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コンキンさん 2016年5月15日 4

怖いのか何なのか分からない。頭が真っ白になって、そこから動けなかった。ただひたすらに畏れ、平伏したいと無意識に思わせる──


圧倒的な、何か。


ああ、目を開けて前を見ているはずなのに、何も見えない。この、まま……お、れ、は──


ふぅっと意識が途切れそうになり、俺は目を閉じた。いきなり生じたひどく頼りない体感は、現実感を遠いものにする。このまま倒れて果てるのか? そう思った一瞬の空白に、先ほどまで俺を支配していた何かが消え失せた。


「え……?」


目の前には、祠。さっき清掃して草刈りして御供え物を供えた……、って、あれ?


「おいしい棒が、消えた……?」


紙皿に盛って供えたはずの、おいしい棒が無い。五本とも。紙皿だけがそこにある。


おかしいな。俺、供えたつもりで供えてない? そう思って横に置いていたバッグの中を見たら、おいしい棒の包装だけがコンビニ袋の中から出てきた。帰ってから捨てるつもりで中に入れてたんだ。


ってことは、確かに供えたということになる。


ささーさーっと風が吹く。草叢の上を渡っていく。何ごとも無かったみたいに。俺は、どう考えればいいんだろう。


そんなふうに立ち尽くし、悩んでいる間も風が吹く。ざざーざー……揺れる草の海に沈められるみたいだ。


ざざーざー

ざざーざーん

ざざざーざーんざーん


風が、強い。それの生み出す草の波も。


──あ、そうか。


「風でどっか転がっていったんだな!」


おいしい棒、横向きだと転がりやすいもんな。紙皿に盛るときだって、うっかりすると丸太みたいに転がってたし。おまけに軽い。だから突風に飛ばされたっていうのが一番有り得そうだ。


思えば、さっきの声みたいなのも風だろう。太い草の根っこの隙間なんかを、強い風が吹き抜けて笛みたいな音になったんだ。何ていったっけ、そう、虎落笛(もがりぶえ)。冬の季語だから季節外れだけど。


風の音を怖がるなんて、俺は子供か! 空耳で、実はちびりそうになったなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。


「はあ……」


俺は思わず溜息をついていた。だけど、まあいいか。この四つめの祠で最後だからって、気が抜けてただけだ、うん。帰ってから依頼主に報告するまでが仕事なんだから、しっかりしないと。俺は、ぱん、と顔を叩いて気合を入れる。 


「さて、帰るか」


俺は清掃用具などの荷物をまとめた。残っていた紙皿もついでに回収しておいしい棒の包装と一緒にまとめる。──風でどっか行っちゃったとはいえ、一応お供えはしたんだし、こういうのは筋を通したならそれでいいんだと慈恩堂の店主も言ってた。


だけど……


俺はやっぱり紙皿を祠の前に戻して、自分用に持ってたアンパンを供えた。

ま、何ていうか、どうしてもこう、気になる。だからやっぱりもう一度お供えをしておこうと思ったんだ。


さすがにアンパンは風くらいで転がったり飛んだりしないだろう。

俺は再度祠に手を合わせ、今度こそ帰ろうとした。えーと、バスの時間は……


来た時に確認しておいたバス停の時刻表を思い出そうとしていると、またもや煩い改造車のエンジン音が聞こえてきた。



ぼぼっばぼっばばぶぉっばっぼっぼっぶぼっぼぼっ



……なんか、調子悪そうだなぁ。


俺は一番最初の祠からコの字型に移動してきたから、今は元の道に戻ってきてる。だから、すぐにまたあの黒い車が走ってくる姿が見えるはずだった。


果たして。

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□■□ 逃げる太陽シリーズ □■□
あっちの<俺>もこっちの<俺>も、元はみんな同じ<俺>。
『一年で一番長い日』本編。完結済み。関連続編有り。
『俺は名無しの何でも屋! ~日常のちょっとしたご不便、お困りごとを地味に解決します~(旧題:何でも屋の<俺>の四季)』慈恩堂以外の<俺>の日常。
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