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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
54/125

49 堕ちる

 更新遅くなってすみません。


 この話から主人公のことを嫌いになる方が続出するかと思いますが、主人公のことはいくらでも嫌ってくれていいので、この作品のことは嫌いにならないでください。

 そこは高校だった。

 ゾンビが現れた後にしては綺麗な高校だった。風見の高校や山城たちが占領していた小学校も、店や側の道路なども、散乱した血や肉片で吐き気を催すような見た目になっているのに、その高校だけはなぜか綺麗だった。


「ここに自我のあるゾンビがいるわけか」


 風見は睨みつけるように校舎を見上げた。

 校舎は白を基調とした『凸』の形の校舎に時計がくっついたテンプレ的なものとは全く異なり、大きな窓が特徴的な近未来風デザインで、上から見てL字型になるように作られている。

 金髪のゾンビは高校生には見えなかったため、この高校に通っていたとは思えないが、近くに住んでいてたまたまこの高校をアジトとして利用している可能性も否定できない。

 この高校にいる自我をもったゾンビが、金髪の仲間でないとは限らないのだ。


「ど、どうする……? 別行動するの……?」


 まるでそれをしたくないかのように、不安そうに矢野が風見に問う。その不安を察し、風見は「いや」と首を振った。


「正面から入る。多分インターホンあるだろ。それで敵に姿を見せた上でな」


「姿を見せてしまっていいんですか?」


 今度は宮里が眉をひそめた。


「いいんだ。まだ敵かどうか確定してないわけだし、こっちから手出しする必要はねえだろ」


 風見が言うと、矢野はホッと息を吐いた。宮里はうむむと唸っているが、構わず風見は正門まで歩いていくと、インターホンを押した。返事はなかった。

 しかしここまでは風見の想定通りだった。だから風見は相手に返事をさせるために、こう言った。


「三十秒以内に返事をしなければ、この校舎を破壊しながら発見した生存者を一人ずつ殺す」


 返事はすぐにあった。


「何が目的?」


 声色から想像するに、女子高校生だろうか。風見はものわかりの良い相手によし、と拳を握る。

 そう。先ほど風見が言った、校舎を破壊し生存者を殺すと言うのは単なる威嚇ではない。やるつもりのない脅しではない。

 返事がなかったら、風見は本当にそれを実行していた。


「目的は……とりあえず中に入らせろ」


「……わかった」


 同時にガチャ、と正門の鍵が開く音がした。





※※※





 中に入ると、風見は応接室に案内された。矢野と宮里の二人は別の教室へと連れて行かれている。その際に一緒についていった女子高校生はおそらくゾンビだろう。

 宮里によると、ここには自我をもつゾンビは三体しかいないという話だったが、見た所人は多い。応接室まで行く間に五人ほどとすれ違った。おそらく、ふたクラス分ほどは生存者がいるのではないかと風見は推測する。

 風見を応接室へと案内するのは先ほど風見がインターホンを押したときに喋った女子高校生で、風見はこの少女はゾンビではないと考えていた。

 その根拠は、風見の後ろに男子高校生が二人ついてきているからだ。先ほど矢野と宮里の二人を別の教室へ連れて行った女子高校生をゾンビとするなら、あとは後ろの男子高校生二人がゾンビとなれば、合計で三人になる。この高校には三体しかゾンビがいないのだから、この女子高校生はゾンビでないと思われる。


(あるいは、矢野たちを連れてった女子はゾンビではなく、俺を囲む三人が全員ゾンビである……か)


 考えていると、応接室についた。

 入るとすぐに女子高校生は「そこに座って」とソファを指差し、自分は対面のソファに腰掛ける。風見が指差されたソファに座ると、男子高校生の内の一人が水を持ってきた。

 毒物が入っている可能性も考えて、風見は出された水を飲むことはしなかった。


「それで、目的は?」


 女子高校生は一口水を飲んで、風見に聞いた。風見は後ろに男子高校生二人が移動したのを確認しつつ答える。


「あるゾンビを探している。知ってたら教えてほしい」


「ふぅん、特徴は?」


 問われて、風見は後ろの男子高校生も含めたこの場の全員の反応を伺いながら返す。



「金髪」



 全員が少しだけ目を見開いた。目の前の女子高校生だけはそれを隠しているつもりのようだが、無駄だ。


(これは知ってる反応だな)


 風見は相手の反応からそう推測しつつ、続けた。


「それから体格からするに大学生くらいってのと、何かの組織に所属している可能性がある……ってことくらいか」


 後ろの男子高校生が冷や汗をかいていることに風見は気づく。この高校も金髪のゾンビに何かをされたのだろうか。

 数秒ほどの沈黙があってから、女子高校生は口を開いた。


「……知らないわ」


「そうか、悪いな」


 風見は言って立ち上がる。

 そして最後に、確認する。


「本当に知らないんだな?」


「……知らない」


 女子高校生は目を閉じてしまっている。こうなればおそらく知っていたとしても口を割らないだろう。


「なら、悪いな」


 重ねて風見は謝った。

 その不自然な言葉に眉をひそめた女子高校生が顔を上げた瞬間。


 風見は、右後ろにいた男子高校生の頭を掴んで、机に叩きつけた。

 その頭は爆ぜ、血と肉と骨が飛散する。座っていた女子高校生は顔を真っ赤に染めた。


 女子高校生も、もう一人の男子高校生もぽかんと口を開けている中、風見はなんの感情もない声色で告げる。


「お前らには、強制的に喋ってもらう」


 拷問が、始まった。



 風見はまずもう一人の男子高校生を殺そうとした。

 女子高校生と一対一になった方が話が進めやすいと睨んだからだ。


「クソ、こいつ!」


 男子高校生の能力なのか、手を振りかぶり、振り下ろすと、出していた手の延長線上にあった辞書が飛んできた。


(見えない手を操る能力……、それも自分の手の延長線限定……? 手を伸ばす能力みたいなもんか……?)


 風見は男子高校生の能力を推測し、


「弱いな」


 飛んできた辞書を片手で受け止めながら結論付けた。

 風見は見えない手から辞書を奪い取ると、


「能力を使うまでもねえよ」


 吐き捨て、辞書を投げ当てた。それだけで男子高校生は爆散する。

 ここの自我を持つゾンビたちは共食いをしてこなかったらしい。想像以上に弱かった。


「ひ、ひ……」


 女子高校生の方を見ると、何もできずに震えていた。一瞬で味方が二人やられた現状を理解できていないのだろう。

 風見は、女子高校生に言った。


「お前もこうなりたいか?」


「あ……ぃや……」


 女子高校生はビクッと体を震わせるだけでまともに返事をしない。何度か同じことを言ってもそうだったため、風見はため息をつくと邪魔な机を蹴って退かした。

 女子高校生の目の前まで行き、その左腕を掴み上げる。


「言えよ」


 バキッ、と。

 乾いた音が鳴った。


「……ぁ?」


 女子高校生は顔を上げ、自らの左腕を見る。そこには不自然な方向に曲がった腕があるだけだった。


「う、ぁぁぁああああ……っ!」


「言えよ、金髪の場所」


 女子高校生は左腕を抑えて泣き叫んだ。それを見ても風見の表情は変わらない。


「金髪の情報ならなんでもいい。とにかく知ってることを全部話せ」


「ああああああ……」


 泣き叫ぶだけで、女子高校生は何も話さない。

 風見は女子高校生の胸倉を掴むと、持ち上げて地面に叩きつけた。

 仰向けになった女子高校生に風見は馬乗りになり、一発だけ女子高校生の顔面を殴り飛ばす。


「げふっ……」


「話せよ、おい」


 なにも答えないため、続けて殴る。殴る。殴る。殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る――。


「うっぜえな! 言えっつってんだろ!」


 風見は立ち上がると、折れた左腕ではなく、右腕の方を踏み潰した。


「かふっ……。あ、ぁぁぁああああああああっ!!」


「せめて知らねえなら知らねえとかさあ、なんか言えよ! いい加減めんどくせえんだよ、クソ女!」


 女子高校生を蹴飛ばすと、少し強めに蹴ってしまったらしく、その体は宙を飛んで壁に当たった。

 女子高校生は体を丸めて泣き叫ぶ。それに風見は更に苛立つ。舌打ちをし、今度は腕の一本でも捥いでやろうかと一歩踏み出すと、


「言え、ない……」


「ああ?」


 女子高校生が泣きながらも、口を動かした。


「今なんつった。もっかい言ってみろ」


「言えない……言えないっ!」


 女子高校生はこちらを睨んで怒鳴った。

 それを受けて、風見の苛立ちは頂点に達する。


「それがてめえの遺言だな」


 風見は女子高校生の頭を踏み潰し、窓から捨てた。



 少年は堕ちてしまっていた。

 這い上がることもできないほど深い、深い、闇の底まで。

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