中学校の怪事件 プロローグ
「僕を呼び出したのは君か?」
不気味にはためくカーテン。
窓が開け放たれている。こんな時間だというのに?
「君は一体、誰だい? そして、また、なんだって僕を――」
くぐもった含み笑いが質問を遮った。
「なに、呼び出された意味などわからなくてもいい。
謎を解くのは君の役ではないのだから」
「じゃ、僕の〝役〟は何なのだ?」
背中を流れる冷たい汗。不穏な予感を感じて後ずさりを始める。
「いい質問だ!」
もはや憚ることなく、声は高々と笑い出す。
「君は……〈最初の犠牲者〉というわけさ!」
「?」
「これは僕の劇場! 今まさに僕の芝居の幕が斬って落とされる……!」
「ぎやああああーーー」
鮮血がカーテンに飛び散った。
刹那、群雲が風に流されて、
昏倒した制服姿の〈犠牲者〉が月の光に浮び上がった。
だが、もう一人、
〈襲撃者〉の姿は濃い闇に溶けたままだ。
夜の教室に響き渡る嗚咽のような笑い。或いは笑いのような嗚咽。
「あーははははは……」
血塗れの体に一片の雪のごとく白い紙片がゆっくりと舞い落ちて行く……
「あはははは……」
✙ 1938(昭和13年)9月 5日 月曜日 ✙




