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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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50 情報交換

 しまったな、と風見は頭を掻いた。復讐のことばかりを考えてしまい、少し感情的になりすぎていた。


「まぁ、何しても話さなそうだったしいいか」


 ぐちゃぐちゃになった女子高校生の死体を窓から眺め、風見は応接室を後にした。

 女子高校生は『知らない』とは言わなかった。

 『知らない』ではなく『言えない』と言ったのだ。

 頼みの綱は消えたわけではない。

 まだたくさんいるではないか。


「さてと、情報あつめるか」


 まるで近所のコンビニにでも行くかのような気軽さで、風見は一番近くにあった教室に入った。





※※※





「風見くん、遅いねぇ……」


「確かにそうですね。ここの人たちは風見さんの探すゾンビの情報を知っていて、まだ話してるんでしょうか?」


「それしか考えられないよねぇ……」


 矢野たちは、女子高校生に連れられて美術室に来ていた。風見が連れられた応接室とは真反対の場所だ。

 矢野と宮里はすることもなく、駄弁っていたわけだが、既に一時間は経つ。情報をあつめるだけならそんなにかからないと思っていただけに、二人は少しだけ不安だった。


「そうだ!」


 不意に矢野が手を叩く。


「私たちも情報あつめしようよ!」


 聞いて、宮里は眉間にしわを寄せる。

 何言ってんだこいつ、みたいな顔である。


「かんなちゃんひどいよぅ!」


「何も言ってないじゃないですか!」


 矢野の意見は少し謎だが、やることがなくなって暇なのも事実。じゃあ何をするのかと言われると宮里はなんとも言い返せない。

 代替案も浮かばず、仕方なく宮里は矢野の意見に乗ることにした。


「はぁ。やることもないですし、あそこの監視係みたいな人をあたってみましょうか」


「賛成!」


 監視係みたいな人、とは矢野たちを美術室に案内した女子高校生だ。

 宮里は席を立ち、入り口の女子高校生に声をかける。女子高校生の方も暇だったらしく、情報交換ならと了解してくれた。

 改めて、美術室の席に座り向かい合う。軽く自己紹介をし、相手の名前を中橋鈴香というのだと知る。

 と、これから情報交換を始めるかという時に矢野が宮里に耳打ちしてきた。


「かんなちゃん、かんなちゃん。風見くんが探してるゾンビって、どんなゾンビなんだっけ?」


「……あ」


 宮里はハッとする。

 風見にそれを聞いておくのを忘れていた。せっかくのチャンスなのに、と落ち込むが知らないものは仕方ない。

 しかし風見のことだけが情報交換ではない。他にも交換すべき情報はあるはずだ。それを聞いておくだけでもいくらかマシだろう。

 宮里は情報交換を始めた。


「私たちはこの辺りに拠点を置いているわけではないので、あまりこの近辺に立ち寄ることはないのですが、念のため強いと思ったゾンビの情報等を交換しておきましょう」


「だね!」


「はい」


 これには矢野も中橋も賛成のようだった。こちらから提案したことだ。こちらから情報を出すべきだろうと宮里は出せる情報をまとめる。


(山城さんと笹野先生の能力は伏せておくとして、熊田くんと佐藤くんは……あんまり脅威って感じじゃないなぁ。風見さんの能力は知らないし……)


 身内の情報で開かせるものはほとんどない。当然のことではあるが、情報交換を提案した側であるのに何を情報を出さないのはマズイだろう。何か他に情報はなかっただろうか。


「えっと、とりあえずこっちのリーダーの山城くんの能力は――」


 考えていると、なんと矢野が勝手に話を進め出していた。山城の能力の詳細は伏せておくと自分の中で決めたばかり。その先を言わせるわけにはいかない。


「瞬……」


「私たちにも知らされていないんです! はい!」


 矢野にかぶせるように大きな声で宮里が言った。これで一応能力の詳細は伝わっていないはずだ。不信感は与えただろうが。

 宮里は言い終わると矢野を睨んだ。


(矢野さんは黙ってて下さい)


 ビクッ! っと矢野が身体を揺らし、「なんでもないです……」と中橋に笑いかけているのを横目に、宮里は出せる情報を絞った。


「能力は知らされていませんが、こちらのリーダーや副リーダーに当たる人物が持つ戦闘力はそちら的にも十分脅威となるかと思います」


「はあ」


 中橋は理解しているのかしていないのか曖昧な返事をする。宮里は自分の説明が固すぎたのかと少し反省した。


「それから、今協力関係にある風見晴人という人物もおそらくかなりの強敵です」


 話しながら、宮里は自分の説明を少しだけわかりやすくするために言葉を選んだ。その効果か、中橋も少しだけ表情を明るくしたように見えた。


「私たちが拠点を置く地域のゾンビは大体が自我を持たないものだったために、この情報公開で出すほどの強敵はいませんね」


「なるほど」


「鈴香ちゃんの方はゾンビの情報ある?」


「うーん」


 中橋は矢野に言われて唸る。顎に人差し指を当てて小首を傾げる様は、出せる情報を思い出そうとしているというよりも、その情報を出しても良いのか迷っているように見えた。

 中橋はしばらく悩んだ末に、


「君たちの仲間以外には教えないでね」


 そんな約束とともに情報を話すことにした。





 夏休みの始まる日、終業式の日に、それは現れた。

 ゾンビ。

 共食いを繰り返すことで様々に進化していく力を持つ化物。

 それが現れたのは、なにも風見たちの学校周辺だけではない。それは突如世界中に現れたのだ。

 だからそれは、その高校も例外ではなかった。

 しかしその高校の生徒たちは、ゾンビの出現後も互いに協力し合い、なんと百人以上の人数で初日を生き残ることに成功した。

 ゾンビは学校外に追い出し、食料は運動部の男たちが、バリケードの構築や壊れた箇所の修繕は文化部の面々が、その他の人間は掃除や洗濯などを行うことで見事に役割を分担した。

 幸いその高校は偏差値が高い高校で、素行の悪い人間はあまりいなかったために反抗も少なかった。

 そこにあったのは、生の渇望。

 他者を助けることで自分を助けてもらい、他者に助けられることで終了した世界を生き残る。

 助け合ったおかげだと言えば聞こえはいいが、根本的にあったのは自分の安全の確立だった。


 だからそれが高校に現れたのは、そう思っていたからバチが当たったのだろうと皆言う。


 金髪のゾンビ。

 及びその集団。

 校門を叩き、唐突に学校へ侵入してきたそのゾンビには、手も足も出なかった。

 あっという間に高校にいた生存者は半分まで減り、校庭に集められてしまったのだ。

 生存者たちはそれでも生きたかった。死にたくなかった。ゾンビにはなりたくなかった。

 だから懇願した。地に頭をこすりつけた。涙を流して頼んだ。

 そうして、金髪から提示されたとある条件を呑むことで生を得た。

 そうしてでも、彼らは生きたかったのだ。

 金髪から提示された条件は三つ。

 金髪の属する組織の使者が現れた時に、生贄として生存者を一人捧げること。

 すでにゾンビとなった人間はそれ以降共食いを行わないこと。



 ――高校で最も綺麗な少女を一人、金髪の嫁として捧げること。



 条件を呑むと同時に生を得た高校生たちは、その時のことをタブーとした。

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