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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
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44 死闘

 轟音に御影や秋瀬は耳を塞ぎ目を閉じた。そして、高月の行方を知るために再びその目を開く。


「全く、油断するな。貴様が死ねばご主人が悲しむだろう」


「あ、ああ。助かった、ジェット」


 高月は金属刀を手放したところをジェットに襟を咥えられながら男から引き離されたおかげで無傷だった。

 しかし金属刀は男に渡ってしまっている。武器がない状況で電気を操る敵に立ち向かうなど愚の骨頂。なんとかして武器を手に入れなければならないわけだが。


「俺の金属バットで戦うのも、厳しそうだよな……」


 永井が呟きながら、高月とジェットの元へジリジリと歩いていった。

 そして高月とジェットの元へたどり着くと、永井は男に聞こえないように小声で作戦会議を始める。


「……試したいことがあるんだが、乗ってくれるか?」


「試したいことですか?」


「ああ」


「小僧、なにをする気だ?」


 ジェットに言われ、永井は考えを整理するように一度瞑目し、そして述べた。


「あいつが、電気を二度同時に発動できるのかを試したい」


「――なるほど」


 同時に一箇所しか攻撃できないのであれば、確かに勝算はある。こちらは戦闘員が三人いるのだ。

 一度に一箇所しか狙えないのなら、なんとか数で押せるはず。

 永井の考えに高月もジェットも口角を上げる。絶望的と思われた状況を打開できる可能性があるのなら、試すべきだ。


「……では、囮は僕が引き受けます」


 高月が手を上げる。


「いいのか?」


「僕は一度やつの電撃をかわしている。もう一度だって、できるはずです」


「わかった、頼むぜ」


 言うと、高月を先頭にして後ろに永井とジェットと、三角形のような形に並んだ。


「「「――いくぞ!!」」」


 掛け声は、三人重なった。

 最初に駆け出すは、囮の高月。後ろでジェットと永井は待機する。

 高月は男に向けて全力で駆けた。

 それは、はたから見ればチキンレースのように見えた。

 電撃を放つタイミングを待って、待って、待ちながら足を運ぶ。

 グンと近づく男と高月との距離。

 そして――。


(――来たッ!!)


 高月が、横へと避けた。

 瞬間、その空間を雷が焼く。

 だが同時にジェットは動いていた。

 この場で最も速いジェットが、そしてその爪が、男に届こうとしていた。

 ――だが、その爪は届かなかった。

 男は、手に持っていた金属刀でジェットを迎撃したのだ。

 そう、男は永井が睨んだ通り同時に雷を二箇所へ出現させることはできない。しかし、雷を出現させながら自分が行動することはできた。

 だから敢えて、相手の手の平におどらされたフリをしたのだ。

 男は気づいていた。永井が男の能力の弱点と呼べる部分に気づいたことに。

 そして高月を囮に使いジェットで一撃必殺を狙おうとしていることに。

 ――ただ。



「なめるなぁぁぁあああああ!!」



 永井までが走ってくるとはさすがに思っていなかった。

 男は急速に頭を回転させる。

 金属刀はジェットを迎撃するために振り切っている。もうこの姿勢からさらに永井を迎撃することはできないだろう。


(……だったら能力で潰せばいい)


 男は電撃を発動させる。

 高月を狙った電撃はすでに消失しているため、再び放てるのだ。

 高月やジェットと違って、永井の速度は常人よりわずかに速い程度。電撃をかわすことなど不可能。

 男は、勝ちを確信した。

 そんな男に対して、永井は手に持っていたバットを投げるだけだった。

 永井には高月やジェットのような力はない。だが、彼らよりも一歩先を行く知恵があった。

 男が電撃を放つ。何故かバットを――武器を手放した永井を変に思いながら。

 そして、気づいた。


(……しまった……こいつがバットを投げたのは――)


 男の放った電撃は、永井の投げたバットに当たった。

 そして電撃の進行はそこで止まる。それ以上先を焼くことはない。

 ――永井を、焼くことはない。

 隙ができた。

 高月の進行を防ぎ、ジェットの攻撃すら食い止めた鉄壁の男に、隙ができた。

 その隙を、永井が逃すわけがない。


「おおおおおおおおおおおっ!!」


 永井は踏み込む。

 武器はない。

 力はない。

 男を倒せるとも思っていない。

 だが、永井には勇気があった。

 だからその拳は男の顔面にヒットしたのだ。

 男の体勢が揺らぐ。その隙を狙って金属刀を持つ手を蹴飛ばした。

 元より永井の拳程度でこの男を倒せるはずもない。

 永井は道を作った。男に勝つための道を作った。それしかできなかったのだ。

 永井が男の手を蹴飛ばしたことで、金属刀が手から離れる。それは男の真上を舞っていた。


「高月ィィィ――――――――ッッ!!」


「わかってます!!」


 宙を舞う金属刀を、高月が掴んだ。

 先ほど、高月が金属刀を男の頭部に叩きつけたときはなんというダメージも与えられなかった。

 だがそれは高月の水平に振る力だけで男を狙ったからだ。

 今、高月は男の真上にいる。

 体勢が揺らぎ、倒れそうになっている男の真上にいる。

 そこから全体重をかけて突き下ろしたらどうなるかは、言うまでもないだろう。


「当たれ!!」


 直後。

 倒れそうになる男の喉に、金属刀が突き刺さった。





※※※





 静寂だった。

 唖然とする秋瀬と御影。

 倒れながらも身体を起こし、結果を見るジェット。

 手応えを感じ、拳を握る永井。

 金属刀を握り、突き刺した感触を確かめる高月。

 全員の視線は、倒れる男へと集まっていた。

 だからか、その女に誰も気付けなかった。


「あーあ、やられちゃったのね」


 女は高月の真後ろにいた。

 そこにいるのに、誰も気付けなかった。

 黒髪のショート。夏らしい服装。優しそうでありながら、どこか妖艶な雰囲気を醸し出す表情。

 そんな女の声を聞いて、高月永井ジェットの三人はすぐに距離を取る。


「そーんな怖い顔しなくても、すぐに坊やたちを襲ったりしないわよ」


 優しそうな声色でそう語りながら、倒れる男のそばに屈み、頬に手を添えた。

 それだけで。


「……は?」


 男は、蘇った。


「……ここは」


「わかる? 貴方は負けたの」


 優しそうに微笑んで。


「だから帰ってリーダーにこってりしぼられなさい」


 そのセリフの直後には、すでに男はそこにいなかった。

 その一部始終を見て、彼らは思った。

 ――まるで神のようだ、と。


「さて」


 女がこちらへ意識を向ける。

 誰も動けなかった。動けるわけがなかった。

 この女は危険だと、本能が訴えているから。


「貴方たちは私の大切な仲間を一回殺しちゃったわけだから、やっぱり仕留めるべきなのかしらね」


 言葉の意味はわかる。

 だが理解が追いつかない。

 仕留めるとはなにか。それをされるとどうなってしまうのか。死ぬのか、死なないのか。奴隷のようにされるのか、どこか暗い場所に一生監禁されるのか。死ぬこともできずにただ苦痛を感じ続けるのか、はたまた殺して蘇らせて殺して蘇らせて殺し続けるのか。

 先が全く想像できなかった。

 歯の根が合わない。

 全身が震える。

 血の気が引く。

 恐怖しか感じず、絶望しか考えられない。

 目の前の超常の存在には絶対に勝てないことを、考えるまでもなく実感していた。

 そんなとき、ふと我に帰る。

 音が聞こえたのだ。

 音は上から聞こえる。


「あら?」


 女も上を見ていた。

 彼らも恐る恐る、音の正体を確認する。

 そこには一機のヘリが飛んでいた。一般人から見ても自衛隊が使ってそうだな、と思うようなヘリだった。

 そこから、一人の少年が飛び降りる。

 ダンッ!! と地面を砕きながら着地するところを見るに、少年はゾンビのアイテムによる強化がしてあるか、ゾンビであるのかのどちらかだろう。


「よぉ」


 少年は楽しそうに女を見た。

 年齢は高月と同年代に見えるが、戦闘能力には圧倒的な差があるとわかる。

 しかし見る限り少年は武器を持っていなかった。

 強いて言うなら、手につけた手袋のみ。

 それで、この女にどう対抗するというのか。



 少年と女はしばらく視線をかわし、互いに無言で笑っていた。

 口を開いたのは女が先だった。


「まぁ、今日はやめておくわ。またにしましょう」


「あ、逃げんのか? そりゃ、雑魚がする行動だぜ」


「ふふ、ならそれでもいいわ。私は貴方と戦うのを楽しみにしておくけど」


「おもしれえ。次会ったら、そん時こそ潰してやるぜ」


 少年がどれほど強いのかはわからないが、女は高月たちを仕留めることなく立ち去るようだ。

 それに安堵し、胸を撫でようとしたところで、彼らにも声がかかった。


「貴方たちはいずれ仕留めるわ。覚えておいて」


 女は、彼らに最大の恐怖を刻みつけて去っていった。



 以前、自衛隊は『壁』を作るために国民のためには動けないと高月たちは聞いた。

 しかし空を飛ぶヘリはおそらく自衛隊のもの。

 それが意味するのは一つの事実。


 ――東京に『壁』が、完成した。

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