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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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57 エニグマ

 驚愕の事実が、たった今聞かされた。

 今までの騒動の原因。ゾンビ化のきっかけ。

 全ては、『特殊物質』とやらにあったのだ。


「その、特殊物質とは……何ですか?」


「特殊物質……我々は『エニグマ』と呼んでいる物質だが、これは本来、何の意味も為さない」


 研究者故か、白衣の男は少し遠回りするように説明を始めた。


「そのため、教科書にも載らなかったし医学でも扱われなかった。ネットを調べてもほとんど資料はないだろうし、当然誰も気にしてはいなかった。そんな、何の役にも立たない物質だった」


 両手を広げ、肩をすくめるように笑う。


「それが落ち度といえば落ち度か、エニグマを研究する者がいなかったせいで、『兆候』に気づくこともできなかった」


「兆候……?」


 ゾンビ化が発生する前に、何か兆候があったというのか。

 ゾンビ化が始まる前まで、高月はいたって普通の生活を送っていた。だから兆候らしい兆候など、全く記憶にない。


「ざっと十年ほど前、山に囲まれ川が流れるような、のどかな田舎でそれは起こった」


 十年前といえば、高月は小学校低学年だ。丁度、『サニーマン』と出会った頃か。そんな昔に、何が起こったというのか。


「全人類のエニグマ量が増加した」


「――――」


「もっとも増加量は微量で、脅威にはならず、我々を除く人間は気づくこともなかったがね。これによって我々は様々な計画を立てたわけだが……」


 と、思い出したように頭を振る。


「いかんいかん、話が脱線したな。まぁ、これで大体話は読めたと思うが、七月二十五日にも同じことが起こったのだよ」


「それも今度は、増加量が微量ではなかったと?」


「鋭いな少年、その通りだ」


 高月の指摘に白衣の男は指を弾く。


「人体はある程度のエニグマ量になら耐えられる構造となっている。しかし、その許容量を超えると――」


「――ゾンビになる」


「そういうわけだ」


 話し終えると、白衣の男は『エニグマ量測定機』をくぐってこちらへ歩いてくる。高月たちの横を通り、ホールの奥まで歩いて行くと、そこでこちらを向いた。


「私は狩野将門。将の門でマサカド。平将門と同じ名だな」


 狩野は唐突に自己紹介を始めると、再び両手を広げた。


「我々は君たち生存者を歓迎しよう。ようこそ、『新政府』の統治する『壁』の中へ」


「新、政府……?」


「まぁ、今日はたくさん話した。続きはまたにしよう」


 再び質問しようとすると、狩野に遮られる。


「少し疲れただろう。一度、部屋で休みたまえ。――今の話を、みんなでもう一度噛み砕いてみるといい」


「…………」


 狩野はそう言って手を振った。

 これ以上話す気はないのだろう。高月たちはそれに従い、ホールを後にする。

 案内役の男に部屋まで送ってもらった。





 出て行く生存者たちの背に目を向ける。生存者たちは子どもだった。

 白衣のポケットに手を突っ込みながら、狩野は一人の少女を見る。


(まさか、こんなに早く見つかるとはね)


 彼は、当然生存者たちに全てを話したわけではない。

 話せないことも、話すべきでないこともたくさんあった。

 その中でも最も話せないこと。

 それが、彼女の存在だった。


(『使徒』、待っていたぞ)


 狩野は睨むように、しかしどこか楽しんでいるように、少女を見送った。





※※※





 目覚めた時にいた部屋に戻っても、誰も口を開かなかった。開けなかった。

 それだけ話が衝撃的すぎたのだ。


「……とりま、ジェットが隔離されるのは防げたな!」


「……そうだね」


 明るくしようと永井が声を上げるが、誰も乗ってはくれない。誰もが先ほどの話を咀嚼していたから。

 高月も一人で考えていたが、ついに独り言のように言葉が漏れ出てしまった。


「エニグマ……ゾンビ化の原因、か」


「……正直、ついていけないです」


「……俺も」


 狩野の話でわかったことは多い。だが御影と永井は突拍子がなさすぎてついていけないようだった。


「エニグマ量増加がゾンビ化の原因なら、ゾンビに噛まれるとエニグマ量が増加するってことになるわね」


 だが秋瀬は冷静に狩野の話をまとめているようだった。

 自分以外にもそれを行う者がいて良かったと安心しつつ、高月も自分の意見を述べる。


「とすると、ゾンビの進化は、エニグマ量の変動で起こるんですかね」


「そうね。増加か減少か、食いちぎって体内に入れてるわけだから増加かもしれないけど。ともかく、エニグマ量が変動するとゾンビが進化するみたいね」


 顎に手を当てて考えてみる。

 そう考えれば、先ほどの機械で御影が弾かれたのはやはり誤作動だったと言える。

 あれが本当にエニグマ量測定機であれば、御影が弾かれるはずがないからだ。

 御影はゾンビではないし、噛まれてもいない。これは学校で彼女を防火扉の中に入れる際に聞いたことだ。

 彼女は、風見晴人に守ってもらったと言っていた。

 彼女が殺される心配は、ひとまずはないと思っていいだろう。


「なんであれだけの話でこんなに考えられるんですか……」


「ホントそれな……」


「ご主人が困っているだろう。もっと噛み砕いて説明しろ」


 御影、永井の二人は疲れが抜けきっていないのか、あまり頭を使いたがらないようだ。考えることを最初から放棄している。

 彼らは頭が悪いわけではないのだから、少し考えれば高月たちと話せるとは思うのだが。


「つまり、エニグマの量が増えちゃダメってことみたいだよ」


「……納得しました」


 ようやく御影も納得したようだ。

 話がひと段落したところで、永井が声を大にする。


「じゃあ、さっきできなかった話の続きをしてもいいか?」


「……あぁ、はい」


 確かにさっき途中で案内役が来てしまったため、話が終わってしまっていた。

 『壁』の中での生活についてなのだから、今のうちに済ませておくべきだろう。


「って言っても、話すことあるの?」


「あるある、超重要だよ!」


 秋瀬がジト目で永井を見るが、永井はきっぱりと言い切る。そこまで言われると、何を話す気なのか高月も気になってきた。


「じゃあ、何ですか?」


「……ハルトと高坂の捜索、それからマイクロバスの捜索は、どうする?」


 指を立てて言うのは、どうしようもないことだった。

 そのため秋瀬が代表としてみんなの心境を口にする。


「どうしようもないでしょ」


「そう言っちゃ終わっちまう!」


 永井が焦って話を続けようとするが、話はもはや終わっている。

 確かに高月だって風見や高坂、マイクロバスの面々を助けたいとは思う。が、どう考えても不可能だ。

 高月たちはすでに『壁』の中にいる。救われた身だ。それなのに自由に行動するなど、できるわけがない。

 それでも御影は力ない声で意見を述べる。


「でも、私はできるならみんなを助けたいです……」


 それは御影らしい意見だった。

 どうしようもないことではあるが。


「そこで!」


 無理だ不可能だと決めつけて議論を放棄していた高月は、いきなりバンと音が鳴り、驚く。永井が近くにあった机を叩いた音だった。


「一つ、相談がある」


「相談、ですか?」


 話が掴めず一同は困惑する。


「ああ」


 そこに、衝撃の一言が告げられた。



「この『壁』を守る『新政府』とやらの仲間になってみねぇか?」



 何言ってんだこいつ。言い方は違えど、全員がそう思った。

さらにツッコミどころが多い作品になってきましたが、おつきあい頂けると幸いです。

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