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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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13 俺TUEEEEはできない模様

「がああああっ!? 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!」


 俺は今、ミスって体育館から出てきてしまった進化ゾンビに喰われている。

 出てきた進化ゾンビは三体。余程腹が減っていたのか足、腹、腕と喰える場所はボリボリ喰っている。

 自分の肉が減っていくことはわかるのになぜか気絶もしなければ痛みもそのままなことに驚く。


「くっそ……痛え、つーんだよ!!」


 せっかくゾンビ化を防いだというのに、またゾンビ化が確定した。本当ついてねえよ、俺。

 つかこれゾンビ化できんのかな、肉全部喰われてゾンビ化の前に死ぬ気がするぞ。


「……ん? ゾンビ化を、防いだ?」


 考えてみたら、俺はどうやってゾンビ化を防いだんだ? それにゾンビに喰われた傷も消えていたし。

 そうだ、から揚げを食べたんだ。

 なにか、食べ物ないか。食べ物があれば俺はまだ戦えるんだ。


「……食べ物、あるじゃねえか」


 俺を喰ってるゾンビを喰えばいい。衛生面? 知ったことか、今は一大事だからな。

 そうだ、喰わないと、喰わないと。

 ゾンビになんてなってたまるか。





 気づくと体育館にはゾンビが一体もいなかった。

 俺が全て喰ったからだ。

 傷は全快していた。痛みもない。

 俺は勝った。

 何百といたゾンビに勝ったんだ。


「まさか、オレ以外にゾンビ人間が出てくるとはな」


 喜びに浸っていると、声が聞こえた。誰だ、俺の喜びを邪魔するやつは。


「ああ、気にすんな。オレは敵じゃない。てかオマエと同種だ」


 声の主は体育館の壇上にいた。

 もはや壇上よりも山のように積まれたゾンビの上にいる俺の方が高く、俺が見下ろす構図になる。


「俺と……同種?」


「ああ、オレも人間の心っつーの? まぁ、そんなんを持ってるゾンビだ」


 言ってることがよく頭に入らない。だが、敵じゃないというのは本当らしい。殺意を感じない。


「オレの方がゾンビ化の先輩だからアドバイスしておくが、オマエは今、心がゾンビ化しようとしていて不安定な状態だ」


「……心までゾンビ化したらどうなる?」


「オレみたいになる、とだけ言っておく。ちなみに心までゾンビ化するのを勧めておくぜ」


 同種は、不敵に笑ってそう言った。


「なんでだ?」


「ゾンビの身体になった時点で、人間には認められない。ならいっそ、心までゾンビ化した方がいい。ってのは建て前で、その方が楽しいってのが本音だ」


「わけわからん、つまりどういうことだ」


 すると同種は豪快に笑い、そして言った。





「本能のままに生きていたいとは、思わねえのか?」









※※※





 ゾンビになった俺、風見晴人の身体能力は、人間だったときとは段違いに上昇している。

 それは共食いを行ったからだ。

 ゾンビは共食いを行うと強化される性質があるらしい。

 俺の見てきた例を挙げると、両手にチェーンソーを生やしていたり、羽が生えたり、身体能力が上がったりと様々だ。おそらく学校の外のゾンビはこれ以上に多種多様に変化しているのだろう。外に出たくなくなったわ。

 そして目の前でチェーンソーを振りかぶる高月もまた、ゾンビの変化を利用した。

 しかしそれは、ゾンビとなった身体を利用する俺とは違う。

 ゾンビの変化した部分を奪い、身につけることで自身を強しているのだ。

 チェーンソーとスニーカー。

 共に厄介な装備だ。

 チェーンソーには、『斬りたいと思ったものを斬る能力』がある。これは詳しく確かめてはいないが、おそらくどんな物質だろうと切り落とせるのだろう。

 スニーカーには、『身体能力の上昇』という効果がある。これによって、オリンピック選手を超えるほどの身体能力を得ることができ、ゾンビとなった俺とも渡り合えるのだ。

 勝負は、俺の方が不利と言える。

 が。


「そんな細かい理論だけで、勝負は決まらねえんだよ」


 振り下ろされたチェーンソーを紙一重でかわし、チェーンソーを握る腕を掴んで投げ飛ばした。

 空中に投げ飛ばされた高月はスニーカーの効果を利用し、体勢を整え、壁に着地した。

 俺は動きの止まった高月に目掛けて落ちていた天井の欠片を蹴飛ばした。

 銃弾のような速度でとんだ天井の欠片も、高月はチェーンソーの腹で難なく弾く。

 俺がゾンビになったことで得た力は、『身体能力の上昇』と『力の上昇』だろう。高月を倒すには足りない力だ。


「それを使ってなんとかしないといけないんだから大変なんだよな」


 高月が壁を蹴った。

 凄まじい速度でこちらに迫る。

 だが相手は今、空中にいる。

 俺は床を踏み砕き、蹴飛ばせる欠片を量産すると、それら全てを高月に向けて撃ち出した。

 ショットガンの如く放たれた欠片は、高月の恐るべき身体能力とチェーンソーによってその全てが弾かれる。


「うそぉ!?」


 驚いている暇はない。早急に避けなければ、ぶっちゃけヤバイ。


「ッッッ!? あっぶねぇ!!」


 なんとか全力で伏せることで、高月の速度を伴った一撃は避けることに成功した。


「らぁっ!」


「くっ……!!」


 俺は伏せた姿勢から腰を捻り、回し蹴りのような形で近くに着地した高月に攻撃を加える。

 着地したばかりで体勢の整っていない高月は、これをチェーンソーの腹でなんとか防いだものの、俺のゾンビ化によって得た力の上昇でチェーンソーの刃が折れた。

 空中を回転する刃を掴み取り、ようやく俺も武器を手にした。いや、チェーンソーのときみたく刃が回転してないから高月が持ってるもう一つのチェーンソーと対等かはわかんないんだけどね。

 俺は刃を手にすると、一気に攻撃を仕掛ける。できるならここで無力化したいところだが、生憎体勢を整えてしまった高月を相手にそれは厳しかった。

 何度か刃を打ち合わせ、刃の欠片でも十分通用することがわかると、俺は一旦退くことにした。


「おまっ……強すぎだろこの野郎!!」


 数十メートル距離を取ってから、高月に不満を言う。仕方ないじゃない、チートを得てゾンビ世界で無双できると思ってたんだもの。俺TUEEEEはできないっぽい。


「そういう君こそなんなんだ!! チェーンソーを折るとか、ふざけるなよ! 僕の大事な武器だぞ!!」


「自分の母さんを武器とか言うなよ!!」


「僕の母さんはチェーンソーなんか生えてない、つまり母さんゾンビのこの部分は母さんじゃない」


「変な理論で納得してんじゃねえ!!」


 子供じみた口論が続くと、これで決着つけてもいいんじゃねと思ってしまうが、相手にそんなつもりはないらしい。頑固なやつだぜ。

 高月は折れたチェーンソーを捨て、一刀流となると、再び俺に向けて床を蹴った。

 俺は人差し指と中指と親指を器用に使ってカードを持つようにチェーンソーの破片を持つと、高月のチェーンソーをいなしつつ応戦する。


「……なぁ、君は僕と初めて話したときのことを覚えているかい?」


 チェーンソー同士を打ち合わせていると、ふと高月がそんなことを訊いてきた。何言ってんだこいつ。


「覚えてねえっつーか、お前とまともに話した記憶がねえよっ!」


「……そうか。あの時の君は僕のできなかったことをしていて、すごい人だなぁと思っていたんだけどな」


「何の話か知らんが、少なくとも俺はお前に尊敬されることをした覚えはねえよ」


「……覚えていないのか、自覚がないのかわからないが、あの時、僕は君のことを尊敬していたよ」


「キメェよお前!! マザコンの次はホモか!! どんどん残念イケメンに染まってくぞ!!」


「なにっ!? 僕はマザコンでもホモでもない!! それに残念イケメンってなんだ!!」


 しまった、高月が怒ってちょっと強くなった気がする。でも仕方ないよね、キモいし。

 俺は高月から距離を取りたいのだが、それを高月は許さない。

 防御に徹していなければ危うくなるほどの連撃になんとか持ち堪えるのが精一杯だった。多分こいつを倒すには体育館をぶっ壊すくらいしないとだめだな。ん、体育館ぶっ壊す? いいなそれ、やろう。

 俺の顔が悪辣に歪むと、高月は何かが起こると察し、それを許さないとさらに連撃の色を濃くする。

 それを全ていなすと、高月のチェーンソーを上に弾いた。


「しまっ……!?」


「御影さん、マサキ、あと化け猫!! 急いで体育館から出ろ!!」


「お、おい馬鹿何する気だ!?」


「それは起こってからのお楽しみだ!!」


 俺は床を全力で蹴り、体育館の壁を走って天井に空いていた穴から外に出る。


「はーっはっはっは! 喰らええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!」


 そして体育館の天井を外側から思い切り蹴飛ばした。

 その衝撃は体育館の全てに伝播する。

 そして。



 ズ、ズン……!! と。



 あまりにも大きなものが崩れるような音と共に、体育館が崩壊した。


「か、かかか風見先輩の馬鹿ぁ――――ッ!!」


「ご主人は私が守る、さあっ乗るんだ!!」


「ちょ、俺を置いてくな馬鹿死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって本当ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイッッッ!!」


 そんな声を小耳に挟み、ちゃんとみんな逃げだせたようだと笑顔。

 空中で体勢を整え、あとは高月が行動不能になってればいいなと思っていると、全然そんなことはなかった。


「こっ……の馬鹿野郎!!」


 なんかすごい怒ってた。

 チェーンソーを器用に使って瓦礫の雨は防いだらしいが、俺の馬鹿すぎる戦法に呆れ、戦意は喪失したらしい。


「君が体育館を壊したせいで学校周りのゾンビがみんなここにきてしまうじゃないか!!」


 なんかこっちを指差して怒ってる。

 でもそっか、考えてなかったな。


「あっやべ」


「あっやべ、じゃないだろぉ!! どうするんだよゾンビが一斉にこっちに来たら!! さすがに死ぬぞ!!」


「まぁいっか」


「よくないだろぉぉぉ!?」


 なんか泣きそうな声で怒ってるぞこいつ。あ、そっか。こいつ生き残り組のリーダーなんだ。焦って当然だ。


「ったく、戦う気もなくなった。君にも協力してもらうぞ!」


「ほう、仲間に入れてくれると」


「一時休戦だと言ってるんだ!!」


「お前……マザコン、ホモにツンデレとか本当誰得だよ……」


「うるさいな馬鹿!!」


 何はともあれ、俺たちはこんな形でまとまった(?)。

 来る大量のゾンビの襲撃に備えるということが、当面の目標となる。

 その後は、その後考えればいい。

 後回しにするのはよくない、とはよく聞くが、目先の問題が解決していない状態で多くの問題を抱え込むのはよくない。

 問題は一つずつ解決していくべきなのだ。





 そうして、俺はこの先に待つ絶望から、綺麗に目を逸らしたのだった。

ゾンビものなのに全然サバイバルしてなくてすいません。

次回からサバイバルが始まるかと……!!

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