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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
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40 電撃

 息を切らしながら走っていた。

 総合スーパーを飛び出し、死体まみれの商店街を見て、そしてここにきた。

 交差点。

 そこに、高坂はいた。


「おい、高坂ッ!」


 呼びながらそこまで行くと、高坂はこちらを振り向く。


「かざ、み……」


 弱々しい声でこちらを振り向いた彼女の顔を見て、俺は嫌な予感がした。

 高坂の側には二人の男女がいる。

 遠目から見れば彼らは高坂を助けてくれた味方に見えた。

 しかし今はどうだ。

 高坂の顔を見ろ。あんな、全てに絶望したような顔を見て、まだそんな風に考えられるか。

 高坂の声で、二人の男女もこちらを向く。金髪の男の方が、俺に話しかけてきた。


「あん? アンタこの女の彼氏かなんかかァ?」


「……高坂は、俺の仲間だ」


「へー、そォかそォか」


 男は笑う。

 しかし俺にはそれが『仲間同士の再開を喜んだ笑み』には見えなかった。

 もっと、歪んだ何か。

 例えば、これから狩る小動物でも見ているような、嗤い。

 俺にはそういう風に見えた。


「アンタは高坂を助けてくれたのか?」


「いーや、助けちゃいねェな」


 金髪は笑みを崩さない。それどころか、会話をするたびにその頬が吊りあがっていく。


「まぁいい。とりあえず、高坂を渡してもらっていいか」


「おー全然いいぜェ」


 そう言って金髪は高坂に俺のところへ行くように顎でしゃくる。

 しかし高坂は動かなかった。

 それどころか。


「この男に……」


「あ?」


「この男に、関わっちゃダメぇ!」


 俺にそう叫んできた。

 金髪が普通の人間でないのは見当がつくが、そこまで言うものかと一瞬思った。

 しかし俺は見てしまった。

 涙をこぼしながら叫ぶ彼女の首に、何かに噛まれたような傷があるのを。

 ハッと男女を見てみると、女の方の口元には血がついていた。


「……アンタら、何をした」


「くく……」


「答えろ!! 高坂に何をした!!」


「あーはははははははァッ!!」


 これを待っていたとでも言わんばかりに笑いだす金髪の男を見て俺は確信する。

 こいつらが、高坂をゾンビにした。


「テメェ……ッ!!」


「はっはっは、悪いなー彼氏くゥん。もー大事な彼女を抱くこともできなくなっちまったなァ!!」


 殺す。

 その瞬間、俺は決断した。


「――あ?」


「消えろ、クズが」


 一瞬。

 一瞬で距離を詰めた俺は、男の顔面に全力で拳を叩き込んだ。

 反応の遅れた男は受身も取れずに近くの民家に吹き飛ばされた。


「ちょっ!? 何こいつぅ☆」


 女の方が何かを言っているが、まず殺すべきは男の方だ。


 なぜなら、男は俺の全力の拳を受けて生きているのだから。



「ってーなァちくしょー」


 家を崩しながら出てきた男は、先ほどまでの吊りあがった瞳とは違う、『殺す者』の目をしていた。

 一方的に狩る小動物としてではなく。

 俺を、殺すべき敵として再認識したのだ。


「何モンだテメー。めちゃくちゃつえーじゃねェかオイ」


 その問いに対し、俺は殺意を宿した瞳で睨み返す。


「俺は風見晴人。高坂の仲間だ」


「面白ェ。ぶっ潰して、喰い尽くしてやるよォ!!」


 それが合図だった。

 次の瞬間、俺と男は同時に動いた。

 男はゾンビ。それも強さは俺と同じか上。おそらく先ほど戦った巨人よりも強い。

 だが、俺も巨人を食って強くなった。渡り合うのは容易。

 そう思っていた。


「今度はこっちの番だークソガキ」


 男に軽く肩を触られた。その瞬間、俺の身体は文字通り焼かれた。


「がッ、アァ!?」


 轟音と衝撃。そして光。

 それを感じた時には、俺は反対側の民家に吹き飛ばされていた。

 なんだ、今のは。

 痺れる身体を無理に動かし立ち上がる。


「オイオイ、まさかあんなつえーパンチを披露しておいてこの程度かァ?」


 男は楽しそうに掌を揺らす。

 互角? 冗談。俺とこの男とでは、レベルが違う。

 能力。

 男の攻撃は、明らかにそれだった。

 男が操るのは、おそらく電気。

 光、衝撃、轟音、痺れ。それらを総合して思い浮かぶのはそれだけだ。

 俺が一撃でダウンしなかったのはきっと、ゾンビだからだろう。心臓もすでに止まっている。

 しかしそう何度も耐えられるほど優しいものではない。


「なんだそれ、勝てんのかよ……」


 俺は歯噛みする。

 俺は無能力。今まで、力だけで能力者と戦ってきた。

 今回はそれが通用しない。

 男の力は明らかに俺と互角。それに加え電気を操る能力をもっているというのだから、俺に勝ち目はない。

 逃げるしかないのか。

 確かに戦う必要はない。今すぐに高坂を連れて逃げてしまえば、二人ともに生き残れるかもしれない。

 だけど。


「こいつだけはッ……!! 高坂を泣かしたこいつだけは、殺さなきゃ気がすまねえ!!」


「そーこなくっちゃなァ!!」


 俺は、回り込むように走った。

 対する男は掌で電気を弄びながら一本踏み込む。

 その視線を交わしながら、俺は思考する。

 電気を操るとは言っても、どこかの電気ねずみのように十万ボルトを飛ばしてきたりはしないはず。そんなに簡単に当てられるものではないと思う。

 現に、先ほどもわざわざ俺に触れた。

 触れた手で、スタンガンのように電気を流したのだ。

 であれば、単純な話、男の手に触れないように立ち回れば電撃は回避できる。

 目の前に踏み込んだ俺に、男は電気を帯びた手を伸ばす。

 これを待っていた。

 俺は右足を内股ぎみに捻って出し、そのまま男の手首に軽く手を添えながら回って男を受け流す。

 男が目を見開く。その顔面を殴った。

 しかし、飛ばさない。

 家の方へ飛ばないようにその胸ぐらを掴み、さらに殴る。


「かっ、ぶはァ……ッ! クソガキがッ、チョーシに乗ってんじゃねェぞッ!!」


 さらに殴ろうとした俺の手を男が掴もうとしてきたので、手を放す。

 直後、側頭部に衝撃が走った。

 蹴られたのだと理解するのに一秒の間が必要だった。


「クッソー、なんなんだよあのガキ。『疾風迅雷』だけじゃー厳しそうじゃねェか。『理解者』でも使うかァ……?」


 瓦礫を退かし、立ち上がると男が何かをつぶやいているのが目に入る。

 疾風迅雷……? 理解者?

 おそらく能力名だろう。疾風迅雷は先ほどの電気を操った能力だとして、では理解者は女の方のものか。

 二対一ではさすがに厳しい。逃げることも考えなければならないか。

 俺は男の出方を伺ってみるが、女が戦闘に出てくる気配はない。

 それどこか、男はまた頬を吊り上げた。

 それが癇に障った。

 気がつけば俺は真っ直ぐ突っ込んでしまっていた。

 しまった。そう思ったときには遅かった。

 男は俺の拳が通る場所を理解しているかのように身をひねると、通り過ぎた俺の服を掴んで地面に叩きつけた。


「よー、さっきは散々ナメたことしやがったなァガキ」


 言いながら俺を踏みつけた。


「ぐっ……」


「消えろクズとかって言ってなかったか? ナメんなクソが」


 幾度か踏みつけられ、泥に汚れた俺の首を掴み持ち上げると。


「そっくり返してやる。消えろ、クズ」


 そして。

 俺の身体に、再び電撃が走った。

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