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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第二章『総合スーパーでの悲劇』
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28 生き残り

 サイゼでたらふく食べた俺と高坂はサイゼを後にすると、再び総合スーパーへと足を向けた。

 俺、風見晴人はそこで思い出す。


「やべえ、俺総合スーパーどこにあんのか知らねぇ!!」


「使えないリーダーだなぁ!!」


 というわけで、高坂が先導することになる。しかし武器も持たずに先導というのはさすがに危険なので、せめてなにかマシになるものを探すことにした。

 総合スーパーの方へ進みつつ、その道中の店の中を片っ端から探していくのだ。


「あ! あそこのコンビニとかどうかな?」


「コンビニかぁ、ついでに長く持ちそうな食料を取っとくか」


 そんな感じで、俺たちは無警戒にコンビニへ踏み込んだ。

 コンビニはガラス張りのため、外からでも店内がある程度覗ける。そのせいで、警戒しようと思わなかった。

 そして俺たちは、店内に入った瞬間何者かに襲われた。


「っぶねぇ!」


「きゃっ!?」


 俺はとっさに左手で先に入った高坂を突き飛ばし、右手で何者かのモップによる攻撃を受け止める。


「お、らぁ!」


「チッ……!」


 俺は右手で掴んだモップをへし折り。何者かを蹴飛ばそうとするが、何者かは折れたモップの両端を掴み、それを器用に盾にして俺の蹴りを止める。

 何者かは折れたモップでガラス窓を突き、窓ガラスを割ると、破片を手に持ちこちらに踏み込んできた。

 振り下ろされるモップを捌きつつ、何者かへ攻撃を仕掛けようとするが、逆に一撃もらってしまった。

 ガラスの破片、それによって頬をピッと切られた。おそらく目を狙おうとしたのだろうが、それはなんとか避ける。

 俺を心配し、高坂が声を上げた。


「風見っ!?」


「心配すんな!」


 俺は何者かのモップによる追撃を跳んでかわし、カウンターに飛び乗ると、何者かに向けてレジを蹴飛ばした。


「う、おおっ!?」


 何者かはモップを使って飛んでくるレジの軌道を逸らし、避ける。

 そこで何者かの猛攻は止まった。

 俺も何者かも息を切らし、互いに睨み合う。

 そんな時間が数秒ほど続き、呼吸も整ったところで、


「「ゾンビじゃねえのかよ!?」」


 互いに素っ頓狂な声を上げた。





※※※





「俺は風見晴人、高二だ。そんでこの馬鹿っぽいのが高坂……高坂……、高坂だ」


「おい、アンタ完全にウチの下の名前忘れてるだろ! それに馬鹿っぽいってなによ!?」


「……俺は梶尾夏樹。高校進学しないでこのコンビニでバイトしてた十七歳だ」


 とりあえず戦う理由もない気がしたので、自己紹介から始めることにした。高坂の名前割と真剣に考えたんだけどなぁ、なんだっけなぁ。る……る……ルパン? なるほどこいつ万引きするためにコンビニを提案したのか。高価なもの狙ってんだろうな……。


「こんな状況の中で、せっかくコンビニなんて楽園を取れたからな。ちょっと敏感になってたわ」


「そりゃ仕方ねえよ」


 確かに、コンビニは一人で使うにはベストかもしれない。ある程度のものは揃っているし、バイトしていたのであれば物の場所も大体把握しているだろう。とても便利だ。

 そんな場所を維持でも死守したくなる気持ちはわからないでもなかった。


「ナツキも状況は大体理解してるみたいだな」


「そりゃもちろん。ゾンビみたいなのがこんだけ現れりゃなぁ。ったく、そーいうのは映画の中だけにしてくれっての」


「ホントだよな」


 とりあえず、俺は話しながら店内のコーラを手に取る。ずっと飲みたかったんです許してください。


「ハルトは高二っつってたけど、よく高校から逃げて来れたな。すぐそこの高校だろ?」


「ああ、そうだけど」


「あの高校からここまで逃げてきたやつ何人かいたけど、大体この辺で死んでたからな」


「ってことはもしかしてウチらだけなのかな? 高校の生き残りって」


「俺たちと、バス乗ってるやつらと、クソ共だけだろうな」


 俺は言って、コーラを飲む。これだよ! ああ生き返る! 俺、ゾンビだから二つの意味で生き返る!

 ちなみに説明すると面倒くさいのでナツキには俺がゾンビであることを明かしていない。これで敵対されたら困るし、長居するつもりもないしね。


「クソ共って、なんかあったのか?」


「色々とな。今までいじめられてたやつが復讐を始めた」


「こんな状況でか!? そりゃクソだわ……」


 ナツキは俺との戦闘中自分で割った窓を店内のもので補強しながら、


「そういえばさ。高坂とハルトって一緒にいるけど、付き合ってんの?」


 顔は見てないがニヤニヤしてるということはわかった。この野郎。


「つつつ、付き合ってるわけないじゃないですか!?」


「ホントだよ。こんなゴリラ女こっちから願い下げだ」


「誰がゴリラよ!」


「あでっ、いででででで!?」


 真っ赤になって否定した高坂に同調してやったのになんか側頭をグリグリされる。

 ナツキはナツキで「あっ、ふーん」とかわけのわからない納得をしてるしホントこのゴリラ女ダメだわ。やっぱランキング二位だな。





 コンビニで過ごしていると、いつの間にか日も沈んでいて、俺と高坂はコンビニに一泊していくことにした。


「まさか寝袋まであるとはな」


「これから集団で山行く予定だった先輩が持ってきてたやつな」


 コンビニってすごい便利。だてにコンビニエンスストア名乗ってねえな。

 俺たちは寝袋を使って寝ようとしていたところだった。

 棚を移動させて軽いバリケードを作っているため見張りは必要ないだろうとナツキが言っていた。


「……それじゃ俺は寝るな。おやすー」


「おう、おやすみ」


 最初に寝たのはナツキだ。

 こいつ寝るの早すぎ。もういびきかいてるぞ。

 高坂は、と隣で寝ている高坂の方へ寝返ってみればばっちりと目があった。


「うおぅ!?」


「ひゃあ!?」


 互いに反対へ寝返る。

 びっくりした。心臓止まるかと思った。


「……ごめん」


「お、おう……」


 この空気ですよ。重いです。

 俺にかかってる重力十倍増しくらいだよ。いやそんなわけないんだけどね。

 そんな風に考えていると、最初に高坂が口を開いた。


「……風見って、世界がこんな風になってからなんか楽しそうだよね」


「あん? ……まぁ、誰かと話す機会が増えたのは事実だな」


「なんで、そんなに楽しんでいられるの……?」


「は?」


 少し、高坂の声が震えている気がした。

 真面目な話なのだと察し、俺も真面目に対応することにした。


「こんな状況だと、必ず誰かが暗くなっちゃう。だけどウチだけは、ウチだけは暗くなってちゃだめだって思って、ずっと明るく振舞ってた」


「おう、そりゃ見てわかる」


「でも、正直もう限界だよ……。ウチは、風見みたいに……できないっ」


 嗚咽が聞こえた。気のせいじゃない。高坂はきっと、俺に背を向けて泣いている。

 当たり前だ。

 目の前で人が死んでいくのが普通になった世界で、まともな精神状態を保てという方が難しい。

 これまで平和すぎる日常を送ってきた俺たちにとって、この殺伐とした世界はあまりにも遠すぎた。

 だからこそ、そんな世界に叩き落とされてしまえば、弱気になってしまうのは道理。仕方のないことなのだ。

 もちろん俺も高坂が少し無理して笑顔を作っているのには気づいていた。気づいていたうえで、目を逸らした。

 俺はこういうときになんと言えば良いのか、知らない。

 だから、目を逸らしてきたのだ。

 最低だな、とここで自嘲する。

 ランキング二位だのゴリラ女だの散々罵っておきながら、それ以上に最低な人間はここにいた。

 俺は、俺のことしか考えていない。

 俺は、俺のために高坂を利用した。

 地獄を見ていいランキングぶっちぎりトップだろ、こんなの。

 しかしその上で、俺は口を開いた。これは目を逸らし後回しにした俺の義務だから。自己中心的に考えていた俺の義務だから。

 なんとかして、安心させようと拙い言葉を紡いだ。


「……俺は無理するな、だとか。泣きたいときは泣け、だとか。イケメンが言うとすげえかっこよくなる名言みたいなのは言わねえよ」


 そういうのは、俺にはできない。

 ラブコメ主人公は何かしらの名言で女の子の心を掴み、落とすが俺にはできない。

 だから単純に。

 だから簡単に。

 それでいてきちんと意味を持ち、心に届くような言葉を。


「でも限界がきちまったんなら、全部吐き出した方がラクになるんじゃねえの?」


「――――ッ! うっ……えぐ」


 俺の言葉を聞いて、小さな声で高坂が泣き出した。

 こんな地獄のような世界では、人は我慢しなくてはやっていけない。

 以前の、我慢しなくてもある程度の自由が利いた世界とは違い、一人一人が我慢しなければやっていけないのだ。

 しかし、それでも。

 なにも、限界まで我慢することはないだろう。

 それくらいは、許されていいはずだ。それくらいは、許してもらう。

 そうして、俺と高坂は深い眠りに落ちた。

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