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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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19 異なるペアの綺麗な連携プレー

 学校防衛戦をするにも作戦は重要だ。逃げるという選択肢はない。戦わなければ死ぬのだ。

 だから、既にこの四階の防火扉がゾンビに叩かれ始めている状況で、僕、高月快斗は必死に作戦を立てようとしていた。

 そんな矢先だ。

 彼から、こんなことを言われたのだ。


「おい高月、作戦なんか立てなくていいから今から十五分死ぬ気で御影さんを守れ」


 ナオが電話を繰り返し、やっと繋がったハルトから言われた。

 始めは「どうして?」と思った。

 こんな状況で作戦を立てないなど、自殺行為だと思った。

 しかしすぐに気づいた。

 ハルトは、何よりも大切な御影さんを僕に預けてまで、この作戦を提案したのだ。

 例え考えなしの提案だとしても。

 それが、彼の。

 ハルトの、作戦なのだろう。

 僕は一瞬で決断した。


「……わかった」


 電話が切られると、副会長が作戦を考えている様子が目に入った。


「副会長、作戦はもう立てなくていいです」


「は、はぁ!?」


 僕がそう言うと、副会長は目を丸くした。まぁ、当然の反応だろうな。


「作戦も立てずに突っ込んだら死ぬだけじゃない! ……まさか」


「死にに行く気はありませんよ。ただ、ハルトに十五分ナオを任された。だから僕はそれに従うだけです」


 副会長は馬鹿でも見るような目で僕を見る。

 言いながら、自分でも馬鹿だと思った。

 体育館でゾンビと化したハルトを見て、こいつは信用できないと考えたばかりなのに。

 なぜか今回は信用できる。


「ナオが全面的に絡んでいるからか」


 理由に苦笑し、ナオにスマホを返すと、チェーンソーを準備した。


「……高月先輩、行くんですね」


「ああ、行ってくる」


 ナオに簡潔に言葉を返し、ジェットに向き合う。


「ジェット、僕に付き合ってくれるかい?」


「ご主人の安全のためだ。仕方ない」


「ありがとう」


 心強い仲間も増えたところで、ドアを開けた。


「ナオ、このドアは僕かジェットかハルトか会長が帰ってくるまでは絶対に開けちゃダメだ。約束してくれ」


 戦場に向かう前に、ナオに告げる。

 このドアが開くときが、ゾンビとの戦いの第一歩だ。

 そう、この戦いは生き残るための一歩でしかない。

 ここで死ぬような人間が、この先、生き残れるわけがないのだ。


「……わかりました」


 ナオから返ってきた返事に微笑みを返し、僕はドアを閉めた。

 さあ、学校防衛戦だ。

 これから生き残るための、防衛戦だ。

 全力で、臨もう。





 防火扉は、僕らが近づいたと同時に破れた。まるで僕らがここに来ることを待っていたようだ。

 ジェットも、息を飲んだ。

 なにせゾンビの数がおかしかった。

 破れた防火扉から見える限り、ぎっしりと隙間なくゾンビが詰まっている。

 圧殺されたのだろう、ゾンビの死体も転がっている。だが数は減っているように思えない。


「……絶望的だな」


「そうだな。が、負けられんぞ」


「そうだね。やろう」


 僕とジェットは、互いに目線を合わせると、覚悟を決めた。



 ゾンビたちの行動はシンプルだった。

 ただ、僕たちを喰おうとする。

 それを見て僕は確信した。


「こいつら、進化してないな」


「状況が最悪なことは変わらんがな」


 向かってきたゾンビの首を刎ね、ゾンビを絶命させる。

 それを見たゾンビたちが恐れて退く、なんてことはなく、次々と僕たちへ向かってきた。

 それに対し僕が取った行動は、地面を斬る、というものだった。

 防火扉前に円形にチェーンソーを突き刺し、地面を斬ると、下の階にもゾンビがいたのかグシャッと肉の潰れる音がした。

 ゾンビたちはシンプルな行動しかとらない。

 こうして穴を作ってしまうことで、ほとんどのゾンビは下の階に落ち、また上ってきて落ち、と繰り返すことになる。

 しかしそれもすぐに止まってしまった。

 落ちたゾンビの数が多すぎて、穴が埋まってしまったのだ。


「多すぎだろっ!」


 ゾンビの上を歩き、ゾンビがこの階まできてしまった。

 すでに穴を埋めたゾンビのうち下の方にいるものは圧殺され、穴は意味を成さなくなってしまった。

 僕らは初めてにしては綺麗に連携し、ゾンビと戦う。

 僕がゾンビを斬ったことでできたスキにつけこもうとするゾンビをジェットが噛み殺し、そのスキを僕が埋め、の繰り返しだ。


「ジェット、時間を稼いでくれ!」


「了解した!」


 しかしそんな連携もおそらく長く通用しない。ゾンビに学習能力はないだろうが、僕らの疲れで連携にスキができ、いずれ負ける。

 であれば、合間を縫ってわざと連携を崩せば良い。

 その間、各々は連携に縛られることなく行動することが許されるのだ。

 僕は右側の教室のドアを蹴飛ばし中に入り、教室の壁を斬り倒した。

 ズンッ! という重い音とともに、多くのゾンビが倒れた壁に潰される。

 さらにその上にまた大量のゾンビが乗ることで、壁に潰されたゾンビは圧殺された。

 穴から外にでて、続々と増えるゾンビに僕らは連携を重ねる。

 両者の実力は、今のところ均衡が保たれていた。

 ジェットもゾンビを共食いすることで強くなっているようで、連携がどんどんしやすくなっていくのがわかった。


「らあああああああああああッ!」


 僕はチェーンソーを先ほど倒した壁を細長い長方形に斬る。その断面にチェーンソーを突き刺し、中で回転を止めることで、簡易的なツーハンデッドソードを作り、リーチと重さを上げた剣でなぎ払った。


「ジェット!」


「任せておけ!」


 僕のなぎ払いに合わせるようにジェットも動く。

 爪で切り裂き、僕がなぎ払ったゾンビの首をまとめて吹き飛ばした。そのタイミングを見計らって僕も再び動く。


「飛べっ!」


 ジェットにできたスキに目掛けて攻撃しようとするゾンビに向けて簡易的ツーハンデッドソードを振る。その途中でチェーンソーを回転させることでチェーンソーが鞘を斬って抜刀されるように壁の断片から出てくる。

 遠心力によって壁の断片はゾンビ目掛けて飛んでいき、命中。

 僕とジェットの連携は、崩れない。

 連携において最も恐れるべきは相方の戦闘不能だ。

 理由は単純明快、連携ができなくなるからであり、連携ができなくなるということは戦闘のペースが乱されるということである。

 戦闘のペースが乱されるということはつまり、こちらの攻撃が一時的に中断するということである。

 多対多の戦闘において連携の乱れはそのまま死に直結する。

 目の前で連携していないゾンビが連携している僕らに負けているのが良い例だ。

 しかし僕らは二人、相手は大量。

 いずれ連携も崩れ、負けるだろう。


「だけど、それでいいんだ」


 僕らが今すべきなのは、勝敗を決することではない。

 時間を稼ぐことだ。

 あいつは、ハルトは十五分間ナオを守れと言った。

 何か策があるのかはわからないが、あいつが来ればなんとかなる気がする。

 つまり。

 十五分、耐えきることができれば、僕らの勝ちだ。





※※※





 目の前では、それまで犬とマサキが戦闘を繰り広げていた。

 両者の実力はほぼ互角。犬の持つ金棒のようなものをマサキはバットで受け流す。若干マサキが押されているか、というところだ。

 そこに俺、風見晴人は割り込んだ。


「よっこいせっと!」


 二足歩行する犬の手間まで一瞬で距離を詰めると、犬の振り下ろした金棒を掴み、捻り、投げ飛ばす。

 犬は回転しながら飛んでいき、団地の壁にぶつかった。


「ハルト、なんでここに!?」


 後ろでマサキが目を丸くしているのがわかる。いや、なんでじゃねーだろ。


「お前が危なっかしいから来たんだよ、十分で終わらすぞ」


 高月には十五分待てと言ってある。移動に五分かかるとして、十分で倒したいところだ。

 マサキも「了解」と言う。


「マサキ、俺は来たばっかだからあいつがどんなゾンビかわからん。指示くれ」


「あ、ああわかった。とりあえず、持ってる金棒を奪い取ろう」


「はいよ!」


 俺はマサキの指示を聞き、丁度起き上がったばかりの犬に目掛けて突っ込んだ。

 そして金棒を持つ犬の右腕の関節を蹴り上げ、へし折ると、宙を舞う、少し折れたらしく短くなった金棒を掴み、犬から奪い取る。

 そのまま振りかぶると、頭を狙ってフルスイングした。

 このまま頭が吹っ飛べば俺の勝ちだ――とはいかないようで、俺の振った金棒は何かに遮られる。


「……金棒!?」


 俺の振った金棒を遮ったのは、なんと俺のものと同じ金棒だった。

 犬の左手に握られたそれが頭を狙う俺の金棒を抑える。


「さっきまではそんなのなかったろうが!」


 金棒でつばぜり合いをしてから一旦距離をとった。


「マサキ、ありゃどういうこった!?」


「カラクリは知らんがあいつ多少の再生能力があるらしいんだ。あの様子じゃ金棒も身体の一部みたいだな」


 どうやらマサキは俺が来る前に一度犬の再生を見てるらしい。苦い顔をしている。

 つまり先程は折れた金棒を再生させ、持ち替え、防いだというのか。

 犬は、俺が折った右腕も容易く再生させてみせる。もうなんなんだそりゃ。


「どうする……、今学校もやべえらしいんだよ」


「クソッ、学校のやつらは逃げられなかったのか!」


 マサキはどこにもぶつけられない怒りを露わにするも、一瞬で切り替える。


「……俺が見た限り、あいつが再生できる傷は骨折と擦り傷だ。まだ完全に身体の一部を吹っ飛ばしたことはない。だからまず、右腕を切断してくれ」


「わかった」


 こうしている間にも犬は俺たちへと距離を詰めていた。

 犬は金棒を振りかぶる。しかしさすがはゾンビ、スキだらけだ。素人の俺でもここまで大振りにはやらない。


「お、らぁっ!」


 俺は犬の両膝を払うように蹴り、骨を折ると、体勢を崩して倒れかかる犬の右腕を掴み、犬を完全に倒す。

 倒れた犬の頭を踏み、犬の動きを止めると、掴んでいた右腕を引っこ抜いた。

 ブチブチブチッと肉の引き裂かれる音と共に鮮血が溢れる。犬の、耳をつんざくような絶叫が聞こえるが、気にしない。

 俺は引っこ抜いた犬の右腕を後方に投げ飛ばし、ゴルフでもやるかのように金棒で犬を吹っ飛ばす。


「……さあ、再生するか」


 マサキが呟き、目を細めた。

 犬はよたよたと震えながら立ち上がる。やはり俺が折った足はもう治りはじめているようだ。


 しかし、引っこ抜いた右腕が治る気配はない。

 つまり犬の能力は自分の身体にくっついている部分を再生させることが限界で、身体から離れてしまえば再生は不可能。


「きた!」


「っしゃあ!」


 俺とマサキは同時に喜ぶ。まだ倒してねーけど。

 マサキに指示を伺う。

 マサキはそれま浮かべていた笑みを消すと、口を開いた。


「俺があいつを抑える。その間にあいつの頭を吹っ飛ばしてくれ」


「了解!」


 俺の返事と同時にマサキは犬に向けて走った。

 まだヨロヨロしている犬の口にバットを咥えさせ、噛まれるのを阻止。空いた手で金棒を持つ左手を抑え、足を踏んだ。


「ハルト!」


「おうよ!」


 マサキが繋いでくれたチャンスだ。

 この一撃で決める。

 俺は犬の手前まで走り、跳んだ。

 バッガァァァァァッッ!! 俺の蹴りが犬の側頭にヒットし、あまりの威力に犬の頭は粉々に砕け散る。

 血肉と骨が四方八方へ飛び散り、当然ながら俺とマサキは血まみれだ。

 しかし犬は倒した。目標時間からは二分ほどオーバーしたが、この程度は許容範囲だ。


「マサキ、乗れ!」


「えー……。高三男子が後輩男子におんぶされるって絵面最悪だろ……」


「つべこべ言ってる暇はねえ!」


 俺はマサキを無理やり背負い、走り出した。

 目指すは学校。

 御影さんをはじめとする生き残りたちを救うため、俺は全力を出した。

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