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コンキンさん 2016年5月15日 10

「いのちをとられるって……」


男が愕然とした表情で繰り返す。


「殺されるってことだけど」

「い、いくら俺でもそれくらい分かるわ!」


大声で怒鳴って、ちょっと元気が出たようだ。


「け、結界って、陰陽師みたいなやつか? なんか、ヒトガタ飛ばしたり」

「そんなもの飛ばさないよ。陰陽師とも関係ないし」


俺は草原に向けて順番に三方を指して見せ、最後に近くにある四つめの祠を指差した。


「──こう、四方に置かれている祠を線で繋いだら四角形になる。分かるか? その四角形が結界だ。もしもコンキンさんが来たら、──って、俺にこの仕事頼んできた人がコンキンさんとか言ったわけじゃないけど、とにかくもしそのような音が聞こえてきたら、何を差し置いても全てを捨ててもとにかくこの四角形の内側に入れって言われたって、さっきも説明したろ? そうしないと──さっきも言ったじゃないか、最悪、命を取られるかもしれない、そう言われたって。実際にあの音を聞いたら、依頼主の言葉は正しい。そう思わざるを得なかったよ」


俺の言葉を聞いた男は信じられないように目を剥いた。


「あ、アンタ、そんなこと言われてよく来たな、独りで!」

「いや、仕事だし。それに、危ないのは黄昏時だけだって言われてたし。君の車があんなに煩い改造車じゃなかったら、多分コンキンさんだって出てこなかったと思うし」


「そ、それは……」


決まり悪そうに視線をあちこちうろうろさせる男に、俺は爆弾を落としてやった。


「コンキンさんに耐えてる間に閃いたんだけど、君が同じ道をぐるぐる走る羽目になったのは、君の自業自得だと思うんだよね」


「なっ……!」


男は絶句した。


「何言ってんのコイツ、とか言いたいんだろうけどさ」


俺が先回りして言ってやると、男は目を白黒させた。


「最初にこの道を通った時、君、窓からペットボトルを捨てただろう。まだ中身の入ったやつ。おまけに、蓋をきっちり閉めてなかった。だから君の飲み残しのジュースが思いっきりこぼれて掛かったんだよね、祠のひとつに」


覚えがあるよね? そう言うと、男は口を開いて何かを言おうとしたらしいが、力なく閉じた。


「あれだよ。あれがいけなかったんだ。多分」


専門家(・・・)じゃないから断言は出来ないけど、きっとそういうことなんだ。


「君だってさ、日本の昔話のひとつやふたつ、聞いたことあるだろ? アニメの『まんが日本昔ばなし』とか観たことない? あれ何度も再放送してるし」


「ある、けど……」


「そういうお話の中に、狸に化かされてぐるぐる道に迷っていつまでも目的地に着けなかったり、風呂だと思わされて池に入ってそこで溺れ死んだりとか、そいういうのがあっただろ?」


「……」


「君は、怒らせちゃいけない相手を怒らせたんだよ。誰だってさ、何もしてないのにいきなりペットボトルぶつけられて、中身をバシャッてやられたりしたら怒るだろ? そういうことだよ。ま、相手は狸じゃなくて祠の──神様、なのかな。何が祀られているのかまでは聞いてないから知らないけど……怒らせなきゃ、こんな目に遭うことは無かったんだよ」


「そんなこと……」


言いかける男の声は震えてる。


「信じられないなら別にいいけど、このままだとまたぐるぐる道に迷うことになると思うな。どこにたどり着くことも出来ず、君は永遠にこの道を彷徨うんだ……」


さっきまでもそうだったろ? と俺は指摘してやった。男の顔色がまた悪くなった。


「もし俺がここにいなければ、君はぐるぐる道に迷った結果コンキンさんに遭ってしまい、命を失ってただろうと思うよ。俺の存在は君にとって、嵐の夜、荒波に揉まれる船から見える灯台の光みたいなものだったんだと思う。他に車も来ない、見渡す限り誰もいない草原で、ただ一人だけ君が見つけることが出来た自分以外の誰か。それが俺だ」


「……」


「でもね、俺からすれば、君に巻き込まれたってことになるんだ」


迷惑だよなぁ、と言ってやると、男は身を竦めた。ちょっとくらい分かってくれただろうか、自分の立場を。


「本当だったら今頃はもうバスに揺られてたはずなんだよ。コンキンさんであんな恐ろしい目に遭う必要は、俺には無かったんだ」


「わ、悪かったよ、俺が悪かった……!」


男はがばっと土下座した。


「俺、どうしたらいいんだ? なあ、教えてくれよ……!」


切羽詰って恐ろしくなったのか、藁をも掴むかのように足に縋りついてくる。おいこらヤメロ。お前はお宮で俺は貫一か。ここは熱海の海岸じゃないんだからさぁ。ったく、ヤローにしがみつかれてもうれしくも何とも……。ま、話を聞いてもらいやすくなったみたいだし、いいか。


「君はもう、やるべきことをやった。だから大丈夫」


俺は請け合ってやった。男はぽかんと口を開けている。


「君が買ったアンパンを俺が預かって、祠の神様にお供えした。そんで、君の代わりに「今年もお願いします」と祈っておいた。それがどうやら聞き届けられたみたいだから、もう大丈夫」


心配しなくていいよ、と男を安心させるように言う。


「つまり、どういうこと……?」


「さっき君からもらった百円。それがポイント。分からないかい?」

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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