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興梠探偵社へようこそ!☆ file:12 完結!天使の迷宮   作者: sanpo
file:7 井戸を覗く少女

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井戸を覗く少女 7

 



 かくして昭和1✖年、1月某日土曜日の午後。

 K2中学校公認探偵&助手コンビ、海府志儀(かいふしぎ)内輪若葉(うちわわかば)は若葉の実家に赴き計画通りの行動を取った。

 若葉の母、千羽子(ちわこ)の特製ホットケーキをおやつに食べ、美味しい夕食も存分に堪能し、のんびり風呂にも浸かった。

 その後で、湯上りのタオルを首にかけたまま若葉は神妙な顔で母に切り出した。

「ママ、僕と志儀君はこれから夜を徹して男同士の大切な話をするつもりだから邪魔はしないでよ? 夜食はいらない。朝まで絶対に部屋を覗かないで。近寄るのもダメだからね?」

 冷たい牛乳を差し出しながら頷く母。

「はいはい、わかっててよ」

「待て、チワワ」

 志儀は慌てて若葉のパジャマの袖を引っぱった。ひそひそ声で、

「夜食はOKだ」

「え?」

「ほら、探索から戻った時、きっとおなかがすいてるはずだから。な?」

「そうか。じゃ、ママ、やっぱり夜食はお願いするよ。ドアの前へ置いといて。でも、くれぐれも、絶対、僕の部屋には入らないでよ?」

「了解!」

 一人息子と同じ円らな瞳を煌かせて内輪夫人は請け負った。宣誓するごとく右手を上げて(何せ元宝塚少女歌劇団員なので、この種の芝居がかったポーズは完璧である)

「男の友情についてママは理解しております! 貴方たちの仲を壊すような愚かな真似は決していたしませんっ!」


 

 真夜中。

 二人は一旦着たパジャマを着替えると、部屋の窓から抜け出し、井戸へと向かった。

 二人ともリュックをしょっている。探索となるとこの方がいい。井戸の底へ降りるための万全のスタイルを心がけているのだ。

 さて、志儀の情報どおりその夜は満月で夜道はカンテラなしで充分明るかった。意気込んでいるので寒さも感じない。サクサクと冬枯れの道を踏んで、あっという間に目的地に到着した。


 二人はまず井戸を塞いでいる覆いの部分を取り除いた。

 内輪家の大工道具を借りて来たので、何てことはない、簡単な作業だった。

 いつ取り付けたのか定かではないが風雨に曝されて破損の目立つソレをべリべリと剥がす。

 その後で、持参した登山用ロープを井戸の周囲に幾重にも巻きつけ、その先端を井戸の中へ垂らした。 その際、幾つか結び目を作って井戸から帰還する時に足を引っ掛けて登り易くした。

「攀じ登るのは体育の教練でやる〈棒登り〉の要領だ。軽いもんさ!」

 カンテラに蝋燭にマッチ……リュックの中身を点検する。軍手を嵌め、タオルは首に巻いた。こうすれば必要な場合、すぐに鼻に引き上げてマスク代わりになる。

 さあ、いよいよ本番だ。志儀はクルリと翻って若葉と向き合った。

「じゃ、僕がまず最初に降りるよ。君はここで待っててくれ」

「えっ!」

 若葉は露骨に慌てた。

「僕も一緒に降りるよ?」

「いや、とりあえずは僕一人でいい。君はここで待っててくれ」

「いや、そうはいかない! ここは僕の家の井戸だし……そもそも、この件を持ち込んだのは僕だもの。君だけに任せられない。僕も降りるよ!」

「へえ? 見直したよ、チワワ!」

 志儀は感動して叫んだ。

「僕、君は内心怖がっているものと思ってた! 流石、僕の助手だけの事はある!」

「ひどいよ、志儀君、僕をそんな弱虫だと思ってたのか! やだなあ、ハハハ……」

 真相は……

 若葉は一人になるのが怖かったのだ。

 満月とはいえ、夜の雑木林は森閑と静まり返って、井戸を取り巻く木々はどれも人の形に見える。今にも飛びかかって来そうだ。こんな所に独り残されたら……

 ブルル…… 

 それくらいなら友にピッタリとくっついていた方が遥かにマシだ! たとえもう一人(死骸)がいたとしても。

「志儀君! 絶対、僕も一緒に行くからねっ! 置いてくなんて言いっこ無しだよ!」

「君がそこまで言うなら――」

 友の固い意志を志儀は尊重した。

「わかった! そういうことなら2人とも(・・・・)降りよう!」

 

 ああ、これが全ての元凶だった……!


「まず、僕が降りる。君は続けて降りて来て」

「OK」

 言葉通り、志儀はロープを掴むや、勢いよく井戸の口に飛び込んだ。

 時間を置かず、すぐさま若葉が後を追う。

 井戸の深さは5メートルくらいだろうか。それとも8メートル?

 月の明るい晩ではあったが、予想以上に井戸の内部は暗かった。

 暗いと距離感が麻痺する。

 ロープを伝って降りながら、志儀は〝底〟がどんどん遠退(とおの)いて行くような、ひょっとしてこのまま永久に降り続けなければならないような、奇妙な錯覚に囚われた。

 変だな? もうそろそろ底に着いてもいい頃じゃないか? 

 え? まだあるのかよ? 長いな? 何にも見えないし。

 おいおい、井戸ってこんなに深いものなの? これじゃ地球の裏側へ突き抜けちゃうよ?

 ままよ。

 この暗がりもじきに終わる。底に着いてしまえば灯りを点けられるしな。さあ、もう少しの辛抱だ――?

「!」


 瞬間、何が起こったのか志儀には理解できなかった。


「え?」

「ゴメン、しぎ……くん……」

「うわっ――」

 

 要するに、後から降りて来ていた若葉が手を滑らせて、落下したのだ。

 先に下りていた志儀を巻き込んで、もろともに二人は井戸の底へ墜ちて行った――


「ぎゃあああ!」





 

 



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