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コンキンさん 2016年5月15日 7

一番近い祠は、最後にアンパンを供えたところだ。


音に追い立てられるように、俺は草叢に走り込む。男は掴まれた腕の痛みを訴えるが、今は構っていられない。



コーーーオオオオオオーオーオーンンンンン

コキーイーイイイーイイーイイーインンン



音が、追いかけてくる。近づいてくる。

早く、早く。祠へ、祠の裏側へ。


何とも知れない恐怖に急かされるまま、さっき草を刈ったばかりのエリアに辿り着いた。足を止めずに直進し、四つの祠を頂点とする大きな四角形の内側に飛び込む。


「……!」


男もろともそこに転がり込んだ瞬間、目に見えない何かを突き抜けたような気がした。勢いのまま草叢に倒れ込み、荒い息をつく。枯れたような硬い根っこが痛い。もうちょっと刈っておけば良かったな……。隣では、同じように転がっている男が俺よりも苦しそうにヒーヒーゼーゼー息を荒げていた。──若いのに、運動不足じゃないか? 


そんなことを考えて現実逃避をしている間にも、音は近づいてくる。



コオーーーーーーオオオオオオオオオオオオオォン

コキィーーーーーーーイイイーイイイイーーーィーン



ついに、祠のすぐ近くまで来た。背中にぶわっと冷や汗がにじむ。



コオオオオオオオオオーオオオオオオオオオオオーンンンン

コキィーーーーイイイイイイイイーーーーーイイイーーンン



耳を塞いで蹲る。



コオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーオオーンンン

コキィィーーーーーーーイイイイイイイイイイイイイイーーーィィン



音が、荒れ狂う。四方八方から囲い込んで押し潰そうとする。だけど、四つの祠を結んだ四角形の内側にいる限り、大丈夫、なはずだ。


全身の肌がそそけ立つような恐怖の中、目も耳も閉じてひたすら耐えてどれくらい経っただろう。音の暴風が弱まった。潮が引くように、だんだん遠くなっていく。──そのことに気づきホッとして、ようやく少し身体の力を抜くことが出来た。


「な、なあ、あれ、何なんだ、よ……」


俺と一緒に声も出せずに縮こまっていた男も、ようやく身体の自由が戻ってきたようだ。震えるような小声で訊ねてくる。だけど、俺はそれを手で制した。



コーーォン

コキィーン



遠くなってはいるけど、まだ聞こえる。俺は堪え切れず身震いした。今日ここに来て、こんなに恐ろしい思いをするとは思わなかった。



コー……ン

コ……ィーン



コ……

キ……ィ



ォォ……

ィィ……



……ォ

…ィ



ォ……

……



まだ微かに音が響いてる気がする……、だけどもう、危機は脱したはずだ。──大丈夫だよな……? 


風だけが変わらずざわめいている。草叢をざわめかせている。俺はさらに息を潜め、完全に聞こえなくなるのを待った。


「アンタ、何で……この音。あ、アンタ知ってるのか?」


知ってるのかと聞かれても、こう答えるしかない。


「知らない」


素っ気無く首を振る俺に、男は喚いた。


「んなわけねえだろ! 知ってるから逃げたんじゃないのかよ!? 無理やり俺まで引っ張ってさあ!」


幽霊を見たみたいに顔色が悪いのに、さっきまでの恐怖のせいか目だけがギラギラしてる。形振り構わず走ったり、草叢に転がったりしたせいであちこち泥砂まみれになってるし、髪もぼさぼさで酷い格好だ。ま、俺も似たようなもんだろうけど。


「あの木を打ちつけるような音が何なのかは知らない。ただ──」


俺はそれを言うのを躊躇った。だってさ、頭おかしい人と思われたら嫌じゃないか。たとえ、それが改造車乗り回して騒音公害撒き散らすようなヤツだとしても。


うーん、と悩んでいると、そんな俺を見てどう思ったのか、男はじりっと後ずさった。


「……ってゆーか、アンタこんなとこで何やってたんだよ? おっかしーじゃねーか、こんな草しか生えてないようなとこで。なあ、アンタ……」


ほんとうににんげんか?

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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