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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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24 私だけのヒーロー

 俺、風見晴人は走っていた。

 道という道を、全力で。

 山城天音の言っていたことが確かなら、マイクロバスは今確実に危険だ。

 笹野先生。

 彼女は、俺たちを殺そうとしている。その理由も大体は想像がついている。

 そんな人間が、マイクロバスにいるのだ。

 そして、同じバスには御影さんが乗っている。

 最悪、御影さんだけでも助けなきゃいけない。


「クソッ、頼むからまだ生きててくれよ!!」


 俺は、足を進めた。





 バスはところどころ血まみれの状態で立ち往生していた。

 周りにゾンビの集団が残っていることから、集団に突っ込んだものの多すぎて止まってしまったとかそんなところだろう。

 ともかく、さっさと助けなければ。


「おい高月、俺が来た! 状況を説明しろ!」


 とりあえず大声を出して俺の存在を伝える。

 するとすぐにバスの窓が開いた。


「ハルト、生きてたのか!」


「状況はどうなってる?」


 高月は俺が生きてたことが嬉しいようだ。こんな時にホモかよやめてくれよ、いやマジで。

 パッと見た限りの状況が状況なので、いちいち馴れ合ってる時間はない。


「ここは見たまんまの状況だ」


「助けはいるか?」


「後でいい!」


「後? なんの後だ?」


 高月の言い方が気になる。

 バスの中の人間が生きていることからてっきり笹野先生はバスの中の人間たちで確保したもんかと思ったが、笹野先生がまだなんかやってんのか?


「ナオがジェットとともに笹野先生と戦ってる!!」


「なんだと!?」


 顔が真っ青になった。

 無茶だ。御影さん自身には戦闘能力はない。

 ジェットもドラゴンとの戦いで負った怪我があるため出せる力はたかが知れてる。

 そんなコンビが、ゾンビを操る能力者に勝てるわけがない。


「クソッ、どこにいると思う?」


「みんなを助けようとする御影さんのことだから目的地の総合スーパーとは間逆の方向に行くんじゃないか?」


「間逆……キノコ林の方か。わかった、行ってみる!」


「ハルト!」


 俺がバスに背を向けたところで、別の声が耳に入った。

 俺が首だけそちらに向けると、声の主はマサキだった。


「これを持ってけ!」


 マサキはそう言って竹刀の形をした金属製の刀を放る。

 俺がそれを受け取ると、マサキはこの金属刀の説明を簡単にした。


「それは、空中ジャンプする能力がある刀だ! 多分空中を足場にできるんだと思う!」


 なるほど、結構使えそうだ。

 俺はベルトを緩め、侍が帯刀するように隙間に金属刀を差し込んだ。


「ありがとよ、マサキ!」


「風見!」


 もう、なんだようるせえな! はやく行かせろよ! と怒り丸出しに睨みつけると高坂がいた。


「ナオちゃんを絶対助けること! あと、絶対アンタも帰ってくること! 絶対だよ!」


 なんじゃそりゃ。当たり前だろうが。それを言うために俺を止めたってかこのアマ。しかもドラゴンと戦う前の御影さんエールと被ってるしよ。

 まぁ、でも、嬉しくないわけじゃないし。ちょっとやる気出るし。いいか。


「任せとけ!」


 照れ隠しに作ったぎこちない笑顔で高坂を見ながら片手をピッと挙げると、そう返しておいた。





※※※





「キノコ林、ですか。最初に訊いておきますよ。降参、しますか?」


 私、御影奈央とジェットがキノコ林に着いてすぐに笹野先生もキノコ林に着いた。


「降参したら生かしてくれるんですか?」


「いえ、殺します」


「ですよねー……」


 笹野先生は真顔で冷たく言い放つ。

 笹野先生の目的は、教え子が行う復讐の手伝い。

 具体的な復讐の内容も、教え子の正体もわからないが、一つ言えることはある。

 笹野先生は、間違っている。

 これだけは、絶対に言えることだ。

 できることなら私も笹野先生を殺したくはない。だから笹野先生にはこれがやってはいけないことなのだと気付いてほしい。

 しかし笹野先生の何事にも冷たい様子から、それはもう不可能だろう。

 笹野先生は、もう止まらない。

 誰の手にも、止められない。

 だから私がやる。やらなきゃいけない。

 私はジェットと視線を交わすと、頷く。


「では、ここで死んでいただきます」


「そういうわけには、いきません!」


 私は、踏み出した。

 作戦は決まっている。とても作戦とは呼べない、行き当たりバッタリなものだが、決まっている。


「先生は間違ってる!」


 私は走る。

 隣をジェットが走る。

 一直線に走る。

 トリッキーな動きをするわけではない。

 予想不可能な行動をするわけではない。

 私とジェットは、ただ真っ直ぐに走った。


「『先生』っていうのは、生徒に正しいことを教える職業でしょう!」


「戯言ですね」


 笹野先生は三体いるゾンビのうちの一体を動かした。

 しかしあえて一直線に走っている私たちに向かってくるゾンビの攻撃など、ジェットが全て読み、迎撃してくれる。

 狙いはこれだった。

 先生のゾンビのストックは三体。

 三体しかいないのだ、最初からその全てを使ってしまうことなどあるわけがない。

 最大でも二体しか使ってこない。その程度なら、ジェット一匹でも十分行動不能にできる。

 その狙い通り、一つ目の壁は越えた。


「復讐を止めるのが、先生の役割でしょう!?」


「綺麗事ですね」


 続いて、二体目が出た。

 先ほどと同じようにジェットが迎撃する。

 あとは残った一体をジェットが、笹野先生を私が。

 ジェットの翼に刺さっていたナイフで、殺すだけだ。


「生徒の気持ちを理解し、その上で優しく接して、学校生活を楽しく送らせるのが、先生の仕事でしょう!!」


「理想論なんですよ、そんなの」


 ジェットが残りの一体を倒し、私がナイフを笹野先生の左胸に目掛けて、突き刺そうとした。


「本当は貴女も理解しているのではないですか? そんなの、ドラマの中の話でしかないってことを」


 私のナイフは、空を切った。

 いや、今私の手にナイフはない。

 では、ナイフはどこに?


「私の能力はそうですね、『人形劇団』とでも名付けておきましょうか」


 私の持っていたはずのナイフは、笹野先生の手の中にあった。

 笹野先生は、右手に握ったナイフを振り上げる。


「『人形』や『小道具』を意のままに操り、『人形劇』を行う能力です」


 そのままナイフは私に振り下ろされた。

 視界が真っ赤に染まる。

 肉の裂ける音が聞こえる。

 それなのに、痛みはやってこなかった。

 言うまでもないことだ。

 私が受けるはずだった笹野先生の攻撃は、私と笹野先生の間とに割り込んだ一匹の猫によって、防がれたから。

 だから、私は助かった。


「これはこれは、実に飼い主に忠実な猫ですね」


「ああ……。ああああああああああああああ……」


 私の目の前に、ドサッとジェットが倒れる。

 その横腹に、大きな傷をつけて。


「ああああああああ!! ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 私はジェットを抱いてうずくまった。

 もっとしっかりと作戦を考えるべきだった。

 相手の能力をもう少し理解してから、戦うべきだった。

 そうすれば、ジェットは……。


「自我のないゾンビなどの『人形』とその辺にある木の葉などの『小道具』を操る私の能力と、高い戦闘能力のある猫を操る人間。ある意味私たちは似ていますね」


 笹野先生の言葉は私の耳には入らない。

 ただジェットに死んでほしくなくて。

 ただジェットに生きていてほしくて。

 着ていたベストで止血しようとするものの、うまくいかず。

 ただ、焦って。焦って。焦って。

 私は。


「では、ここで終わりにしましょうか」


 目をつむった。

 これでジェットと共に同じところに行ける。

 みんなよりは少し早いけど、でも、いずれ行く場所だ。

 怖いけど。ジェットと行けるなら、それでもいい気がした。

 なんだろう、なにかやり残したことがあるような気がする。

 なんだか、胸がモヤモヤする。


「それでは、さようなら」


 足音が聞こえた気がした。

 なぜだかそれが、ここに来るはずのないあの人のものな気がした。

 やり残していたことがわかった。

 そうだよ。

 言い方は悪いかもしれないけど、私にはヒーローがいるじゃないか。

 ジェットのように共に戦ってくれる相方とは違う、私が困ったときに現れて助けてくれるような、ヒーロー。

 私だけの、ヒーローが。

 私は、最後の力を振り絞って、ヒーローの名を叫んだ。





「助けて下さいっ!! 風見先輩――――――――――っっ!!」





「助けるよ」





 耳元で、返事は聞こえた。

 そう思った時には、笹野先生とは離れた場所へと一瞬で運ばれていた。

 いわゆるお姫様だっこというやつでヒーローは私とジェットを一括りに抱きしめ、笹野先生から距離をとった。


「風見晴人……ッ!?」


「風見先輩っ!!」


 私と笹野先生は、同時にその名を呼んだ。

 やっぱり助けに来てくれた。

 風見先輩は、やっぱりすごい。

 私にはない『力』がある。


「遅くなってごめん。でも安心してくれ、もう大丈夫だ」


 風見先輩は私を安心させるために優しい声で言い、私を降ろした。

 そして、笹野先生の方を向く。


「さて、笹野先生。俺はアンタの方の『事情』も大体理解してる。その上で言うぞ」


「くっ……!」


 風見先輩は一度深呼吸すると、笹野先生を睨み、言った。



「アンタを、ここでぶっとばす」



 怒りを露わにした風見先輩が、静かに言った。

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