「……ゾンビが、来たんだ。ちょうど都心部が爆発した直後にな」


 ポツポツと語りだす。


「パーマがかったイマドキのJKみてえなやつと変な口調の男が来て、バス内の連中を食おうとしてた。俺はたまたま離れてたから……」


 そこまで聞いて、風見は目を見開いた。

 パーマがかった髪。

 そういえば、高坂流花が殺された時に、そんな感じの少女が近くにいなかったか。


「おい、今すぐそこに案内しろ。後で壁に連れてってやるから乗れ!」


「は、何言ってんだお前?」


「あー、行くぞカス!」


「お、おいふざけんな馬鹿野郎!!」


 風見は強引に幕下の襟首を掴んで飛んだ。空中で幕下を背負うと、近くのビルに着地して、飛び跳ねながら幕下の案内するその場所を目指す。

 もしかしたら金髪にたどり着けるかもしれない。その手がかりを得たかもしれない。

 そう思うと、足はぐんぐんと進んだ。

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