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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
37/125

35 彼と彼女は、こうして出会う。

 ウチの親はいわゆる転勤族というやつだった。そのせいで何度か転校を繰り返すことがあったウチは、中学二年生のその日、その学校に転校した。

 不安はなかった。友達を作るのにはもう慣れていた。クラスの上下関係を瞬時に判断し、そこに適応する。そんな単純作業を繰り返すだけなのだから。



 だからこの時のウチは、まさかそこで好きな人ができるなど、微塵も思っていなかった。





※※※





「高坂流花です。よろしくお願いします!」


 ウチはとりあえず元気にそう挨拶する。同時にクラスを一瞥し、クラスの上下関係を判断する。


「それじゃ、高坂さんはあそこの風見くんの隣に座って下さい」


「あ、はーい」


 誰がクラスのトップで誰が一番下かがわかったところで、先生に席に座るよう促される。

 ウチは席に座ると、「よろしくー」と風見という男の子に言う。風見はこちらを向いて頭を下げただけだった。

 こいつ、どう見てもぼっちだ。クラス最底辺だ。誰からも相手されてないやつだ。

 先生がホームルームで話している間ウチは風見を眺めていた。見てて面白いわこの子。

 すると彼は視線に居心地を悪そうに眉を顰め、本を読みだした。表紙にはピンク色のツインテールで、萌え系と言うのだろうか、女の子のイラストが描いてある。ライトノベルというやつだ。

 笑いが抑えきれず、口元を手で隠す。せめてそういうの読むならカバーでイラスト隠そうよ。ぼっちでオタクとか、最悪のコンボじゃん。

 そこでホームルームは終わったらしく、ウチの周りに人だかりができ始めていた。

 その中でウチに最初に声をかけてきた男はなんと、かなりのイケメンだった。


「ええと、高坂さん……だったかな。僕は高月快斗。一応、このクラスのクラス委員をやってる」


 イケメンは名乗ると、爽やかに微笑んだ。

 マジですか。こんなパーフェクトイケメンがこの世に存在するんすか。


「えっと、高坂流花です。よろしくっ!」


 ウチも女子だ。イケメンを見ると少しテンションが上がる。饒舌にもなりますよ。ええ、女子ですもん。

 この爽やかイケメン。間違いなくクラスのトップだろう。イケメンでコミュ力高くて頭良さそうだしスポーツもできそうだもん。経験則だけど、コミュ力が高い人は大体クラスのトップです。

 高月くんの次に前に出てきたのは、これまたクラスの中心っぽい女子。この子はそこまで可愛くもないが、代わりに髪型だとかすごくオシャレだ。これもクラストップになる要因だろう。


「アタシ、羽川早苗ね。よろー」


「よろしくー」


 その後も自己紹介をし合い、ウチはいつも通りクラスに溶け込んだ。




 その日、学校の後に高月くんや羽川さんたちクラスのトップグループとカラオケに行った。そのせいで帰りが遅くなった。

 みんなとは別れて、今は一人で歩いている。こちらの方向に家がある人はあまりいないらしく、ウチは毎日一人で帰ることになるらしい。せっかく友達作ったのに。


「いやー、でも今日は楽しかったな。初日からこんなに楽しい学校ってあまりないし、よかったぁ」


 思わず独り言が漏れる。それくらい楽しかったのだから仕方ない。とりあえず周りの人間に聞かれていないか確認し、胸を撫でる。

 しかし視界の隅に人影が見えて、ウチは思わず顔を上げた。

 そこには、前方にある書店から出てきたらしき風見がいた。


「…………」


「…………」


 目が合い、両者は無言になる。

 必然的と言うべきか、先に切り出したのはウチだった。


「……聞いてた?」


 羞恥に赤くなった頬を隠すためにうつむきながら風見に聞く。


「……そりゃあな」


「むわぁぁぁああああんっ! 最悪ぅぅぅううううううううっ!」


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいッ! さすがにこれは恥ずかしいよッ! しかも、よりにもよって、なんでこいつに聞かれなきゃならないのよッ!

 様々な思いが込み上げ地団駄を踏むウチを、風見が危ない人を見るような目で見る。


「……それじゃ、俺帰るから」


 聞き取れるギリギリくらいの声でそう言い、風見はウチに背を向ける。

 その風見をウチは止めた。


「ちょっと待ちなさい待ってよ待って下さい」


「……なに」


 不機嫌そうに目だけこちらに向ける風見に、ウチは言った。


「このことは絶対に他言しないで」


「するわけないだろ」


「したらアンタがオタクなのバラすから」


「勝手にしてくれ……」


 風見はため息をつきながら、再び背を向けると、歩き出した。

 ウチは小走りで風見に寄ると、並んで歩く。風見は予想通り嫌そうな顔をした。これを見たかったんですよねぇ!


「……まだなんかあんの?」


「うふふ、方向一緒だから一緒に帰ろうと思って」


「アンタ性格悪ぃな……」


「アンタも大概でしょ。あとウチは高坂流花ね」


「あっそ……」


 嫌味ったらしい笑みを貼り付け自己紹介をするも、軽くスルーされる。おのれ、コミュ症め。

 話題がなくなった。やっぱ話しづらいわ。でも相手がこいつだと、不思議と無言で歩いてても不快じゃない。

 やがてウチは、こう切り出した。


「ね、ウチら家の方向一緒でしょ?」


「は? ……そうだな」


「明日から一緒に帰ろうよ」


「断る」


「はぁ!?」


 OKされると思ってたが、ダメでした。なんでだし。ぼっちに断る権利なんてないはずよ。


「こっちの方向、あんまり人がいないらしいからいいじゃんかー」


「アンタなぁ。こっちは初対面だぞ。グイグイ来すぎ」


「あ、それは……ゴメン」


 学校で風見のオタクぼっちな姿を見て、心の中で一人笑ってたからたくさん話した気になってました。

 誰でもノリよくコミュニケーションが取れるわけではない、ということは分かっていたはずだったが、なぜか失念していた。話す側はともかく、聞く側としてはグイグイ来られれば不快だろう。

 そんなウチに風見はぶっきらぼうに言葉を投げかけた。


「……いや、謝るほどのことじゃない」


「プッ、なにそれ? 優しさ?」


「ホンット性格悪ぃ……」


 少しだけ嬉しくて、照れ隠しに悪態をつく。

 再びの沈黙。もちろん不快ではない。

 沈黙のまましばらく歩いていると、Y字路が見えてきた。そこで珍しく風見から切り出した。


「アンタ、どっちだ?」


「ウチは左だけど」


「俺は右だ」


 左に行けばすぐのところに自宅はあるが、さすがにそこまで一緒ではなかったか。

 風見と別れるとなると、なぜか少し寂しかった。無言で隣を歩くことに居心地の良さを感じていたからだろう。

 そんなウチの心を読んだように、風見はガシガシと頭を掻きため息をつきながら言う。


「……時間が時間だ。仕方ねえから家まで送ってやるよ」


「ツンデレさんかな?」


「やめた」


「わーっ、ゴメンゴメン! ゴメンって!」


 これでちゃんと家まで送ってくれるあたり優しい。ぼっちなくせにちょっと紳士。ときめいちゃうっ! 嘘だけど。

 そんなことを考えている間に自宅に着いた。アパートである。


「ここまででいいよ、ありがと!」


「おう」


 ぶっきらぼうに返すと、風見はウチに背を向け歩き出す。

 その背に、ウチは声をかけた。


「また、明日ね」


 風見の足が止まる。

 ウチは言葉を待った。

 風見が言葉を考える間が。

 ウチがその言葉を待つ間が。

 一瞬だったのだろうが、その間が永遠のように長く感じた。

 なにを言おうとしたのか、風見は肩を落とした。

 その様を見てウチは笑いそうになる。

 そして、やっと、こちらへ振り返った風見は言葉を紡いだ。


「あぁ、またな」


 ――この学校は、楽しくなる。

 この瞬間、ウチはそれを確信した。

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