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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第一章『学校の脱出』
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10 高等学校の猫飼い

「考えてみたら、防火扉って外側から開けられなくね?」


「気づくの遅いよっ!!」


 ハルトに逃げろと言われ、逃げ出した俺、永井雅樹は防火扉の前まで来てからそんな事実に気づいた。


「で、でも詩穂だって気づいてなかったじゃないか」


「むぅ、それはそうだけど……」


 うーん、どうしたらいいんだろうなこれ。防火扉を叩いても多分無駄だろうしなぁ。

 おそらく防火扉を叩いたらゾンビが来たのだと勘違いされるだろう。


「防火扉を叩いたらゾンビだと勘違いされる……それならゾンビだと勘違いされない場所を叩けばいいんじゃね」


「……言ってる意味がよくわかんないんだけど」


「だから、例えば窓とか。三階の窓を叩く、ゾンビは三階の窓を叩く術がないから、必然的に窓を叩いたのが人だと判断される。そしたら防火扉を開けてもらえばいい」


「な、なるほど」


 いや、でもぶっちゃけ窓どうやって叩くか決めてないんだけどな。どうしよ。


「窓を叩くのには石とか投げ当てるわけね。さすがに頭が回るわね、マサキ」


「お、おう。だろ、ハハッ!」


 ごめん、そこまで考えてなかった。

 そしてグッジョブ詩穂!





「うーん、思ったより三階って高いなぁ」


 俺は今、詩穂と一緒に校庭にいた。

 三階の人間に防火扉を開けてもらうためだ。

 俺は落ちていた石を拾い、手のひらで転がしているものの、力加減がよくわからない。ミスって窓割っちゃっても大丈夫かなぁ。


「ごちゃごちゃ言ってないではやくやりなさいよ!」


「そ、そうだな。ハルトのこともあるし……」


 金属同士のぶつかる音は階段を降りている最中にも聞こえた。おそらく今戦っているのだろう。


「まだ死んでないってのがすげえな」


 そこで俺は持っていた石を投げた。

 石は野球のフライに似た弧をを描いて飛び、パリーンと窓ガラスを割った。


「あ、やっべ」


「ち、ちょっと!?」


 ま、まぁこれも生きるためだし仕方ないよね。とか考えていたら、詩穂の焦りようが尋常じゃないことに気づく。ちょ、服引っ張んないで!


「いやいや、そんな焦ることないだろ?」


「ま、窓じゃなくて……あれ」


 そう言って詩穂が指差した先には。



 一匹の猫がいた。

 背に黒い翼を生やした、人間ほどもある大きな猫が。


「……なんだあれ」


「わ、わかんないけど……普通の猫じゃないよ!」


「そ、そうだな……」


 内心焦りつつも、猫を見る。

 猫は唸ってはいるが攻撃をしようとしているようには見えない。

 様子を見ているのだろうか。

 いざってときもある、武器だけは構えておこう。


「シャーッ……」


「…………」


 待て待てこの空気なんだよ、重いよ。決戦前みたいじゃん。いや戦いたくないけど。

 すると、その心が読まれたのか猫の方から動いた。


「ガウッ!!」


 ドンッ! と地を蹴る音が聞こえたかと思うと、もうすでに猫は目の前に来ていた。


「はっや……!?」


 ギリギリでなんとか身を捻り、致命傷だけは避ける。

 制服に猫の爪が引っかかって破け、その下の肌からは血がでていた。


「やるなぁ、おい……」


 正直勝てる気がしない。

 猫が俺だけをターゲットにしているのがまだ救いと言うべきか。

 なんとか詩穂だけでも守らなければ。

 そう思っていたのだが、自体はさらに深刻になった。


「せ、生徒会長!? 大丈夫ですか!?」


 俺が割った窓から身を乗り出すようにして、茶髪の女の子が顔を出した。勘弁してくれ、と思ったら俺のせいだこれ。


「大丈夫だから伏せろッ!!」


 と言ったときにはすでに遅く、猫は背の翼をはためかせ、空を銃弾のように飛んでいた。

 猫は窓を叩き割り、三階へ進入。茶髪の女の子、御影奈央の上に覆い被さるように着地した。

 相手はもう三階にいる、こちらからは手の出しようがない。

 どうしたらいいかという焦りが俺を支配する中、自体はナオの驚きのような声で収束する。


「……もしかして、ジェット!?」


 ……なんだその名前は。

 俺が場違いにも抱いた感想だった。

 そして、ジェットと呼ばれた猫がその口を開く。


「探したぞご主人。元気であって何よりだ」


「誰だよっ!?」


「うるさいゴミだな、潰すぞ」


 猫が日本語喋ってたり少しおっさんっぽい渋いイケボだったり突っ込みどころが多すぎて思わず校庭から突っ込んでしまった。


「ジェット!? 生きてたんだね、良かったぁ……」


「と思ったが、ご主人のこの笑顔を崩すわけにもいかないために見逃してやろう」


「お前なんなの!?」


 猫の癖にハルトに似た感覚を味わい頭を抑える。


「生徒会長たち、こっちに来たいんですよね? えっと……あれ、本当にジェット?」


 言いたいことがよくわかりません。

 疑問は一つずつ消化しようね、御影さん。


「私は確かにご主人に体育館裏で見つけられ育てられたジェットだ。異常な空腹感に抗えず近くの人間を喰っていたらこうなった」


「た、食べちゃったの……?」


「だが大丈夫だご主人。私は死体だけを選んだ。人間はゾンビと言っていたか? それのみに絞った」


「あ、そうなんだ。エライねジェット」


 エライのか……?

 ナオが笑顔でジェットの頭を撫でると、ジェットもゴロゴロ言いだす。満足そうだ。ところでJKに撫でられて喜ぶおっさん声の生き物って絵面最悪なんだけど、誰かなんとかして。

 ナオはひとしきり撫でると、ジェットにひとつ頼みごとをした。


「ジェット、生徒会長と副会長をここまで乗せてこれる?」


「任された」


 ジェットは銃弾の如き速さで俺のすぐ横に着地すると、早く乗れと頭の動きで示す。なんなのこの猫。

 とりあえず、俺と詩穂はジェットの背に乗って防火扉の中へたどり着いた。





「か、風見先輩が生きてる!?」


 俺は防火扉の中についてすぐにハルトの状況について説明する。カイト、防火扉の中のグループのリーダーが現在いないため、相手がナオになった。


「良かった……生きてるんだ……」


 ナオはその事実に安堵を隠さない。

 すると俺の横から詩穂がひょっこり顔を出して訊いた。


「ところで、告白されたって聞いたんだけど、返事はどうしたのよ?」


「ふぇぇ!? へ、返事ですか!?」


「顔真っ赤にしちゃってー、ナオは可愛いなぁー」


 実は詩穂はナオに対してだけ普段とは違った態度を見せることがある。今もなんかナオの頬をツンツンしてるし。初見の人からすると揃ってあんた誰? なんだよな。


「その……いきなりだったから、考えてなくて……」


「そーだねぇ、じっくり考えるといいよー」


「ふ、副会長。アドバイスありがとうございます」


「いえいえー、高月と迷うよねぇー」


「ふ、副会長ぉーっ!」


 なんかナオが瞳を潤ませて詩穂の胸をドンドン叩いてる。話が全く進まねえ。


「ところで、そのハルトの状況だが。はっきり言ってピンチだ」


 このまま待っていても終わらない気がしたため、強引に話を変えた。

 さすがは生徒会と言うべきか、二人とも俺が真剣に話そうとしていることに気づいたようで、行動を中断した。


「ナオの猫みたいに、なんか強化されたゾンビと単独で戦ってる」


「そ、そんなっ!?」


「すぐに向かった方がいいんじゃないか?」


「いや、向かう必要はないだろう」


 ジェットはなぜか、俺の提案をすぐに否定した。


「じ、ジェット!? なんで!?」


「戦闘音が聞こえない、代わりに聞こえるのは男二人の怒鳴り声。そこの男が言ったゾンビはすでに倒されていると見ていいだろう」


「はぁ!? マジかよ、あいつあんなのを倒したのか……」


「良かったぁ……」


 ジェットは耳を動かし、三階からハルトの状況を把握しようとする。

 改めて考えると、ジェットすげえ。


「……なら、今のうちに考察をある程度進めたい」


「考察、なんの?」


「ハルトが相手したゾンビと、ジェット。この二人は明らかに他のゾンビとは違う。その理由の考察だ」


「ああ、それならおそらくゾンビを喰らったからだろう」


「答え出ちゃったよ!!」


 さっきから俺が全く活躍できてない。いやいや待て待て、まだもう一個考察すべき内容がある。それで活躍しよう、そうしよう。


「ゴホン、疑問はもう一つある。ハルトのことだ。あいつは確かにゾンビに噛まれたはずだ。それが無傷で蘇った理由はなんだ?」


「風見先輩は確かにゾンビに噛まれていました。私を……庇って……」


 ナオはおそらくその時何もできなかったのだろう。悔しさがよく伝わる。


「確か、風見は告白か食事のどちらかに可能性があるって言ってたっけ?」


「ふむ。その二つのうちなら私は食事にあると思うが」


「ジェット、どうして?」


「ゾンビがゾンビを喰えばゾンビ化はより進行、人間を喰えばそのまま、ときたらそれ以外を食えば元に戻ると?」


「ああ若造、その通りだ」


 やったー俺、ついに活躍できたー! なんかジェットが「今言おうとしたのに」って顔してるけどほっとこう。

 すると詩穂がなぜか考えこんでいることに気づいた。

 どうした? と聞く前に、詩穂は答えてくれた。


「っていうかさ。ゾンビ同士が喰いあって強くなるんだとしたら、学校のゾンビを体育館に集めてあるのってまずくない?」


 場の全員が、息を飲んだ瞬間だった。

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