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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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20 第二回脱出会議

 激しい戦闘音が聞こえる。

 私、御影奈央は、鳴り止まない戦闘音に顔をしかめていた。

 私は弱い。

 何もできない。

 その事実が突きつけられているようで、どうにも落ち着かなかった。

 教室の外では高月先輩とジェットが、学校の外では風見先輩と会長がそれぞれ戦っている。

 同じ舞台に立てないとしても、それでも何か手伝いたい。


「風見はいつも自分一人でもなんとかなるやり方を選ぶからできないことが多い、奈央ちゃんが手伝うならここじゃない?」


 頭の中で高坂先輩のアドバイスが浮かぶ。

 風見先輩を手伝うためには、まず私が今より強くならなきゃいけない。

 であれば、今ここでできることはなんだ。


「……脱出方法を考えよう」


 主要メンバーの殆どは外に出ているが、第二回脱出会議を提案することにした。





「副会長、第二回脱出会議を先にやっておきませんか?」


 私は思いついたことをすぐに実行したかった。先輩たちの力になりたいのだ。


「この騒ぎが解決したら、すぐに脱出できた方が効率的なので」


「ああ、なるほど……。そうね、やっておこうか。メンバーは、私とナオと先生たち……それから有志を数人募りましょう」


「じゃあ私、有志集めてきます!」


 提案が通ったことが嬉しかった。とりあえず、一人ひとり声をかけることにする。

 まずは高坂先輩だ。


「あの、高坂先輩」


 窓側の壁に寄りかかり、ぼーっとしている高坂先輩に声をかけると、高坂先輩はビクッと驚いた。


「ああ、奈央ちゃんかビックリした。どしたの?」


「これから脱出会議をやるんですけど、高坂先輩にも参加してもらいたくて」


 こういうことに参加したくない人は多いだろう。なにせ、責任が重い。

 誰かの提案を通し、それが失敗したら、提案した人間は確実に恨まれる。そんな役を自らやりたい人なんてそういない。実際私もあんまりやりたくない。

 だからあまり期待はしていなかったのだが。


「え、いいの? じゃ、参加する!」


 軽い調子で一人目が捕まった。





 しかし一人目が捕まったからといってうまくいくわけではない。

 他の人には断られてしまった。

 ということで参加メンバーは副会長、私、高坂先輩、笹野先生、幕下先生の五人だ。


「それでは、第二回脱出会議を始めます」


 副会長の言葉で、場は緊張に包まれた。

 外では未だ戦闘音が聞こえる。それのせいもあるだろう。

 しかし、第二回脱出会議は実質最後の脱出会議でもある。

 時間的に、ここで決定した案はそのまま通るだろう。

 先ほども言ったように、これは責任が重い。

 だから場は緊張していた。


「さて、第一回脱出会議にてマイクロバスでの移動ということまでが決まっています。風見晴人のみここに残り、周囲のゾンビを集めることになっています。本会議では、この作戦の詳細を詰めたいと思います」


 風見先輩が残る、という部分にピクッと反応した高坂先輩は、すぐに挙手した。言いたいことはもう想像がついている。


「あの……どうして風見が残るんですか?」


 副会長はやっぱりきたかとため息を吐き、やがて理由を説明する。


「ゾンビから逃げる上でゾンビをどこかに集めることは必要不可欠です。その役を決める際、自らそれをやると志願したのが風見晴人だった、ということです」


「……なるほど。風見らしい理由ですね」


 理由を聞くと、高坂先輩はすぐに納得し、引き下がった。私とは全然違うなぁ……。


「えぇ、それでは本題に戻ります。何か案のある人はいますか?」


 すると待っていましたとでも言うように幕下先生が手を挙げた。

 副会長をはじめとするその場の面々が隠れてため息を吐いた。ま、幕下先生がんばって!


「逃げる場所についてなんだが、『総合スーパー』とかどうだ? そこの街道まっすぐ行った先にデカイのあったろう?」


 一同が「おお」と思わず声を上げる。正直ここまでまともな意見が出るとは思ってなかった。すみません、幕下先生。

 へへんと得意げな幕下先生の意見を副会長は顎に手を当てて反芻する。


「しかし、すでに別の生き残りかゾンビに奪われている可能性も否定できません。まずは総合スーパー近くのコンビニへ向かい、様子を見た方がいいかもしれませんね」


「あ、確かに。占拠してるのが生き残りの人たちだったらまだしも、ゾンビだったら嫌ですね」


 私は頭の回転が速い副会長にただ関心し、呟く。すると、副会長は私を見て言った。


「いえ、この状況で一番怖いのはゾンビではなく人間です。今のところは、という前提つきですが」


 ……どういうこと? 私は固まった。


「今日でゾンビが現れてから三日目です。この時点で学校という機関に警察が来ない時点で近辺の警察はこの地域では活動不可能な状態にあると推測できます。つまり、今ここは完全な無法地帯。何をしたとしても裁かれることはありません。となると、知能がある人間はそれなりの脅威ともなる。知らない人間にはなるべく関わらない方がいいんですよ」


 副会長は早口でまくし立てた。これは私だけでなく全体に言うつもりだったようだ。少し机に前のめりになっている。

 理解した。

 確かに言われてみれば人間は危険かもしれない。

 今のところは、と言ったのはゾンビに『進化』という性質があるからだろう。『進化』次第で人間以上の脅威にもなりうる。


「とすると、あと必要なのはそこまでのルートですかね」


 一区切りついたところで高坂先輩が話を進める。一同はそれに頷き、それぞれ考える。

 やっぱり、最短距離でいいんじゃないかな。

 そう思い至り、私は挙手した。


「風見先輩がゾンビを集めてくれているので、もう最短距離でいいんじゃないですか」


「ふむ。しかし大通りを使うのは危険ではありませんか?」


「住宅街のように狭い場所で大量のゾンビに囲まれるよりは幾分マシかと思います」


「確かに……」


 私の意見に、高坂先輩も納得する。

 すると副会長は一同の賛否を確認し、異議がないと判断し、手順をまとめ始めた。


「では、それでいきましょう。学校脱出の手順は、まず風見晴人、高月快斗、ジェットを除く避難者はマイクロバスに乗車、運転は幕下先生に任せます。マイクロバスの発車後、風見晴人は放送室から大音量で放送を行い、周囲のゾンビを集める。マイクロバスは最短距離で総合スーパー近くのコンビニまで行き、風見晴人の合流を待つ。問題、質問はありませんか?」


 そして副会長は場の全員を一瞥し、挙手がないことを確認する。


「異議もないようですので、これにて第二回脱出会議を終わりにします」


 そうして、会議は終了した。

 私は、先輩の役に立てただろうか。





※※※





「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」


 現在、俺、風見晴人は全力疾走していた。もっとも建物の屋根を蹴り、電柱を掴み、壁を走るその姿を『走る』に入れて良いのかは疑問だが。

 先ほどの絶叫の主はマサキ。まぁジェットコースターより速くて意味不明な動きを安全バー無しでやったら誰もがそんな反応だろうな。仕方ないんだ、ちょっと我慢してねマサキ。


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅ!!」


「うるせえ」


「お前のせいだ馬鹿野郎ぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 ゾンビをせっかく学校から離れた団地に集めたのに意味なくなるだろ、アホか。

 マサキはなんとか落ち着きを取り戻すと、ずっと気になっていたのだろうか、質問してきた。


「そ、それよか学校着いてからどうする気なんだ? ゾンビいっぱいいるんだろ?」


「あ、なんも考えてねえ」


「おいいいいいいいいいいい!!」


 完全に忘れてた。

 うーん、学校にも結構ゾンビいそうだよな。どうしよ。


「なぁ、マサキ。学校にゾンビを一気に大量にぶっ殺す装置的なのなかったっけ?」


「あるわけねぇだろ!? そんなの学校にあったら大問題だろうが!!」


 だよなー。ゾンビもので学校に引きこもってるやつなんて見たことないし、そんなもんか。

 すると、さっきまで喚いてたマサキがなんか考えていることに気づいた。


「どした?」


「いや、調理室を使えばそれなりにぶっ殺せるんじゃないかと思ってな」


 調理室、その響きだけでマサキが何をしたいのかわかった。


「ガス使うのね、なるほど」


「火はマッチとかライターとかとってくりゃいい、今んとこそれしか浮かばねえな」


「まぁ、とりあえずそれやろうぜ」


 学校はすでに目前。高月に告げた時間までまだあと二分もある。準備をするには十分だろう。

 最近できたのだろう綺麗な一軒家の屋根を蹴り、倒れた校門を越え、校庭に着地。

 学校にはやはり大量にゾンビがいた。校庭にはそこまでいないようだが、校舎内が凄い。ほぼ全ての窓からゾンビが見える。


「……とりあえずマサキは火を点けられるもの探しに行け、俺は今のうちに殺せるだけぶっ殺す」


「いや、調理室は俺に任せてくれ。お前は一階と二階、それから四階の加勢に専念してくれ」


「は? 一人で大丈夫かよ」


「問題ねえよ、むしろそっちのがやりやすい」


「ま、マジかよ」


 言って、マサキは遠回りで校舎へ向かっていった。俺のやることがわかってるみたいだな。助かるぜ。


「さってと」


 俺は左に見えるプールの壁に、ドロップキックを決めた。

 一瞬にして吹き飛ぶプール。

 響き渡る轟音。

 それによってもたらされる結果は簡単。

 ゾンビの虚ろな目が、こちらに向いた。

 ぞろぞろと少しずつゾンビが校庭へ出てくる。

 大体一階のゾンビは外に出てきて、二階のゾンビのうちの数体が一階に降りたくらいか。どーでもいいんだけど、ゾンビって階段登れたんだな。

 校庭に広がるゾンビたちはそのほとんどが学校の人間ではなかった。この近隣に住んでいた人だと思う。

 ふと、四階の避難所を確認した。

 猫を使って行き来する窓一個しかないため教室の中の様子は詳しくは確認できない。しかし窓から笹野がこちらを見ていることはわかった。やはり教師だから生徒のことが心配なのだろうか。

 再びゾンビに目を戻す。

 それなりに集まった。

 俺は吹き飛ばしたプールの欠片。軽トラックほどの塊の後ろに回った。


「ラァッ!」


 そして、その塊を蹴飛ばした。

 軽トラックほどの塊が一直線にゾンビたちへ飛んでいく。

 ゴッ!! と。

 塊は広がるゾンビを跳ね飛ばし、校庭の一階部分を貫通した。


「しゃあ、ストライーク!」


 やべえ、俺TUEEEE!! 自分の実力に溺れる。これでゾンビ能力とかついちゃったら「チート主人公」タグがつくぜ。

 一階のゾンビは粗方吹き飛ばした。二階のゾンビは校庭でやる。

 三階のゾンビはマサキが調理室でまとめて片付ける。

 俺は二階が終わったら四階に加勢。まぁ多少遅れても大丈夫だろう。なにせ四階には高月と猫がいる。あいつらは俺には及ばないにしても強いからな、心配ないだろう。

 問題はマサキだ。

 一人で行かせてよかっただろうか。一人で調理室の爆破までやるっつってたし。

 まぁ、なんだかんだあいつ強いし、大丈夫か。


「やっべ、高月に言った時間まであと一分しかねえ!」


 時間を気にせず考えていたせいで、時間がなくなった。

 俺は焦りつつも、二階から降りてきたゾンビの掃討に当たった。

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