15 第一回脱出会議
第一回脱出会議。
体育館の崩壊により来るであろうゾンビから逃げるために、その方法や場所を決める会議だ。
それを行うことは決して悪いことではない。むしろ脱出の成功確率が上がり、良いだろう。
問題はそこではない。
問題は、そんなめんどくさい会議に、なぜ俺が参加しないといけないのかだ。
俺みたいなゾンビの考えた作戦に納得する人間なんていないだろうし、多分作戦を考える上で俺は使い潰されるだろう。マジで行く意味ねえ。
「あ、なるほど。使い潰しても良いかどうか初めに聞いておこうとそういうわけね」
自分の中で納得し、俺は生徒会室に向かった。会議は生徒会室で行われるのだそうだ。
生徒会室に入ると、案の定俺以外みんないた。御影さん、猫、高月、マサキに秋瀬さんと俺の知ってるメンバーに加え、幕下とかって教師と笹野だかって教師がいた。
「遅いぞ化け物……」
「ああ?」
なんか幕下がイライラしてる。こいつ会った時からうぜえから力の差っていうのを教えておくか。
とりあえず生徒会室の壁を蹴ってぶっ壊す。隣の部屋に誰もいないと信じる。
「誰が化け物だ無能」
「なに?」
「とぼけてんじゃねえよ。俺が食堂を助けるときにここに入ったとき、ここのリーダーやってたのは高月だったぞ。お前、そんとき何してた?」
これもね、あれだよ。力の差ってやつをわからせるための演技さ。まぁこいつのことは二度と教師だと思わないだろうけど。
俺の質問に対し、幕下は答えにくそうにする。
「どうせなんもしてねえんだろ。人の、ましてや教え子の命を見捨てる教師が何言ってんだっつの。おい、俺とお前、どっちが化け物だ?」
「その辺にしておけ、ハルト。会議が始めらんねえ」
「お、おう。スマン……」
やっべ、ちょっと畏縮しちゃったよ。これ効果あったかなぁ。マサキ怒ると怖えのな。
俺は用意されていたイスに座り、会議を傍観することにした。
「……それでは、第一回脱出会議を始めます」
会議は、高月のその言葉から始まった。
「まず、現在の状況についてまとめましょう」
会議の進行を行うのは秋瀬さんのようだ。あの人こういうの向いてそうだしね。
秋瀬さんはホワイトボードに水性マジックで書きながら進行を続ける。いや書記くらい用意しようよ。
「現在、体育館の崩壊による衝撃により、近辺のゾンビがこちらに向かい始めていると思われます」
体育館の崩壊、という秋瀬さんの言葉に、幕下がボソッと悪態をつく。
「どこかの誰かさんがぶっ壊したりしなけりゃあよぉ」
おいおい、こいつ懲りてねえ。
もう一回教えてやろうかと思ったら、それより早く秋瀬さんが対応した。
「幕下先生。どの道いずれここを出なければならなかったことは理解しているでしょう。今回はそれが早まっただけです。そのような言動は慎んで下さい」
「なにぃ!? だが、そこの化け物が体育館をぶっ壊したりしなけりゃもっと時間をかけて会議できただろう!」
「そうですね。今は時間がありません。それなのに会議の邪魔をするのですか? 二度も同じことを言わせないでくださいよ。言動を慎め」
キッと秋瀬さんが幕下を睨むと、幕下も黙った。正面から見たわけじゃないけど怖えことだけは伝わった。
「さて、近辺のゾンビが全てこちらに来てしまえば私たちは終わりです。その前に脱出する必要があります。具体的な方法について、案がある人がいれば、挙手をお願いします」
すると、御影さんが恐る恐るといった感じで手を挙げる。
「あの、マイクロバスを使うのはどうでしょうか?」
サッカー部や野球部などが使ううちのマイクロバスなら、ここに避難している生徒教師合わせて二十三人を乗せることができる。全員まとめて脱出できるというのは大きいだろう。
しかし。
「マイクロバスは移動時に音が出ます。それによってゾンビが寄ってくる可能性もあります」
なるほど、確かに。この近辺にゾンビが集まっている以上、音が出るマイクロバスは危険だ。
それに反論する気か、高月が挙手した。
「いや、マイクロバスでも問題ないでしょう。俺やジェットやハルトがマイクロバスには乗らずに走って、寄ってくるゾンビを倒していけば」
「なるほど、しかしそれでも危険が……」
まぁ確かにそうなるわな。で、あればあと必要なのはあれだろ。
俺は、挙手した。
「だったら俺が学校に残る。放送室から爆音で音楽かなんか流せばゾンビもこっちくるだろ」
俺の意見に、幕下を除くみんなはため息をつく。え、なんでよ。
「囮……ですか」
「効率的なのはわかるけどな……」
マサキや秋瀬さんは賛成じゃなさそうだ。そして、御影さんも。
御影さんはバンッと机を叩く。
「冗談じゃありません! そんなの認めませんよ!」
「え、なんでよ?」
俺的にはいい案だと思ったんだがなぁ。
俺は頬杖をついたまま、御影さんの反論を待つ。
「だって、そんなことしたら先輩が……」
ああ、ひょっとして俺が自殺する気だと思ってんのか。そんなわけないでしょ。
「いやいや音楽流したらさすがに逃げるわ、死にたくないし」
「え? あ、ああそうなんですか」
「身体能力的にも思考能力的にも俺が一番囮向きだろうしってだけだよ」
「それなら、まぁ……ってダメですよ! 先輩が危険なことは変わらないじゃないですか!」
あ、ダメなの。いやいやこれ以外ないでしょ。ここで負けちゃダメだ。押しきろう。
「えー、猫も高月も危険なんだぞ。大丈夫大丈夫。それに俺ここじゃ邪魔みたいだし、お前ら以外大賛成だぞきっと」
「そ、それは……」
俺がまくし立てると、さすがに反論できないようで、御影さんは項垂れる。勝ったぜ。なにこの達成感の無さ。
すると高月がため息をついてから、口を開く。
「それじゃ、移動方法についてはそれで行きましょう。僕とジェットがマイクロバスの守り、ハルトが校舎で囮をやる。ハルトはある程度ゾンビを引きつけたらこちらにくる、とこんな感じですかね」
高月は作戦の案についてまとめると全員を一瞥し、異議がないことを確認した。
「異議もないようなので、これにて第一回脱出会議を終わります」
「待ってください、一つだけいいですか?」
高月が会議を終わらそうとすると、今まで何も言わなかった笹野という女教師が挙手した。んだよ、やっと終わったと思ったのに。
「笹野先生、どうしました?」
高月が笹野に訊くと、笹野は少し答えづらそうにしてから、意を決たように話した。
「実は、皆さんの食料だったお弁当があと三日分しかないんです」
これには、全員が目を見開いた。てか弁当の管理、アンタがやってたんだね。
「ふむ、それは大変ですね」
「確か、近くにコンビニがあったな。明日の早朝、万引きに行くんでよくね?」
俺はすぐに会議を終わらせたいので、挙手もせずに意見を出した。いや、もうすぐ夜なんだぜ? 寝たいよ、俺。
「それしか……ないな。よし、明日の早朝、僕とハルトとジェットと会長で近辺の様子見も兼ねて行きましょう。異議はありますか?」
「えー、俺も行くの? めんどくせ」
あ、つい本音が漏れた。幕下が俺のこと睨んでる。睨み返しとく。
「君はここで最大の戦力の一つなんだ、仕事してくれ」
「うひー、働きたくねぇー」
俺は机に突っ伏す。遅寝遅起きができねーじゃねぇか。
「他に異議はないですね。それでは、これにて第一回脱出会議を終わります」
そうして、第一回脱出会議は終わった。
明日に向けて、早めに寝ないと。めんどくせーなぁ。