四月の寒の戻り 慈恩堂店主風邪を引く
この話は『一年で一番長い日』にある「別の年の<俺> 四月 寒の戻り余波 1」の後半と「別の年の<俺> 寒の戻り余話」「四月 寒の戻り余波 2 終」と全く同じなので、既読の方はスルーしてください。
整理整頓の一環としてこちらに全部移してしまってもいいかも…とは思ったのですが、あちらは「寒の戻り」で話が繋がっているので分離することは出来ず、慈恩堂関連の分だけをこちらに。自分でも忘れていたほど埋もれがちな話でした。
4月○×日
買い物代行したり、雨で痛んだ古い板塀を簡単に修理したり、小学生の算盤塾送迎なんかをやってるうちに今日も一日が終わる。夕方の散歩では、タロに「明後日にはじーちゃんが帰ってくるからな」と話しかけたりもしたんだが、タロはやっぱり元気が無かった。可哀想だけど、こればっかりはなぁ。じーちゃんはちゃんと帰って来るんだから、堪えろ、タロ。
そんなこんなで、遅くなった夕飯。疲れたせいか酸っぱ甘いものが食べたくなった俺は、イワシの南蛮漬けに挑戦してみた。スライサーで薄く切って水に晒したタマネギと、同じく薄く棒状に切った人参を一緒に漬け込んでみると、けっこういい感じ。これで後、残ったたまねぎのヘタと乾燥ワカメで味噌汁でも作るかな、というところで、古道具屋の慈恩堂さんから明日のヘルプ依頼が来た。
なんと、店主真久部さんも、この寒の戻りに油断して風邪を引いてしまったんだそうだ。
寝込んでいる間、店を閉めておくことが出来ればいいのだが、明日はどうしても開けないといけないのだという。何でも、断れない来客が来るのだとか。
慈恩堂の店番か・・・気が進まないなぁ・・・
そんな俺の気持ちは百も承知の真久部さんは、ここぞとばかりに高い報酬を約束して来る。そうなると、万年ふところが寒い俺としては、断るという選択なんか出来ないわけだ。もったいなくて。
くぅっ! 策士め!
4月×△日
今日も朝からとてもいい天気だ。青空が眩しい。
寒の戻りの後は、反動なのかいつも急激に暖かくなるような気がする。どーんと冷えて、どーんと暖かくなって。
うん。そりゃ、誰でも風邪を引きやすくなるよな。身体が馴れないもん。
昨日に引き続き、石田さんを見舞ってから、石田さんの愛犬タロの散歩に行った。明日にはじーちゃん帰ってくるから、あと一息の辛抱だ。頑張れタロよ。
午前中、服部さんちの庭の草むしりをして、午後からは慈恩堂の店番に行く予定だ。
・・・気が進まないなぁ。
だけど、もう請けてしまったんだからしょうがない。腹をくくるかぁ。
4月△○日
昨日の慈恩堂の店番は、ものすご~く普通に終わった。
掛け軸の中の絵が、見るたび少しずつ微妙に違って見えるような気がするとか。
古い張子の虎の首が、風も無いのに上下に揺れてたりとか。
ちゃんと箱に入れてあるのに、目を離すと何故か下に落ちてる煙管とか。
そんなもん、もう慣れた。慈恩堂ではよくあることだし、気にしたら負けだと思ってる。
──来ると聞いてた客は、結局来なかったしな。
店番より大変だったのは、店の二階で臥せってる店主の看病かな。
熱で目は潤んでるし、ハナはずるずるしてるし。今日退院して無事愛犬タロの許に戻った石田さんほどじゃなかったけど、かなりキツそうだった。なのに、病院へ行くのは嫌がるし。まあ、真久部さんは年寄りではないから体力はあるだろう。年齢不詳だけど。
柔らかアイス○ンを枕代わりにして、額には冷え○タ貼って。食べたくないとぐずるのを宥めてお粥を食べさせ、市販の感冒薬を服ませて。
ん? お粥は俺が作ったよ。一階の台所で。ここんちも、店舗兼住宅なんだよな。冷蔵庫の奥で発見した桃缶を小さめに刻んで出したら、喜んでくれた。
午後にはだいぶ顔色も良くなり、寝息も穏やかになってたんで、安心した。
夕方六時ごろに目を覚まし、空腹を訴えたので、今度は卵粥を。食欲も出てきたようで、鍋一杯ぶんをペロリと平らげ、また薬を服んだ。
七時前に犬の散歩依頼が入ってたから、「もしまた具合が悪くなったら携帯に連絡くださいよ」と言って慈恩堂を出てきた。この店の閉店作業も慣れたもんよ。馴れたくなかったけど。
今朝電話してみたら、もう自力でお粥を作ることが出来たらしい。良かった。「薬も忘れずにちゃんと服んでくださいよ」と念押ししたら、笑ってたけど。
「こんなに酷い風邪を引いたのは、十年ぶりです」と言ってた。引きたくなくても引いてしまうのが風邪。俺も気をつけよう、うん。風邪引くと怒られるんだ。元義弟の智晴とか、智晴とか、元妻とか、娘のののかに。なにも好き好んで引くわけじゃないのに・・・
理不尽だ。
それにつけても、寒の戻り、怖い。
なんと、昨日はあれからまたポイントを入れてくださる方がいて、ジャンル別日間5位にまで上がっていてびっくり。目を疑いつつも凝視してしまいました(少々目が血走っていたかもしれません)。こんなことは滅多に無い! とばかりに初スクリーンショットを撮って大切に保存しました。
今日も投稿管理画面を見たら、あれからまた増えてる…? こちらは文字数が少ないので、『何でも屋の<俺>の四季』より多くなるとは思いませんでした。本編の『一年で一番長い日』すら越しそうな勢いです。
ポイント、ブックマーク、評価を下さった方、ありがとうございます。前からの方もありがとうございます。励みになります。




