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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
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29 優しい人間の裏の顔

 俺、梶尾夏樹は朝に強い。本日七月二十九日も朝四時に起床した。

 コンビニで適当に賞味期限がセーフのものを食べ、お茶を持って外に出ると、軽く体操した。


「ふ、あぁぁ……。さて、日課の周辺観察を行いますかっと」


 俺は日課として、朝起きて体操をしたら先輩が持ってきていた双眼鏡でコンビニが見えなくなるくらいの距離のビルの屋上から周辺を観察することにしている。ちなみにこのビルに誰もいないのは確認済みで、いちいち入り口にバリケードを作っているため、ゾンビが入っているということもない。

 屋上に登ると、双眼鏡を取り出してとりあえず正面を見てみた。


「うっそだろぉ……」


 この双眼鏡は結構遠くまで見ることができるらしく、重宝していたのだが、遠くまで見ることができるということはつまり、


「大量のゾンビがこっちに向かってきてやがる……」


 見たくないものも、早めに見れてしまうということだ。


「どうするか……。今からあいつら起こして一緒に逃げるか……?」


 考えて、首を振った。


「ふざけんな、たった一日過ごしただけの仲だぞ。そこまでする義理はねぇよ」


 立ち上がり、ビルを降りた。

 逃げる準備をするために、コンビニへ戻る。

 コンビニに入ると、当然ハルトと高坂の二人は無防備に寝ている。

 再び起こすべきか迷い、やめた。

 昨日コンビニで二人と一緒に過ごしたのはただの気分だと自分に言い聞かせて逃げる準備を進める。

 元々、俺はこういう人間なのだ。

 自分に危機が迫ったらどんな人間でもすぐに切り捨てる。

 この四日間、そうしてきた。

 親も、バイト仲間も、幼馴染も。

 全部切り捨てて、ここまできたのだ。

 今更見ず知らずの男女二人くらい、なんということもない。

 リュックに食料を詰め終え、必需品も大体持ったところで、もう一度だけ、二人を見た。

 こんな世界なのに幸せそうな顔で寝る体操着のハルト。そのハルトに片思いしてるらしい高坂。

 高坂を見てると、自分が切り捨てた幼馴染のことを思い出してしまうのだ。



 七月二十六日。

 ゾンビが現れた次の日。

 俺はコンビニのバイト仲間にそれぞれ自宅から使えそうなものを持ってくるのはどうかと提案し、自分以外をコンビニの外へと出した後、わざとコンビニの周りにゾンビを集め、自宅から戻ってきたバイト仲間を食わせていた。

 それによって寝袋も、双眼鏡も、色々なものが手に入った。

 仕方ないと。

 生きるために仕方ないと。

 自分に言い訳して、俺はその日初めて人を殺した。

 一度それをやってしまえば理性が再びそれを止めることはなくなる。

 俺は助けを求めてコンビニに来た人間を次々に殺し、持っているものを奪って過ごした。

 そんなとき、なぜか幼馴染の少女が俺のコンビニの前まできた。

 しかし彼女はゾンビを連れてきていた。

 だから俺は彼女がコンビニに入ろうとするのを妨害し、少女を追ってきたゾンビに食わせようと思った。


「ずっと前から好きでした」


 そう、彼女の口が動くまでは。

 すでにゾンビは彼女に追いつき、彼女を食おうとしている。

 俺は持っていたモップを手に取り、無我夢中で彼女を囲むゾンビを殺した。

 しかし俺が動いたのは遅すぎた。

 彼女は俺が動いたときにはすでに、ゾンビに噛まれていたのだ。

 俺は彼女を殺し、泣いた。

 泣いて、泣いて、泣いた。

 俺はそうして気づいたのだ。

 彼女がわざわざこのコンビニに来た理由に。

 彼女は、ゾンビに食われる前に、俺に告白したかったのだ。

 だからわざわざ俺のバイト先まで来た。

 たった一言、「ずっと前から好きでした」と。

 それだけを、言うために。



「クソッ」


 過去を思い出し、腹が立った。

 こんなところ、さっさとおさらばしてやる。

 俺は外へ出て、ビルの方向へ向かった。その方向には確か総合スーパーがあったはずだ。


「とりあえずそこを目指すか」


 ビルを過ぎ、しばらく歩き、コンビニも見えなくなった辺りで、俺はパトカーを見つけた。


「おお、銃とかあるんじゃね!? ラッキー」


 俺はパトカーの窓を叩き割り、中で死んでいた警察官が身につけていた銃を手に取った。


「確か、ここをこうやって、こうすんだっけか……」


 中学時代、仲が良かった友人の中にいたガンオタから銃の撃ち方は聞いていたため、うろ覚えだが一応撃てることはわかった。

 俺は銃をズボンのポケットに入れて、再び歩き出す。

 総合スーパーまではまだかかりそうだが、このペースならゾンビからも逃げきれそうだ。

 いや、念のためもう少しスピードを上げた方がいいか。

 うん、念には念をなんて言うしな、行こう。と、そこまで考えて。


「やっぱ、無理だ」


 俺は、立ち止まった。


「やっぱ、無理だわ」


 震える声で、俺は呟く。


「もう、これ以上、人を殺したくねぇ……!」


 俺は側に止まっていたタンクローリーに乗り込み、うろ覚えの知識で運転し、コンビニへ向かった。



 それは最低かもしれない。

 ここまで何度も人を見殺しにしておいて、今更何をと思われるかもしれない。

 しかし、少年は最後の最後で、人を助けることを選んだ。





※※※





「う、ん……」


 ウチはその時目を覚ました。

 スマホで時間を確認すると、五時半とある。珍しく早起きだ。

 隣で風見が寝ているのを確認し、まずは軽く朝ごはんを食べようとして、梶尾さんがいないことに気づいた。


「あれ? どこにいったんだろ……。まぁ、どうせすぐ戻ってくるでしょ」


 さすがに早起きしすぎたなぁと思い、再び寝袋に入る。その途中で、隣に無防備で寝ている風見を見てみる。


「ふふ、ホント幸せそうな顔で寝てるなぁ……」


 ウチは腰まで寝袋に入れた体勢で上半身を起こし、人差し指で風見の頬をツンと突く。風見は起きない。

 もう一度ツンと突く。起きない。

 ツン。起きない。

 ツンツン。起きない。

 グネッ。起きない。

 頬をつねっても起きないようだ。

 少し自分の心拍数が上がってきたのを感じる。ドキドキと、心音が聞こえる。


「……少しだけ、いいよね」


 ウチは寝袋から出ると、風見の寝袋に足を入れる。

 この寝袋、なぜか異様に大きくて頑張れば人が二人は入れるのだ。キツいけど。

 そうしてウチは風見の寝袋に入る。

 風見の顔は目の前。

 体は触れ合っている。

 自然と呼吸が早まる。

 顔が熱い。


「風見……」


 ウチは風見の体に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。

 キャー、ついにやっちゃった! もう止めろ、そこで止めとけ! と理性が喚いているがこの際もう無視することにした。

 顔を上げ、風見の寝顔を真正面から見る。


「風見ぃ……。は、ハルトぉ……、好きぃ……」


 ぎゅーっと強く抱きしめ、自分の顔を風見の寝顔へ近づけた。

 唇と唇が触れそうな距離まで近づき、ついに理性が悲鳴をあげる。

 そのせいでウチは止まった。


「き、キスはさすがにだめだよね……」


 ナオちゃんのこともあるし、と思う。そう、風見は御影奈央という少女のことが好きなのだ。

 いやでも、ウチは風見のことが好きだし……自分の気持ちにあんまり嘘はつきたくないし……。

 悩む。

 キスをするべきかしないべきか。

 そして、


「ほ、ほっぺなら……いいよね」


 ウチの中でついにそんな結論が出た。


「大好きだよ、風見……」


 自分の出せる最大級の甘い声でそう囁き顔を近づけ、



「馬鹿じゃねえのお前」



 …………………………。

 ……………………………………。

 呼吸が止まった。

 目の前には呆れたような顔でこちらを見る風見がいた。


「ひゃあああああああっっ!?」





※※※





「起きてたの!? 起きてたのぉぉぉっ!?」


「おう、キスはさすがにだめだよねくらいから」


「ああああああああああああああああ!! 死にたい死にたい死にたい死にたい今すぐ殺してぇ!!」


 朝起きたらなんか同じクラスの女子に夜這いされてた俺、風見晴人は、とりあえず寝袋から二人とも出て話し合うことにした。

 したのだが、さっきからこのゴリラ、泣きっぱなし喚きっぱなしで話にならない。

 こっちとしては、ほら、なんか、ねぇ。気まずいね、雰囲気をね、こう、直したいわけなんですよ。これから何日も一緒に過ごすわけですし。


「殺す殺さないはともかく、いきなりどうしたんだよ。発情したの? ビッチだったの?」


「殺して下さいお願いしますぅぅぅ……」


「まぁ、お前が発情したとかビッチだったとかはともかく。ほら、今後のこととか、ね?」


「お父さんお母さん今までありがとうございました私は一足先に旅立ちます」


「聞けやぁ!!」


 いつまでも変わらないこの調子にいい加減腹が立ち、声を荒げる。

 高坂はビクッと肩を震わせ、涙目でこちらを見る。

 俺はぐしぐしと頭を掻き、ため息をつくと、


「その、あれだ。俺も、その、別に嫌なわけじゃあないぞ。こういうの」


「うう……」


 ああ、何て言えばいいのかわかんねえ。ぶっちゃけこいつ、顔は結構可愛いしな。

 うーんうーんと頭をひねり、そこでそのことに気づいた。


「……でもな」


 もしも高坂が俺にキスをしてたらと思うと、ゾッとする。


「俺、ゾンビだからキスとかしたら感染するぞ」


「……あ」


 ゾンビは人間を噛むことで仲間を増やす。根拠はないが、おそらく唾液を傷口に入れることで感染させているのだ。

 キスだって唇が触れるだけなら知らんが、少しでも俺の唾液に触れてしまったらどうなるかわからない。


「だから嫌じゃないけど、もうやめろ」


「……うん、ごめんね」


「気にすんな」


 そうしてなんとかこの事件を解決させる。

 こいつ俺のこと好きとか言ってたよね、やったぜ襲っちゃおうぜ性的な意味でと耳元で悪魔が囁く。誰だてめえ消えろ。

 事件が解決したので、とりあえず俺は外に出てナツキを探すことにした。あいつホントどこいったんだ。

 と思ったらなんか心も満タンにしてくれそうなタンクローリーがすごいスピードでこっちに来た。

 運転手は、ナツキ。


「待て待てあいつ十七だよななんで運転できんの!?」


 そんな俺のツッコミも無視してコンビニの隣にタンクローリーを止めると、降りてきたナツキは鋭い目つきで言った。



「んだよ、起きちまったのか」

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