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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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17 悪化していく状況

 朝起きたら、すでに風見先輩たちがコンビニに向かった後だった。

 見送ろうと思っていたのだが、寝坊してしまった。

 起きたのは七時半。これが学校の日だったら遅刻が決定していた。


「安心しちゃってるんだ……私」


 私、御影奈央は、水道で顔を洗うと、とりあえず女子トイレに行き身だしなみを整えることにした。

 私が今日寝坊したのは、多分風見先輩や高月先輩、ジェットがいたからだ。

 彼らは、強い。

 こんな世界になったからこそ、彼らが味方になったことで安心してしまっていたのだろう。

 だから寝坊した。

 ダメダメな生徒会役員だなぁ、私。

 生徒会役員は、ここでは避難者を安心させるという役割がある。

 今、生徒会役員の生き残りはコンビニに向かってしまった生徒会長と高月先輩を除くと私と副会長しかいないのに、私がこんなんでどうする。


「ちゃんとしないとっ!」


 私は気合いを入れるために、両手で頬をペチンと叩いた。





 朝食は、八時になると全員に配られることになっている。

 今日で三日目だ、弁当もそろそろ悪くなってくるだろう。

 何せ今は夏だ。食堂の冷蔵庫に入れてあるとはいえ、限界はくるだろう。

 だがその問題もきっと今日先輩たちが持ち帰ってくる食料で解決する。

 であれば、私は私でできることをしておこう。

 朝食の弁当を食べながら、私は決意した。


「なーにやってんの、奈央ちゃん?」


 教室で朝食を食べていると、前の席に高坂先輩が来た。

 高坂先輩は前の席に座ると、自分も貰ってきた弁当を広げた。


「いえ、ちょっと考えごとを……」


「考えごと?」


 高坂先輩は私の『考えごと』について少し考え、やがてなにかに思い至ったようで、パチンと指を鳴らした。


「ははーん、さては風見のことだなっ!?」


「違いますっ!! ……違わなくも、ないのかな?」


 私が考えていたことは先輩たちの役に立つ方法についてだ。その先輩の中には当然風見先輩も含まれるため、ある意味先輩のことを考えていたとも言えるのかもしれない。


「あー、なるほどね。風見たちの役に立ちたいんだ?」


 思考が読まれたっ!?

 考えていることを見事当てられて赤面する。


「ううううう……」


「ちょ、予想以上に可愛い反応! これはお持ち帰りぃ!」


「高坂先輩っ!」


 私の慌てふためく姿に高坂先輩は腹を抱えて笑う。

 しかし高坂先輩は「ふぅ」と一息つくと、真剣な顔になった。


「まぁ、風見の役に立つなんて誰にでもできることじゃないよ。私が助けてもらったときも、そうだったから」


「でも……」


「大丈夫大丈夫、あいつは数学の計算は苦手なくせにこの手の計算は得意な人間だから!」


 確かに風見先輩は世界が変わってからも、一人で世界に適応し、一人で起こった事件に対応していた。

 自分の力を過大にも過小にも見ず、ありのままの自分を計算式に入れ、自分にできることを最大限に行う。それが私の知る風見先輩だ。

 私も、こんな風にできるようになれば役に立てるのかもしれない。


「風見はいつも自分一人でもなんとかなるやり方を選ぶからできないことが多い、奈央ちゃんが手伝うならここじゃない?」


「なるほど、私の方が顔が広いからできることもあるということですか」


 風見先輩には失礼かもしれないが、高坂先輩のアドバイスには納得できた。


「ま、避難所の猛者が一人も残さずみーんなコンビニ行っちゃったのは奈央ちゃんを信用してるからってのもあるんじゃない?」


「そうですね。高坂先輩、ありがとうございました!」


 高坂先輩のアドバイスのお陰で自分にできることもわかった気がする。

 少しだけ残っていた弁当のおかずを食べ、席を立った。





 ガシャン、ガシャン。

 なにかが揺さぶられるような音を聞いたのは、お昼ご飯が配られるより前だ。

 決して連続で、というわけではなく、たまに、断続的に聞こえる。

 初めは風が何かで外にあるものが揺さぶられているのかと思った。が、この世界で音が鳴ったらむしろそれ以外の可能性を考えなきゃいけない。

 常に最悪な可能性を想像し、対処する必要があるのだ。

 そして今回の場合。


「ナオ、外見た?」


「……はい」


 副会長もすでに状況は把握しているようだ。

 私はもう一度窓の外を見る。



 そこには、校門を揺らす大量のゾンビがいた。



「どうしよう……。会長たちみんなコンビニ行っちゃってるし……」


 副会長がこんなに慌てているのを見るのは初めてだ。

 実際私も慌てている。どうしよう。


「と、とりあえず四階に作った避難室にみんなを避難させて、私たちで会長たちと連絡を取りましょう!」


 なんとか頑張って明るい声を出すと、副会長も「そうね」と納得した。

 副会長は何事も効率よく行える人だ。

 今回も、早かった。


「ゾンビが学校に迫ってますので、静かに避難室まで避難して下さい」


 副会長が集まっている避難者に伝える。


「お、おい! 大丈夫なんだろうな!」


「静かにして下さいと言ったはずですが」


 避難者を黙らせる姿は、少し怖かった。

 私はその間に、集まっていない人間を探した。

 トイレにいたり、別の階に降りていることもあったが、大体の人は集まった。

 しかし、笹野先生だけいない。

 副会長にそれを伝えると、「仕方ない」と言った。


「これだけ探していないってことは屋上しかないでしょう。であればおそらくすぐに降りてくる。今は避難所のバリケードを強化する方が先です」


 それはあまりにもひどいとは思ったが、屋上までいく時間はない。

 もうすでに校門は破られかけている。あと数分もしないうちに校門は破られるだろう。

 一階の昇降口には先輩方が作ったバリケードがある。そこが突破されてしまっても、技術室に放送で音楽を流しっぱなしにしてきたので、必然的にゾンビはそこへ向かう。

 会長たちが帰ってくるまで、ここを守りきれば勝ちだ。


「こ、校門が破られてるぞ……」


 しかしどうしてか静かにしろと言っても幕下先生だけは話すのを止めない。どうして人の言うことを聞いてくれないんだろうか。


「幕下先生を窓から落とせば時間が稼げそうです。試してみますか?」


「……チッ」


 それを副会長が黙らせると、幕下先生は舌打ちをする。この人は自分が何をしているのかわかっていないらしい。私も少し腹が立つな……。

 校門は破られ、ゾンビは今昇降口のバリケードと格闘している。しかし一向に笹野先生が降りてこない。

 もしかして、なにかあったのではないだろうか。

 私の仕事は会長たちとの連絡。全員の連絡先を持っているのが私だけだからだ。か、風見先輩……先輩の連絡先だけ広がってませんよ……!

 だから笹野先生を探すことはできない。

 電話もメールも使ってみるが、会長も風見先輩も応答してくれなかった。


「……あっ、高月先輩!」


 すると高月先輩からだけ返信がきた。メールだった。

 内容は簡潔に『ゾンビの罠に嵌められた。ジェットと僕はそっちに向かっている。避難室の窓を開けておいてくれ。』とあった。ゾンビの罠って、外のゾンビはそんなに進化しているのだろうか。


「副会長、高月先輩から応答がありました! 今すぐ帰ってくるそうです! 窓を開けて下さい!」


 私が情報を伝えると、避難室で唯一の窓(他の窓は全て塞いだ)を避難者が開ける。この窓はジェットを使って出入りする用であり、梯子を使って逃げる用でもあった。


「あ、笹野先生!」


 ふと避難者の声を聞き、入り口のドアを見ると、笹野先生がいた。


「もうっ! 先生なにやってるんですか! はやく来てください!」


 そういってドアを開け、笹野先生を入れた。


「ご、ごめんなさい……。外のゾンビの数に驚いちゃってて……」


「もうっ、気をつけてくださいね」


 少しイライラしていたからか、私にしては珍しく目上の人に注意をした。しかし笹野先生、驚いたら普通逃げるだろうに、なぜ屋上にとどまっていたのだろうか。


「腰が抜けたのかな」


 自分で適当に納得し、高月先輩たちを待つことにした。





「あ、カイト!」


 窓にいた副会長がそんな声をあげたときに、やっとジェットに乗った高月先輩が避難室に入ってきた。

 高月先輩は体の前にも後ろにもリュックを背負っていて、二つを一人で持ってきていた。コンビニはそんなに切迫した状況だったのだろうか。

 だとしたら、風見先輩や会長は……。いや、そういう風に考えるのはやめよう。事が片付くまでは、それに集中しなくては。


「高月先輩、大丈夫ですか?」


 ジェットから下り、リュックを二つともに地面に置くと、荒い呼吸を整えながら高月先輩は言った。


「……会長が、やばいな。多分ハルトはなんとかなるだろうが、会長ばっかりは助かるかわからない」


 そんな状況報告に、副会長か顔を青くした。


「そんな……マサキ……! 助けないと……助けないと……」


「落ち着いてください、副会長!」


 私がなだめようと副会長に近づくが、副会長は取り乱したままだ。このままでは、指示が通らないどころか、パニックが伝播する。

 そんな副会長に、高月先輩は言った。


「副会長、ここを片付けない限り会長を助けるなんて無理です。段階を踏みましょう。まずは、ここですよ」


 それはある意味残酷な言葉だったのだろう。

 会長は、特別何か力があるわけではない。普通の人間だ。

 風見先輩のようにゾンビの力を持つわけでもなく、高月先輩のような武器を持つわけでもなく、私のような動物を飼っているわけでもない。

 そんな人間が、この状況を打開し終わるまで生き残るなど、限りなく難しい。

 そもそも、会長はまともな武器を持っていないのだ。

 会長はおそらくバットのような武器しか持っていない。

 であれば、おそらく生きている可能性は低いだろう。こんなこと考えたくないけど。


「……そうね」


 高月先輩の言葉に、副会長もやっと落ち着いたようだ。


「……それでは、今から少人数で学校防衛戦会議を開きたいと思います」


 学校防衛戦は、高月先輩が続けたその言葉から、始まった。

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