コンキンさん 2016年5月15日 1
出掛ける前に慌てて投稿したので、サブタイトルを間違いました。
「2016年5月15日 コンキンさん 1」からこちらに訂正します。
曇りすぎず、照りすぎず、過ごしやすい天気。
まあ、わりと暑いんだけど。
道の両側に生い茂る青草が風にざわめく。吹き過ぎるその足跡を追って東に進む。道路は舗装されているので歩くのに不自由は無い。目的地はあともう少し、のはず。ここまで電車、バスと乗り継ぎ、バス停からもけっこう歩いてる。
えーと、確か、目印は……
依頼主の竜田さんから聞いた小さな石の祠を探して目を凝らそうとした時、遠くの方から物凄く煩い爆音が聞こえてきた。
ぶぉんぶぉんぉんぉんぉぶろろろろぉ~!
なんだ? などと思う暇も無く、道の向こうから黒い車が走ってきた。改造車か……?
ぼぉんぼぉんぼぉんぼばぼばぼばばばぉぉぉ~ん!
道の端を歩いてる人間のことなんか何にも考えてないような勢いの車が、耳の痛くなるようなエンジン音を響かせて走り去る。すれ違いざま、開いた窓の隙間からまだ中身の残ってそうなペットボトルを投げ捨てて行った。マナーが悪いなぁ……。
それにしても。
「何が楽しくてこんな田舎道を、あんな車で……」
だって、シャコタン? だったしさ。異様に車高が低いやつ。あれじゃあちょっと山道に入ったら腹を擦るんじゃないか? まあ、この道は真っ直ぐな舗装道路なんだけど。新車の足慣らしか?
ま、そんなことはどうでもいいか。とりあえず、ゴミは拾っておくことにしよう。えーと、放物線を描いて飛んで行ったのは──。
「ここか」
やれやれ、と思いつつそれを拾おうと屈んだ時、俺は青草の陰に石で出来た祠を発見した。これが竜田さんから聞いていた目印だと、すぐに分かった。
分かったけど。
「う……!」
俺は思わず呻いていた。ペットボトルの蓋がきちんと閉まってなかったらしく、中身が祠に掛かってしまってる。うわー、嘘っぽいオレンジの匂いが漂っちゃってるよ。
「罰当たりだなぁ……」
自分のやったことじゃないけど、ごめんなさい、すみません、と心の中で謝りつつ、俺は祠の清掃を始めた。こんなこともあろうかと、ふふ、背中に背負ったこの重い荷物の中には、水道の水を入れた五百ミリのペットボトルを三本も入れてあるのだ。
ここにある祠の清掃が、本日の俺の仕事だ。清掃後に御供え物をすることも含まれる。もう何十年もずっと依頼主の竜田さんがそれをしてきたらしいんだけど、今年は運悪くしばらく入院することになったんだそうだ。
どうしようかと困っていたところに、竜田さんと付き合いのある古道具屋、慈恩堂の真久部さんが、「自分の知り合いの何でも屋なら、それをするのに打ってつけだと思うのだが、どうか?」と提案してきたんだそうだ。──慈恩堂店主の紹介で、っていうのがちょっと不安だ。あの人に頼まれる仕事って、いつも何だか不思議というか、怪しいというか、信じられないというか……。
やめよう。今はそんなこと関係無いはずだ。
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