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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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16 万引きはダメ! ゼッタイ!

 早朝、なぜか風見晴人はかなり早く起きた。


「なんでこんな日に限って早起きできちゃうかねぇ」


 俺は俺しかいないその教室で二度寝を開始するも、完全に覚醒した頭は一向に眠ろうとしない。


「……マジかよ。もういいや、起きちゃおう」


 今日で、ゾンビが世界中に現れてから三日目だ。

 なんの兆候もなくいきなり現れたゾンビが人類を喰らうスピードは尋常じゃなく、少なくともこの町の一帯はもう壊滅的だろう。

 政府の対応も早く、着々と壁作りは進んでいるらしい。壁ができりゃ安心だけど、それまで生き残るのが大変だよね。

 ゾンビさえ来なければ、夏休み三日目なんて寝るか寝るか寝るしかしなかっただろう。寝るだけかよ。

 ゾンビのせいでこんな朝早くに起きてしまった。呪うわ。


「はぁ……。今日は、コンビニに万引きだっけか」


 夏休み三日目、食料確保のために、俺たちは人生初の万引きをすることになった。





 スマホの時間を確認すると、七時とある。万引きするには早い気がするが、俺たち以外の生き残りの連中がコンビニで万引きしてるとも限らないのだ。なくならないうちにとらなければ。


「集合場所は校門前って話だったが、こりゃどういうこった」


 校門前に来た俺は、その光景に驚いた。

 なんとすでに、校門をゾンビが揺すっているのだ。もうここまでゾンビは来ていた。

 数は四体、進化もしていないようだ。まだ大丈夫……なのだろうか。


「時間に余裕はなさそうだな」


 とりあえず校門前のゾンビは全て一撃でぶっ殺しておく。


「しっかし、遅えなあいつら。何してんだ?」


「あ、ハルト。先に来てたのか」


 丁度そう言ったときに来た。声の主のマサキ、猫に高月とみんな揃っている。マサキと高月はサッカー部が使う大きなリュックサックを背負っていた。おい、俺だけ仲間外れかよ。俺だけぼっちかよ。でもよく考えたらそもそも俺ぼっちだよ。


「もう校門前にゾンビ四体来てた。ちょい、やばいかもな」


「本当か? だとしたら帰ったらすぐに第二回脱出会議をやらないと」


 えぇー、またやんのあれ。幕下いなきゃちゃんと行くのに。

 言ってから、高月は猫に向き直る。


「それじゃジェット、周囲の状況を確認してもらってもいいかな?」


「ご主人の命令だ、仕方ない。確認してやろう」


 ご主人の命令、ということは猫は御影さんに高月の命令を聞けとでも言われたのだろう。

 猫は背中の翼をはためかせ、飛び上がった。

 空中で静止し、周囲の音を聞き取る。

 しばらくして、降りてきた。


「この近くにはあまりいないようだが、こちらに向かって来ているのは確かだな」


「っつーかどうしてこの近くにここまでゾンビいないんだ? 言っちゃあれだが、普通もっと集まらねーかな?」


 猫の意見を聞き、マサキが疑問を口にする。それは確かに俺も疑問だった。

 高月は少し考える素振りを見せてから、結論を口にする。


「この近く、と言っても二キロほどの場所だけど……そこに小学校がある。もしかしたらそこが避難所になっていて、ゾンビはそっちにいるのかもしれない」


 高月の挙げた小学校というのは、俺の通っていた小学校だ。あの頃はそこまでぼっちじゃなかった気がする。そんな時代が俺にもありました。


「ふむ、南方二キロほどの地点は確かにゾンビのものらしい足音が多く聞こえたな」


「じゃあそれで間違いねえな。あとは、ここから北にある中学校か?」


 俺はここからだと小学校よりも少し遠い位置にある中学校を挙げた。もちろん俺が通ってた中学校だ。あの頃はぼっちで嫌われ者だった。そんな時代が俺にもありました。悲しい。


「……そっちの方が足音は多めだったな。ただ、いずれも走っているゾンビは見られないし、こちらの正確な位置を掴んでいるわけでもないようだ。少なくともあと一日は余裕があるだろう」


 猫の考察に、高月は歯ぎしりする。


「一日か……時間がないな。仕方ない、帰ってから行う第二回脱出会議で作戦内容を決定して明日決行しよう」


「それしかないか……」


 うーむ。まぁ今は会議の時間じゃないんだし、早くコンビニから行って会議しようぜ! と言ったらみんなは納得した。





 コンビニはここから二百メートルないほどの位置にある。

 全国に展開している有名なコンビニで、品揃えもよく好評な店だった。ゾンビが現れるまでは。ゾンビが現れるまではって言うと途端に悲しくなるね。


「そういえば高月、お前のチェーンソー、なんで回転止まってんだ?」


 なにも話さないのもあれなので、適当に話題をみつけてきた。

 高月のチェーンソーは、俺が初めて倒した進化ゾンビの腕に生えていたものだ。俺も一度使ったことがあるが、オンオフの切り替えをするためのスイッチなんてなかったぞ。

 高月は腰に固定してあるチェーンソーを少し触った。


「これは君が言った通り、使用者の思ったことが伝わる。だから斬りたいものが斬れるんだ。同じ要領で、止まれって思うと止まるんだよ」


「へ、へぇ……」


 なんだよ、チェーンソー超万能じゃねえか。拾っときゃ良かった。

 ちなみに高月はチェーンソーの一刀流だ。もう一個のチェーンソーは俺が折ったからね。

 マサキは野球部の使ってたであろう金属バットを持ってきている。

 猫は自慢の牙と爪がある。

 俺は拳と足でなんとか……できるかなぁ、心配。

 戦うことを想定して装備を組んでいたのだが、ゾンビは一向に現れなかった。

 あまりにも現れなさすぎて、帰って不気味に思えた。

 コンビニまでたどり着く。

 一向は無言だった。

 それだけ、不気味だった。


「……ついたな」


 やがて、その静寂を破るようにマサキが声を出した。

 それに釣られるように、俺も口を開く。


「……ああ。ゾンビが出ないうちに盗って帰ろう」


 高月は猫にもう一度周囲にゾンビがいないかを確認してもらう。


「周囲にゾンビの足音は聞こえない。問題ないだろう」


「じゃ、俺と猫は外で待ってるから早めに盗ってこい」


「わかった」


 言って、俺は入り口のすぐ横のガラス窓に寄りかかり、周囲を見回す。

 やはりゾンビが近くにいるようには思えなかった。


「……ん?」


「どうした、小僧」


 俺が疑問の声をあげると、それを聞いた猫が問う。


「よく見たらこの辺、ここのコンビニから持ち出したっぽい商品が大量に落っこちてるな」


「ふむ、それがどうかしたか?」


 いやどうってこともないんだけどさ。気になったっていうか……。ああもう、話しづれえこの猫!

 俺は頭をガシガシ掻きつつ、猫の問いに答えようとする。

 あれ、でもなんでこんな近くにコンビニの商品が落っこちてるんだ?

 そんな時、俺の頭は高速回転しだした。

 コンビニ商品の周りに血痕が見えることから、持ち出した生き残りがあそこでやられたということはわかる。

 しかし、よく見るとその数が多すぎるのだ。

 ここで万引きを図った生き残りが全員同じような地点でやられている。

 これはつまり、ゾンビに襲われたということだ。しかし、当時のゾンビはまだ大した進化もしておらず足も遅かったはずだ。なぜ逃げられなかった?

 逃げられないくらい量がいた?

 だとしたら、そいつらはどこに消えたんだ?

 道中には一体もゾンビがいなかった。

 大量のゾンビがいた場所とは思えないほど、ゾンビがいなかった。

 待て、何かが引っかかる。整理しよう。

 この近辺には大量のゾンビがいて、数多くの生き残りを同じ地点で殺し、喰った。その後、どこかに消えた。

 これ、ちょっと計画的にも見えないか。

 コンビニに誘い込んで、殺す。といった風に。


「……小僧?」


「……だとしたら、まさか」


「おい、小僧。どうした?」


 俺の予想が当たっていたとしたら、それは最悪の事態だ。

 急いで学校に戻り、脱出を図らなければならないかもしれない。


「……もしかしたら、この辺のゾンビを支配する能力持ちのゾンビがいるのかもしれない」


「なんだと? 周囲にゾンビの反応はなかったが……」


「お前は足音で判断していたはずだ。逆に言えば、敵が足音を立ててなきゃ気づけない」


「…………!!」


 猫は目を見開いた。

 そう考えれば、全て合点がいくのだ。

 俺たちは、きっとゾンビに誘い込まれたんだと。

 そしてその最悪な予想は、見事的中した。


「……囲まれてるだと!? どこから湧いたんだ、こいつら!」


 猫がついにゾンビの足音をキャッチした。が、もう遅い。

 俺たちは、ゾンビに包囲されている。

 俺は寄りかかっていたガラスを叩き割り、中にいた二人に伝えた。


「この作戦は失敗だ。今、俺たちはゾンビに囲まれてる!」


 そう伝えると、二人とも目を見開く。


「なんだって!? ど、どうしてだ!」


「知るか! ともかく逃げるぞ!」


 高月が己の計画のどこがダメだったのかを考えてる。馬鹿かこいつは、こんなときに何をしているんだ。

 そんな高月をマサキが引っ張って外に出した。

 目の前には一面、ゾンビが広がっていた。


「こ、こんなにいんのかよ!?」


 ゾンビたちは少しずつ、俺たちに近づいてきている。

 俺は深呼吸をした。

 そして。


「……飛行型のゾンビはいねえみたいだ。マサキ、猫と学校まで飛んで逃げろ。できるなら高月も乗ってけ」


「……ッッ!? また君は!」


「仕方ねえだろ! それしか方法がないんだから!」


 ゾンビにリーダーがいて、俺たちがコンビニに向かうところから想定されていたとしたら、御影さんたちまで危ないのだ。

 俺たちのような主力メンバーをなくすことが目的だったともとれる。

 だとしたら、帰れる人間は速く帰った方がいいのだ。


「……どうするんだ小僧! ちなみに私はマサキかカイトのうち一人しか乗せられないぞ! 重すぎて飛べなくなる!」


「マジかよ使えねえ!」


 猫の使えなさに肩を落としつつ、俺は考える。

 この場合、高月を先に帰した方がいいのだろう。

 しかしそうすると、非力なマサキは確実に死ぬ。俺も絶対に守りきれない。

 つまりここでマサキを捨てるかどうか、それを決めなくてはならないのだ。

 そんな考えしか浮かばないことに歯ぎしりをして、提案しようとする。


「……カイト、ジェットに乗って先に帰れ」


 マサキがそれよりはやく、そう言った。


「か、会長!? そんなことはできません! そんなことをしたら会長が!」


「俺一人のために、学校にいるみんなを見捨てる気か!?」


「そ、それは……ですが!」


 マサキは、強いな。こんな場面でも学校に残ったみんなの命を心配している。いや、マサキにとってはこんな場面だからこそなのかもしれない。

 どの道。


「時間はねえんだ、大人しく帰って学校をなんとかしろ。お前はリーダーだろうが」


 俺がそう告げると、高月は押し黙った。

 辛い決断なのはわかるが、高月には御影さんを守ってもらわなければならない。

 だから、早く帰れ。

 高月は少し悩み、そして決断した。


「……生きて、帰ってきてください」


 その目には、一粒の涙が見えた。

 高月は、猫に乗って帰った。ちゃんと食料ももたせてあるので、学校のみんなはひとまず安心だろう。

 問題は、残った俺たちだ。


「さあて、ピンチだな」


 それなのに、マサキは笑っていた。

 なにがおかしいのか。


「……はぁ、マサキはどうする気だ?」


「精一杯、やれるだけのことはやるよ。お前は、なるべく学校に向かってくれ」


「……お前馬鹿だろ」


「かもな」


 俺はマサキの言葉を聞いて、マサキが何をやろうとしているのかを理解した。

 俺はすぐそばに横転している原付を指差す。

 多分原付免許くらい持ってるだろ。


「あれに乗れるだけの時間稼ぎと道作りくらいはやってやるよ」


「おう、助かるぜ」


 俺はそう言ってから、原付周りのゾンビまで距離を詰め、一瞬にして吹き飛ばす。

 それから近くのゾンビの首を掴み、マサキが逃げるであろう方向に投げ飛ばした。それによって、道が開ける。


「マサキ!」


「サンキュー、ハルト!」


 その間にマサキは原付を動かしていた。

 そして、走り去る。俺が開いた、学校とは真逆の方向に。

 あいつはきっと、周辺のゾンビを集める気だ。

 学校に残ってるやつらが逃げやすいように、ゾンビを引きつける気だ。

 すでに何体かはマサキを追っている。


「……はぁ。とりあえずここのゾンビを全体ぶっ殺してから、マサキを追うか」


 学校には高月と猫をやった。あっちは多分なんとかなる。

 とすれば、今やるべきなのはそっちじゃなくマサキだ。


「あーあ、人助けとか俺らしくねえな。最初は他人は見捨てろ、自分の命だけを考えろって言ってたのによ」


 言いながら、手近なゾンビを殴る。


「これも、御影さんに出会ったからかね。あの子、やっぱすげえな」


 ゾンビの頭を鷲掴みにして振り回し、他のゾンビ共々叩き殺す。


「さて、俺は強大な力を手に入れました。ゾンビと渡り合える力です」


 俺は唄うように語る。


「しかしその力の限界を、俺はまだ知りません」


 語りながら、殺す。


「なので、とりあえずてめえらには実験台になってもらうぜ」


 俺は獰猛に笑う。

 戦いを、楽しむように。

 そうして。

 俺の、俺による、俺のための戦いが、始まった。

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