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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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11 体育館で待つ絶望

 俺と詩穂は、体育館にゾンビを集めていた。それは学校に残った人に少しでも安心してもらえるようにと思っての行動だ。

 しかしそれが裏目にでた。

 もしかしたら、体育館では今、腹を空かせたゾンビたちが喰いあって、最強のゾンビが生まれているかもしれない。

 それは、はっきり言ってまずい。

 壁を斬るゾンビやジェットのようなゾンビが何体もあらわれ、かつ敵に回ってしまえば俺たちに勝ち目はないだろう。

 幸い、こちらにはジェットがいる。

 最悪な状況になっても、全滅ということはないはずだ。

 体育館の状況を知るために編成されたメンバーは、俺とジェットとナオ。詩穂はなんとか説得して置いてきた。


「なんでナオは置いてきちゃいけないんだよ」


「なぜ貴様と二人で危険な場所に行かなければならない」


「お前、ナオが危険な目にあったらどうすんだよ!」


「それはない、ご主人は私が命をかけても守る」


「い、命までかけなくていいよ!」


「そういうわけにはいかんのだご主人。恩には報いる、私が決めたことだ」


 もう本当猫らしくない猫だ。

 偏見かもしれないが、猫は自由奔放なイメージがある。むしろそのセリフは犬から聞きたかった。


「それにしてもナオはモテるよなぁ。ハルトといいジェットといい詩穂といい。学校でも何回か告られてたらしいしな」


「そ、そんなことないですよっ!」


「ふん、私の飼い主だ。当たり前であろう」


 顔を真っ赤にしてブンブン手を振るナオとなぜか誇らしげなジェット。

 よく考えるとハルトもジェットも詩穂もナオに対して態度が明らかにおかしいよな。そういうフェロモンとかでてんのかな。


「でもそんなモテるのに、なんで彼氏いないんだ?」


「どこの馬の骨とも知らんやつにご主人が振り向くわけないだろう」


「お前黙ってろ」


 さっきからこの猫すげえうるせえ。親父じゃねえんだから、馬の骨とか言うなよ。


「んで、やっぱりカイト狙ってるからだったり?」


「え、えっと。そのぉ……高月先輩もかっこいいから気にはなってはいますが……狙ってるつもりはないです」


「ほうほう、ハルトにもチャンスはあると」


「生徒会長ぉー!」


「わかってるわかってる、冗談だよ」


 この辺でいじるのやめとかないと後ろの猫に殺されそうだからな。

 体育館は近づいていた。





※※※





「うっわぁ……マジか」


 進化ゾンビと高月を倒した俺、風見晴人は体育館前にいた。

 体育館ではスピーカーを使って音を流すことでゾンビを一箇所に集めていたようだが、思ったよりもその数は少ない。おそらく俺の予想が正しければ、喰いあったのだろう。

 それでも俺一人ではなんとかならないレベルの人数だ。ざっと三百体はいそう。よくこんなに集められたなと思った。


「こりゃ無理だ。諦めて引き返そう」


 と振り返って防火扉に戻ろうとしたとき。

 ゴオンッ! と。

 金属製の柱に、思いっきり頭をぶつけた。


「いったぁ!? おぉー、いってぇ……うっわマジかよ……」


 体育館の中のゾンビのうち数体がこちらを向いた、と思ったときには扉にたどり着いて体当たりしていた。


「み、見えなかった……なにあれ……」


 ぱっと見だと身体能力が『進化』したゾンビにも見える。走るゾンビとかなんだよ! 聞いてないよ! てかあんなの逃げ切れないよ!

 体育館の扉はゾンビの体当たりでガタガタ揺れている。ゾンビの体当たりのせいで扉にも限界がきたのか、ミシミシと音を立て始めた。


「まずいまずいまずいって! こんなのがこの外に出たら終わるって!」


 とはいえどうしたらいいかもわからないまま焦っていると、扉は壊れてしまった。

 壊れた扉から、『進化』したと思われるゾンビがぞろぞろと出てくる。

 終わったぜ。

 俺のせいでこの学校のみんなが。


「いやいやいやっ! 御影さんが死んじまうのは困る!!」


 踏ん張れ、最期まで。

 殺られる前に殺り尽くせ。

 大丈夫だ、殺せば終わる。

 ここでぶっ殺してしまえば、御影さんは安全なのだから。

 俺がやる。

 覚悟は、決まった。





※※※





 私たちは、体育館まで走っていた。

 ガアンッという大きな音が聞こえたからだ。

 私、御影奈央は不安だった。

 今防火扉の外にいるのは高月先輩と風見先輩。

 体育館から音が聞こえたということは、その二人のどちらかが、あるいはどちらもが、危険かもしれないということなのだ。

 そして、体育館の前までたどり着いた。


「扉が……開いてる!?」


「でも道中にゾンビなんていなかったぞ……」


「とにかく中に入らんことには状況が読めん。入るぞ」


 そう言うジェットを見ると、なぜか怯えてるようにも見えた。

 なにか、強大ななにかに。

 私は深呼吸して、体育館へと足を踏み入れた。





 体育館は生きている人間がいるようには見えなかった。

 それだけ死体が転がっているからだ。

 そして体育館のステージのあたりには死体の山ができている。

 その光景に、私たちは皆驚いていた。

 驚いて、誰も声を出せなかった。

 なぜなら。


「あれ? 御影さん、生きてたんだ。そっちはマサキか。よかったよかった。その羽生やした猫は……まぁ安全みたいだな」


 死体の山の上で死体を喰っている者が、いたから。


「お前は……」


 生徒会長はその名を口にしかけて、止まる。

 きっと口にしかけた名前の人物だと信じたくなかったからだろう。

 私も、目の前の者が彼だと信じたくなかった。


「そんな驚かないでくれよ、こっちだって『人間』なんだから」


 死体を喰らう姿を見ていると、それが自分と同じ人間だとはとても思えなかった。

 とても強いだろうジェットですら、怯えてるのが伝わる。そんな人物が人間にはとても思えない。

 目の前の『人間』は、齧っていた死体の右腕を後ろに投げて、死体の山の上に立ち上がった。

 投げられた右腕がベチャッという不快な音を立てて落下したのも気に留めずに、笑顔でこちらを見て『人間』は名乗った。

 私たちのよく知っている名前を。


「よう、風見晴人だ。会いたかったぜ、御影さん」


 『人間』が名乗り、そして私の名を呼んだ。

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