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コンキンさん 2016年5月15日 5

ぼばっぶぼっぶぶぼっぼっぼっぶっぶっぼっばっ



道路の緩いスロープの向こうから現れたのは──、同じ車だと思うんだけど、なんだろう……初めに見た時はツヤツヤピカピカ、まるでゴキ、いや、その、お台所のあの害虫の羽根のように滑らかな輝きを放っていたのに、今は……。


過酷なパリ・ダカールラリーから辛くも生還した車体のように、砂埃だの何だので薄っすらと汚れている。今日は一体何千キロ走行したんだ? って聞きたくなるくらい。


俺が唖然と見ていると、



ぼっばっばっぼぼっぼすっべこんべこん



何とか普通に走っているように見えていた車が、俺の目の前で



べこんばすんべこんべこん



ついにそのエンジンを止めてしまった。


うぃーんと運転席側の窓が開き、そこから若い男が顔をのぞかせる。染めすぎて艶を無くしたパサパサの髪が不潔っぽい。


「な、なあアンタ、さっきもここに居なかったか?」


上擦った声。問い掛けてくる、その顔色は悪い。


「……」


周囲は見渡す限り丈高い草叢の、似たような風景だ。だから、この男からすれば俺が最初の場所から動いていないように見えても不思議じゃない。でも、どう説明すればいいかなぁ。


「なあ!」


俺が悩んでいると、焦れたように声が大きくなった。こんな車に乗ってるようなヤツはすぐ暴力に訴えるイメージがある。喧嘩売られたらやだなぁ……


「君がペットボトル捨てた時に居た場所はここじゃない。あっちに向かって百メートルほどだよ」


俺は東の方向を指差した。大して離れてない。車ならすぐだ。


「こっから百メートル……」


男は呟いた。


「百メートルどころか、もっともっと走ってるよ! 何でどこにも着かないんだよ! 景色がずっと同じなんだ……」


おかしなことを言う男に、俺は首をひねった。


「え? この道を行ったり来たりしてるだけだったじゃないか、君。そりゃ景色も変わらないよ」


「そんなはず……」


「いやいや、ずっとこの車のエンジンの音が聞こえてたよ。うるさ、いや、特徴的だからすぐ分かる」


俺は道路の先を指で示した。


「俺が最初にこの車を見た時、ペットボトルポイ捨てして向こうの方に走って行った。俺はそのまま草を掻き分けて奥に分け入ったんだけど、しばらくしたらまた同じエンジン音が聞こえてきた。だから、戻ってきたんだと思ってた。それがまたもや遠ざかったと思ったら、同じようにまた近づいてきて……わざわざ行ったり来たりしてると思ってたんだけど、違うのかい?」


「違ぇ! そんなことしてねぇ……!」


男はハンドルに伏せて、わめいた。


「俺は、ずーっとずーっと真っ直ぐに走ってたんだ。Uターンなんかしてねぇ! 脇道も曲がり角も無かった。ずっと同じ道を走ってたんだよ! それなのに……なんでだよ……!」


何でと言われても……。


「居眠り運転してたんじゃないのか?」


あるいは、おかしなドラッグ、とか? うわあ。事故ったらどうするんだよ。


「ギンギンに眼開いてたよ。居眠ってなんかいねぇ!」


それに、俺は酒とタバコ以外はやらない主義だ、と男は胸を張った。


「そ、それは立派な心掛けだね。だけど、本当にずっとこの車のエンジン音が前の道を行ったり来たりしてたんだけどな──」


俺はうーん、と唸りながら答えを求めて空を見た。そこには白い綿を敷き詰めたみたいな雲が一面に広がってるだけだ。ところどころ薄く光る、明るい雲。色んな色調の緑に覆われた初夏の山が良く映える……。


あ!

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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