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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
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番外編3 高月快斗誘拐事件! 前編

 高月快斗が風見晴人に出会ったのは、中学二年の時が初めてであり、そうでない。こんな形で曖昧に言われても困惑するだけだろうが、一言で表現してしまうとこうなってしまうのだ。

 それは十年前の話。

 高月快斗は男に誘拐されたところを『サニーマン』を名乗るヒーローに助けられたのだ。その時は名前を聞きそびれていたし、顔もお面のせいで見ることはできなかったが、中学二年の時に同じクラスで彼を見て確信した。

 『サニーマン』は、風見晴人だったのだと。



 高月快斗は回想した。

 十年前、本物のヒーローに出会った時のことを――。




※※※





 その日は雨だった。

 それもパラパラという程度のものではない。ザアザアという雨だ。

 小学一年生の高月は教室で雨が地に降り注ぐ音を聞いていた。

 雨は嫌いだった。濡れるし、じめじめするし、外で遊べなくなる。両親が働いているため、家で一人でいなければならない。これが暇で仕方ないのだ。

 雨の日はつまらない。良いことがない。だから嫌いだった。

 こんな嫌な日は早く帰ってゲームをするのに限る。高月は小学一年生のため、午前授業なのだ。

 この時間なら妹はまだ保育園だろうし、一人でじっくりゲームをすることができるだろう。

 先生が帰りの学活を始めるのを横目に、高月は何のゲームをしようか考えていた。



 高月の父は、お世辞にも良い父親とは言い難い。毎日のように仕事で疲れている母に当たり散らし、酒だタバコだと喚き散らす。大人とはこういうものなんだと、高月は小学生ながら納得せざるを得なかった。

 一方の母はそんな父には不釣り合いなくらい良い人だ。子どもの高月から見ても美人だと思うし、完璧に家事もこなす。

 高月は最初、完璧になんでもこなしていた母が父に怒られる理由がわからなかった。

 怒られるのは悪いことをしたときだという認識だった高月には、理解ができなかった。だから最近八つ当たり、という言葉を知ってやっと理解した。

 でも、そんな父も一緒にゲームをしているときだけは父親らしいと思えた。

 父は子どもを相手にしても手を抜かない。そういうのを大人気ないと言うのだろうが、高月は父のそんなところが好きだった。認められている気がしたのだ。

 だから高月はゲームは嫌いではなかった。

 上手くなりたい。父を越えたい。そう思えるものだから。



 帰宅途中、高月はそんなことを考えていた。考えていると、家はいつの間にか迫っていた。そこの角を曲がって真っ直ぐ歩けばすぐに高月の家がある。

 まだやるゲームを決めていなかった。無双ゲームも格闘ゲームも父には到底及ばない。今度は狩りゲームにでも挑戦してみよう、と年齢制限を気にせずゲームをやらせてくれる父をありがたいと思いつつ角を曲がり――。


「いたぞ、このガキだ」


「誰にも見られるなよ」


「もたもたすんな、はやく車に詰め込め!」


 ――見知らぬ男三人に誘拐された。





※※※





 口にはガムテープが貼ってある。

 両手両足は縛られていて、身動きできない。

 部屋は六畳ほどだろうか。真っ暗でよくわからないが、扉についている窓から入る微かな光から判断するに、それほど大きな部屋ではないだろう。


(誘拐された)


 高月は、しかし落ち着いたままそれを理解した。

 高月はいつも色々な人に小学生らしくないと言われる。それは小学生にしては頭が冴えすぎているからであろう。

 それは父より受け継がれた聡明な頭だった。

 落ち着いて考える。


(確かあの時誘拐されてから、結構車に揺らされた気がするな。ってことは、ここは家から離れているのかな……?)


 考えながら、移動を始めた。

 いも虫のように地を這って扉に耳を近づけると、微かに声が聞こえる。


「どうだ、繋がったか?」


「まだだ。くそッなんで誰も家にいねえんだよ!」


「落ち着け、一度帰宅してその後出かけたのかもしれねえ。両方とも帰ったくらいの時間にかけた方が……」


「それだとサツを呼ばれちまうよ!」


 テレビドラマなんかで見たような、身代金というやつの要求を電話でしようとしているのだろうか。

 いずれにせよ、そのセリフから大体の時間は推測できた。


(まず、日付は変わっていない)


 それは明らかだろう。「両方とも帰ったくらいの時間にかけた方が……」と「それだとサツを呼ばれちまうよ!」から、分かることだ。

 一度日付が変わってしまったら両親は揃ってしまう。それだと警察を呼ばれる可能性がある。彼らはそれより前に両親に電話をかけなければならないのだから、まだ日が変わったとは考えにくい。


(そして、時間は五時から七時までの間だ)


 これは、「一度帰宅してその後出かけたのかもしれねえ」からの推測だ。誘拐犯がわざわざこんな推測をするのだから、彼らはきっと母が四時に帰宅することは知っていたのだろう。ただ、その後すぐに買い物に出かけて七時まで帰ってこないことは知らなかったみたいだが。


(セリフだけで考えるのは、ここまでが現界みたいだ)


 考えて、高月は次に部屋にあるものを集めることにした。

 とは言っても、手が縛られていてかつ部屋が真っ暗なためできることは限られる。できるのは落ちているものに身体を触れさせてそれがどんなものか推測するくらいか。

 部屋の床全体を撫でるように這い回り、見つけたものは一つ。

 僕のランドセルだ。

 中には筆箱、教科書、ノート、防犯ブザー、家のカギが入っている。何かに使えるだろうか。


(とりあえず拘束を外そう)


 身体を捻ったりしてなんとかランドセルからハサミを取り出すと、手足を縛る紐を切り始めた。子どもだからとそんなに固い紐にはしなかったらしい。案外簡単に切ることができた。

 手足を自由にすると、口のガムテープを外す。チクリという痛みを伴ったが、これで高月自身は自由だ。あとはこの部屋から出るのみ。

 ただそれは躊躇われた。

 まず方法が思い浮かばない。

 そして出られるとも思えない。

 相手は大人三人だ。とても小学一年生一人で相手どれる人数ではない。

 今は待つしかなかった。

 高月は情報を集めるために、扉に耳を当てた。


「なんッなんだよ!?」


 ガシャンと勢いのいい音が聞こえた。おそらく電話を叩きつけた音だろう。相当苛立っているらしい。


「なにが『身代金一千万用意しろぉ? じゃああのガキいらねーわ。お前らにやるよ』だ! ふッざけてんのかあの野郎!」


「あのガキの親父、んなこと言いやがったのか!? クズかよ!」


「おいおいどうすんだよ最悪な展開だぞ……」


(ああ。電話、父さんに繋がったのか)


 高月は父の言った言葉を聞かされながらも、感情を動かすことはしなかった。

 それは父のことを理解していたからであった。

 きっと、父はこう言いたいのだ。

 ――俺とゲームがやりてぇなら、自力で帰ってこい。

 上等だった。

 帰ろうと思う理由としては、十分だった。


(でも、どうする……?)


 肝心なことに、高月には帰る方法がない。ここから出ることができたとしても、誘拐犯たちを振り切れる自信がない。

 悩んでいると、扉の上にある窓からコンコンとノックの音が聞こえた。顔を上げると、窓越しに何者かの手の甲の影が見える。


(誘拐犯なら部屋のカギを持ってるはずだから、ノックをするとは考えづらい。……味方、ととって良いのかな?)


 考え、窓に手を伸ばす。当然ながら届かないので、ランドセルを置いて、それに教科書やノートを重ねると丁度良い踏み台になりそうだった。

 窓に触れると、それは簡単に開けることができた。

 窓の外は誘拐犯のアジトの廊下のはず。これが味方なら、こいつはどうやって入ってきたんだと自問しながら、相手の応答を待った。

 すると開いた窓から、紙切れが入ってきた。微かな光を当ててそれを読むと、こんなことが書いてあった。


『おれはサニーマン。せいぎのみかただ。あんたをたすけにきた。いかにさくせんをしるす』


 平仮名で書いてあった。


「はぁ?」


 思わず声が出た。

 こんな場所にバレずに入ってくる技術を持つ人間が、まさか平仮名の文書を送ってくるか。

 高月が読めるように平仮名で書いたという可能性もないわけではないが、子どもらしい文章から、これを書いたのは子どもだと見て間違いない。

 援軍は子どもだ。


(これ、大丈夫なのか……?)


 高月は、ここにきて初めて自分の身が心配になった。

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