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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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47 自己紹介

 予想外の人物に互いに驚きを隠せない風見と矢野に、山城が目をぱちくりさせる。


「え、なに? 二人とも知り合いなの?」


「ま、まぁ……。小、中と同じ学校だったからな……」


「ほほう、なるほど」


 説明すると山城は納得したように指を弾いた。


「小学校かー、俺は小学校は結構遠かったからなー」


「そうなんですか? 山城さんの高校はこの辺の人しか行かないイメージなんですけど」


 山城の独り言にポニーテールの少女が反応する。


「ああ、受験が近くなった時にいきなり両親が離婚しやがって、オレはじいちゃんちがあったここに来ることにしただけさ」


 受験の時期に両親の離婚が重なるとは、と風見は驚く。それは他の人たちも同じようで、山城にそれを言わせてしまったポニーテールの少女は申し訳なさに視線を彷徨わせていた。


「……あの、すみません」


「いやいや全然大丈夫よ」


「なぁ、バケモン。こっち来る前はどこにいたんだ?」


「誰がバケモンだブタゴリラ! いい加減ブタかゴリラかどっちかにしやがれ!」


「どっちでもねえよ!!」


 きっと落ち込む少女を見て気を利かせ、身体の大きな男は話題を変えたのだろうが、山城がまともに会話するわけがない。風見は呆れ、ため息をつくと、人差し指を山城に向けた。


「いいか山城、ブタゴリラがブタかゴリラなわけねえだろ。ブタゴリラはブタゴリラなんだよ。新種だ」


「てめえ初対面だろうが! ふざけてんのか!」


「なるほど、新種か!!」


「納得してんじゃねえ!!」


 この手の流れには乗りたくなってしまう性分の風見晴人である。悪いなブタゴリラ、と内心で謝罪。

 雰囲気も和んだところで山城を見てみると、何か遠くを見るように目を細めていた。


「……オレの前住んでたとこは、山がいっぱいあるとこだよ」


「ああ? そんなんどこにでもあんだろ。なに言ってんだバケモン」


「……山に囲まれてて、川が流れてた。そこで二人の友達と遊んだ。楽しかったんだ、あの夏休みは」


「は?」


 山城は忘れたことを思い出すように眉を寄せ、しかし思い出せないことに落胆するように笑っていた。身体の大きな男はそんな山城に首をかしげているが、風見はその言葉に何か引っかかりを感じていた。

 その引っかかりの正体に、気付けぬまま。


「……そろそろ、自己紹介をしませんか?」


 話が一応ひと段落したところで、笹野が提案する。隣の矢野も頷いていた。

 山城も「そうだな」と一度目をつむり、再び開いた。そこにはもう、とうに過ぎ去った時を思い出せず悲しそうに笑う男の姿はなかった。


「まぁ、言うまでもないだろうが一応オレから。山城天音だ。能力は――」


 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて自己紹介を始めた山城を軽蔑しながら、風見は山城の能力の内容に耳を傾ける。

 すると、風見の視線に気づいたのか山城はぐいっと顔を近づけて、腕を交差させた。


「――教えなぁーい!」


「死ね。はい次」


「ウソ! ごめん、ウソだから!」


 真顔で流すと、山城に肩を掴まれる。山城の抗議を聞き流しながら風見は考えてみた。


(まぁ、でも、こいつの能力が瞬間移動系なのは大体推測できてるし、ここはスルーでいいだろ)


 結論付け、


「はい、次」


「ええええええ!? オレの能力本当にいいの!? 知らなくていいの!?」


「うっせえ黙ってろ」


 泣きついてくる山城は視界から消し、次の人に意識を向けた。次はポニーテールの女の子だった。


「え、えと……宮里柑奈です。陸上部に入っていたので、皆さんほどではないですが戦えるつもりです。よろしくお願いします」


「なんだこの子、めっちゃいい子だな」


「だろ」


 ポニーテールの女の子、宮里の自己紹介に、風見は最初から思っていた感想を述べる。それは山城も同感のようだった。


「あ、能力は『同類探知』です。ゾンビがどこにいるのかわかります」


「ふむ。戦闘向けじゃないにしろ、汎用性は高そうだな」


 宮里の能力の内容を聞き、風見は顎に人差し指を当てながらその使い道を考える。


「それって、探知したゾンビが誰なのかとかはわからないの?」


「一度会ったことがあるゾンビなら多分分かると思います」


「オーケー、結構使えるね」


 次に金髪のゾンビに出会ったら、その時に確実に息の根を止めるつもりだが、万が一それができなかった場合彼女の力を借りることにしようと風見は考えた。

 そこでバトンタッチ、今度は身体の大きな男だ。


「俺は熊田薫。前から鍛えてるからアンタらバケモンよりやれるはずだぜ」


「なんでこんな得意げなのこのブタゴリラ」


「今まで野生の世界で生きてきたから戦闘に関しちゃベテランなんだろうな」


「だからブタゴリラやめろ!!」


 苛立ったのか、能力を見せびらかしたいのか、熊田はふうと一息つき、落ちていた石を拾う。


「これを見てろ」


「おう」


 眼前に拳大の石を持ち上げ、掌に乗せた。握っているのではなく、開いた手の上に乗せている形だ。

 そして次の瞬間、それはパラパラと砂になって風に消えた。


「これが俺の能力、『粉砕』だ」


「ふーん」


「んだよそのテキトーな返事はよお!!」


「いや実際、共食いしまくりゃ似たようなことできるしな」


「その通りだからなんも言い返せねえよちくしょう!!」


 ブタゴリラはカス、と風見は記憶に書き込んだ。

 次は逆に身体の小さな男。風見はそれを見て思う。


(モブっぽい顔……あ、いやでもよく見りゃショタっぽい……? いや待て制服のせいで男に見えるがこれスカート履いたら割とイケるんじゃないか……?)


 真面目な顔をしながら考えてることは最悪な人間の見本である。


「えっと、佐藤真那斗っていいます。部活は特に入ってなかったし、能力もまだ発現してないのであまり力になれないかもしれません……」


「いや能力が発現してないってのは悪いことだけじゃねえよ?」


「え?」


 どうやら佐藤は能力が発現していないことでメンバーの足を引っ張っていると思っているらしい。しかしそれは違うと風見は知っている。

 気付いたのが金髪のゾンビのおかげなのであまり口外したいものでもないのだが。


「まだ能力が発現してないってことは、言っちまえばどんな能力でも発現するってことなんだよ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、多分な。進化によって能力が生まれるんだから、それを制御しちまえばある程度はコントロールできると思う」


 風見が告げると、それまで申し訳なさそうだった佐藤の顔がぱあっと明るくなった。


「元気が出ました、ありがとうございます!」


 それを見て、風見は確信する。


「……イケるな」


「……だろ」


 横目で山城を見ながら言うと、山城も同じ意見のようで互いにサムズアップ。その様子を見ていた女性三人に侮蔑の色が混じった目で見られながらも、男二人は意見を曲げなかった。

 続く五人目は矢野だった。


「えっと、矢野里美です。小中と一緒だったから言うまでもないかもしれないけど、運動はあまり得意じゃないかな」


「おう」


「能力は『飛燕』、触れた物を飛ばす能力みたい。まだどう使えばいいのかあんまりわかんないんだけど」


 聞いて、風見は視線を落として少し考える。そして思いつくと再び視線を上げ、口に出す。


「空気なら常に触れてるんだし、飛ばせば風を起こせそうだな。あとは危険かもしれんからやめた方がいいだろうが、自分を飛ばすとかな」


「あ、なるほど! この能力、そんな使い方あったんだ!」


 物を飛ばす能力、と聞いてしまうと応用がしづらいように思えるが、パッと思いついてこれなのでしっかり考えればもっと思いつくかもしれない。風見は暇があったら考えてみることにした。

 次は笹野だ。


「笹野麻美子です。山城くんのカウンセラーをしていました。ご存知の通り『人形劇団』の能力者です」


「その能力はぶっちゃけどう応用できんのかよくわからんな。戦場を『舞台セット』とかにしたり、はたまた戦闘を『台本』とかにできたらメチャクチャ強いんだろうけど」


「それは、試してませんね。今度やってみます」


 元々知り合いであったこともあり、これはすぐに終わった。

 最後は風見である。

 風見は自己紹介の前に「さて」と前置きする。


「俺は風見晴人、訳あって今回アンタらに協力を頼みたい」


「協力、とは?」


 宮里がすかさず反応する。風見はそれに小さく頷き、答えた。



「とある男、及びその仲間の全てを、一人残らずぶち殺す」



 その瞬間の、風見の目を見て。

 その場の彼らは目を剥いた。

 笹野は風見の先日からの変貌ぶりに訝しみ。

 矢野はどうして風見がそうしようとしているのかを推察し。

 佐藤は風見の覚悟を感じ取り驚き。

 熊田は先ほどまでの態度とは異なる風見の目に少しだけ認識を改め。

 そして山城は。


「――――」


 少しだけ、悲しそうな顔をしていた。それは、哀れんでいるようにも、落胆しているようにも、幻滅しているようにも見えた。

 こうして、一同は自己紹介を終えた。

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