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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
35/125

33 好きだという想いに背を向けるな

 巨人の剛腕をなんとか避けつつ接近を試みるものの、なかなか近づけない。

 ゾンビは基本的に頭を吹っ飛ばせば死ぬ。

 それは俺や目の前の巨人のような進化したゾンビにも当てはまるはず。

 だから頭を狙いたいのだが、この巨人、頭だけはなぜか小さい。

 そのためこちらの攻撃は当たらず、ただただ傷が増えていく一方だった。


「こっの、大人しくしやがれッ!」


 頭を蹴飛ばすために飛び上がった俺に向けて放たれた巨人の拳を掴み、それを頭にめがけて投げ飛ばした。

 巨人は自分の拳が頭に当たるのを防ぐために無理に腕を動かしたため、体勢を崩した。


「っしゃあ!」


 言いながら着地すると、再び飛び上がり、仰向けに倒れる巨人の頭の真上まできた。

 そこでどこぞのライダーキックのように右足で巨人を踏みつぶそうとする。

 しかし巨人はその首を振ることによって俺の踏みつけを避けた。

 巨人は同時に両手を地面につけ、体をひねり、跳ね上がるように起きる。

 俺はとりあえず距離をとる。


「……クソ、このままいったら体力の差で俺が負けるぞ。どうする、どうする……?」


 さすがに俺のスピードについてくるような化け物を置いて逃げるわけにはいかない。逃げた俺を追ってきたら高坂が危険だ。

 やはり、こいつはここで倒すほかない。

 考えていたせいで、巨人の攻撃への対応が遅れた。


「がっはッッ!?」


 背から壁に激突し、肺の中の空気が一気に吐き出される。

 何か手はないか。

 巨人にはその巨躯以外に『能力』は見られない。知能があるようにも見えない。つまり、考えることができる俺にもまだ勝算があるはずなのだ。

 両者の武器をまとめろ。

 巨人は大きさとスピード。

 俺は知能とスピード、だ。

 両者のスピードが同レベルなら、勝敗を分かつのはもう一つの武器。

 大きさか、知能か。

 こりゃワンチャンあんな。


「戦いながら考えるとか無理なんだけど!」


 同時。踏み込み、戦闘を再開した。

 とりあえず、狙いを頭に絞ると迎撃されるので、足から狙っていこう。

 片足を折って巨体を倒した後、身動きのできないところをぶっ殺す。よっしゃあ完璧。

 とても作戦とは呼べないような作戦を決めると、迫る剛腕を避け、さらに一歩踏み込む。

 拳がすぐ横を通過したことで生まれた暴風に吹き飛ばされそうになりながらも、耐えて地を蹴る。

 狙いは一つ。


「倒れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」


 その全力のひと蹴りは、巨人の足へと叩き込まれた。

 バッガァァァン! と音を立てるも、骨を折るにはまだ一歩足りない。

 俺は一度着地し、後ろに回り込むと、追撃を与えた。

 しかし、


「折れ、ねぇ!?」


 何度巨人に攻撃を加えたところで、その足が折れることはなかった。

 呆然とする俺に巨人は裏拳を食らわす。

 空を切る速度で壁に叩きつけられた俺には、再び立ち上がる気にもならず崩れた壁に身を預けた。

 いかんせん足が太すぎるのだ。

 骨をへし折りたくとも、太すぎて上手くいかない。


「反則だろ、いやマジで」


 特徴的な能力のない敵がこれほどまでに強敵とは思わなかった。

 今まで、なんでも斬るゾンビや再生するゾンビ、ドラゴンやゾンビを操るゾンビと様々能力持ちゾンビと戦ってきたが、ここまで活路が見いだせない敵がいただろうか。

 ただデカイだけ、それがここまで厄介だとは。

 勝てる気がしないとは言わない。

 頭さえ吹っ飛ばせれば終わる勝負なのだから。

 ただ、勝つのがとても難しい相手だ。

 この敵は、強い。





※※※





「……………………はぁ?」


 場の雰囲気に合わない素っ頓狂な声が出た。

 おそらくウチは今、人生史上最高にキョトンとしている。元々丸い目が多分もっと丸くなってる!

 それも仕方ないだろう。

 だって今ウチ、人生で初めて求婚されたんですもん!!


「あーん? 聞こえなかったかァ? 俺の嫁にならねーかってェ言ったんだが」


「わかりますわかります!! わかりますけどわけわかんないです!!」


 いきなりだ。初対面で名前も知らない関係でいきなり求婚されたのだ。

 驚愕と困惑と疑問しかない。どうしたこのDQN、みたいな。


「あー、なるほどなァ。確かにいきなりじゃー色々困るわな。よーし分かった。ちょっと説明するわ」


 金髪DQNはそう言うと、自身のくすんだ金髪をガシガシと掻いた。


「アンタ、俺がゾンビだってーのは分かってんなァ? けどよー、俺自身ゾンビになったつもりはねェんだ」


 なるほど、理解できる。

 要はゾンビになったことを認めたくないと言うことだ。

 理解できるが、それがウチへの求婚にどう繋がると言うのか。


「つまり俺がゾンビじゃーねェ証明の一環として、普通の人間の嫁を側に置いとこうってェわけだ」


 意味わかんねーですわ。

 なんすかそれ、嫁は道具っすか。そう言う考え方があるのはわかる。男尊女卑なんて言葉があるくらいですし。

 でもそれはねーっすわ。金髪DQNへの好感度、ただでさえ低いものがさらに下降しましたぜ。女は甘くねーんすよ。

 心の中の喋り方がおかしくなったが、とにかくウチはイラっとした。

 自分の豆腐メンタルを傷つかないようにするために嫁を『使おう』だなんて言語道断。頭の中お花畑と言われようが、夫婦仲良しこそウチの理想なのだ。それで、できれば夫は風見がいいです。

 だからこんなDQNと結婚など断固拒否だ。そのうちDVとかされそうだし。


「そーんなわけで、俺の嫁になってくれや」


「すみません。ウチ、好きな人がいるのでお断りします」


 言うと、金髪DQNの目が細まった。

 瞬間。


「――へェ」


 遅れて聞こえた雷鳴と共に、ウチのすぐそばの地面が消し飛んだ。


「――ぇ」


 かすれた声が漏れる。


「うーん、音は抑えたつもりだったんだァけど。やーっぱ他人の能力は慣れねェな」


 手のひらの上でバチバチと電気を操りながら、軽い調子で目の前の男は続けた。


「アンタに拒否権、あると思ってたのかァ?」


 ああ、おしまいだ。

 ウチは膝を震わせながら、そう思った。


「もーいっかい訊くぜェ」


 金髪DQNは不気味に歪んだ笑みを顔に貼り付け、


「俺の嫁にならねェか?」


 泣きそうになった。

 足の震えは止まらないし、気を抜いたら今ここでお花摘むことになりそうだし、座り込んで泣きたい。

 どうしてこうなった。

 ウチは巨人から逃げていたはずだ。

 それがなぜ、巨人以上の強敵と遭遇するハメになるのか。

 怖い。

 きっとこの怪物は風見と同じくらい強いから。

 怖い。

 まともな自衛手段を持ち合わせていないウチに、目の前の怪物と戦うことなど到底出来っこないから。

 怖い。

 風見への想いに背を向け、今すぐにでも「なります」と言ってしまいそうだから。

 それでも。

 ウチは、風見が好きだ。

 その気持ちに背を向けようとは思わない。


「う、ウチは好きな人がいるんです! だから無理です!!」


 言ってしまった。

 殺されるだろうと思い、目を瞑る。

 しかし、雷撃がウチを消し炭にすることはなかった。


「おもしれーなアンタ。そんだけビビってて拒否とか、よっぽどその男のことが好きなのなァ」


 金髪の怪物は、楽しそうに笑う。


「じゃーさ、鬼ごっこしよォや。アンタはなにを使ってもいーから逃げる。逆に俺は能力を使わねーし、常人レベルのスピードで走る。こんなルールでよォ」


 笑う。


「アンタが逃げ切ったら俺は今後一切アンタに手ー出さねェ」


 好奇心旺盛な子どもがおもちゃを手にしたときのように。


「俺が捕まえたらアンタはその時点で俺の嫁」


 腹をすかした獣が無防備な獲物を見つけたときのように。


「さー、はじめよォぜ」


 獰猛な笑みを浮かべ、


「リアル鬼ごっこをよォ」


 笑った。

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